第25話【幕間】迫る影

 緋色の牙【スカーレット・ファング】は窮地に立たされていた。

 代表を務めるアロンのやることなすことすべてが裏目に出てしまい、その失敗をすべて部下のせいにして自分は一切関知しないという無能ムーブを繰り返し、今やすっかり落ちぶれた弱小商会へと成り下がってしまった。


「クソッ! クソッ!」


 力任せに執務机を蹴りまくるアロン。

 そんなことをしても事態が好転するはずもないのだが、それ以外にこの状況を一時でも忘れられる方法をアロンは知らない。


 やがて、彼の思考はいつもの場所へとたどり着く。


「これもすべてはジャックのせいだ……ヤツのせいで……」


 自分で追放をしておきながら、ジャックの責任だと擦りつける不毛な行為。

 すでに彼の脳内は「ジャックの邪魔がなければ商会はまた軌道に乗る」という妄想に支配されていた。



 一方、傭兵部隊の隊長を務めるレグロスは密かにジャックを探していた。

 今さら彼が戻ってくると思ってはいないが、交渉するしかないと判断した結果であった。


 本来ならば落ち目の商会に見切りをつけて抜けだすということもできるが、責任感の強いレグロスは部下たちを路頭に迷わせまいと考え、その結果たどり着いたのがジャックの再雇用であった。


 可能性としては限りなくゼロに近いが、もし可能であれば待遇改善に向けて直談判をするつもりでいる。

 もっとも、傲慢なアロンが己の非を認め、待遇改善に応じる可能性は低い。だが、彼も商会を潰して無職になるのだけは避けたいはずだ。交渉材料としてはそこを突くしかない。


 レグロスはこれまでの伝手を利用し、ジャックの足取りを追った。


 当然ほとんどが空振りに終わるものの、とある町で有力な情報を手にする。


「あぁ、付与効果スキルを持ったヤツならつい最近見かけたぞ」

「ほ、本当か!?」

「そこにとめてあった馬車の車輪が壊れて困っていた爺さんを助けていたよ。確か、名のある貴族に仕える執事だったか……」

「貴族の執事? どこの者か覚えてはいないか?」

「なぁんて言ったかなぁ……ほら、娘さんがご病気で離島暮らしをしているっていう……」

「っ!?」


 その情報にピタリと当てはまる貴族をレグロスは知っていた。


「ハドルストン家、か……」


 ついにレグロスはジャックに迫る大きなヒントを得たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る