第2話 拳

 修行の日々を過ごしてきた俺は15歳の年となり、共テの日を迎えた。

 今日この日まで体を鍛え続けた結果、前世の最盛期を優に超えた肉体を得ることが出来た。ただこの世界ではどれだけ肉体を鍛えたとしても異能を持つ者たちの実力には及ばないため、俺はまだまだ鍛えていく必要がある。だからこそ切磋琢磨をしていくために共テでいい成績をとり、上位の学園に入学するんだ。


「【異能力共通測定テスト】の会場はこちらです」


「ついにこの日が来たのか……」


 前世の大学受験よりも緊張するな。前世の受験はたいして勉強していなかったから緊張しなかったんだけど、この共テに向けての勉強や肉体作りは前世一生分の努力を足しても足らないほどの努力を積み重ねてきたから、その分緊張がすごいな。


 周りを見てみると自分以上の実力者たちがうようよ居るのが分かる。虫のような触覚を持っている者や氷を体に纏っている者などいろいろな異能持ちがいるんだな。


「全員そろったようなので、これから【異能力共通測定テスト】を始めます。本日試験監督を務めるカイ・ウォーカーだ」


「おいカイ・ウォーカーって」


 試験管の名前を聞いて教室がざわつき始めた。

 カイ・ウォーカーという名前は世間に疎い俺でも知っているほどの有名人だ。彼は王国陸軍少将で秘密結社『グリフォン』掃討作戦で名をあげ、勲章を授かった実力者だ。


 そんな実力者を栄えてるとは言っても王都や領都ほどではないこの地に派遣出来る程この国は異能者の層が厚いことが分かるな。


「では基本学力測定テストを始める。開始!」


 このテストは前世で言う数学、国語、歴史を混ぜ合わせた総合的なテストだ。難易度で言うと、数学だけは勉強しなくても前世の知識だけで解けるような問題ばかりで簡単なのだが、国語や歴史はこの世界独特のもので一から勉強することになり大変だった。

 ただ前世の英語や歴史に比べて学ぶ総量は圧倒的に少なく、2年間全力で勉強したら完璧に近い物にすることが出来た。


 筆記テストを終えたが、かなり手ごたえを感じている。勉強していたって言いうのもあるが、山勘があたってくれたってのが一番だったな。


「次の試験は広場にて行うため、時間までに広場に集合するように」


 ついにこの試験で最も重要で難易度の高い異能力測定が始まる。

 ほかの受験者からしたら筆記よりも簡単なのかもしれないが、俺からしたら異能を使わずに異能力測定を突破するなんて無理ゲーをやらなければならないんだからな。


「これから異能力測定テストを始める。名前を呼ばれたものから、あの的に向けて異能を使った攻撃を放て」


 一番最初の人は見た感じ水を操るような異能ぽいな。

 俺の予想は当たり、最初の人は水を一点に集中させて銃弾かのごとく撃った。その攻撃はかなり固いはずの的を貫き、その奥の壁を二枚ほどを貫いてやっと勢いがなくなった。

 これが最低限のボーダーになるわけか……ほかの人もこれくらいの攻撃を用意していた場合、俺の勝ち目は薄いかもしれないな。まあここまで頑張ってきたんだ。俺が出来ることは最後までやり抜くことだけだ。


「次はルーベン・アルベルト」


 次の受験生はほかの人たちに比べて異彩を放っていた。基本的に受験生たちは動きやすい服に身を包んでいるのだが、そのルーベン・アルベルトという男性は豪華絢爛な服装で身を包み、さらに右手には手のひらの中心に穴の開いた手袋のようなものをつけているのが異彩を放っている最もの原因だろうな。


流電ルーデン


 彼の手のひらから的に向かって電気の筋が一直線に伸びた。的に着弾したその瞬間、的は焼け焦げ、周りへ電流をまき散らした。


 こいつは圧倒的だな。ほかの受験生たちとは比べるのがおこがましいほど飛びぬけた才能と実力を持っている天才と呼ばれる類の人間だな。才能がない俺とは真逆の存在だな。


「ふむ流石アルベルト家の生まれだな」


「チッ…血で判断するんじゃねぇ!」


 天才には天才の悩みがあるんだな。凡人の俺には理解が及ばない域の考え方だな。血のおかげで才能を持って生まれたとしても、それは才能を持って生まれた自身の力のはずなのにそれを嫌がるのは傲慢としか言えないな。まあこれは凡人の考えに過ぎないかもしれないがな。


 そして俺の番がやってきた。


「本気でやるんだぞ。次はランスロット・ファーガソン」


「はい!」


 気合を入れるために大声で返事をしたが、これで全然記録を出せなかったら恥ずかしいな。

 それにしても本気でやるのなんていつぶりだろうな。


「ふぅ……ハァ!」


 俺はいままで練習してきたように拳を正面の的に向かって突き出した。

 その刹那、爆発音が広場に響き渡り、その後広場は静寂に包まれた。

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