第15話 志那乃の弟(2)

向一「え?まだ……?」

志那乃「へえ、まだ。天理医療大学の学生ですねんけど」

向一「……ははあ、医科大学ですか。それならそこでそのままインターンをされて……それはそれは。ご自慢の弟さんですね」

志那乃「(笑い)学生はん、ずいぶん年の行ったような云い方をされて(笑い)」

向一「は、はあ、すいません。生意気を云ってしまいました。おそらく……僕より年上の方をつかまえて」

志那乃「いいえそれは……うーん、でもどうでっしゃろ。学生はん、失礼ですけどいま年おいくつですか?」

向一「21です」

志那乃「21……ほならいっしょです、弟と。うちの弟も21、もうずっと変わらへん」

向一「?」

志那乃「……死にました。2年前に。自殺です」

団子屋の間口死角にいたカラスが突然間口を横切る形で飛び立つ。向一驚くが志那乃は平然としている。向一何を云っていいか判らず脇に置いた自分のカメラの電子やモード切替ダイアルをいじっては返事を考えるがなかなか言葉が浮かばない。

志那乃「まあ、まあ、しょうもない話をしてもうて、うちは……(軽笑)すんまへん。堪忍しとくれやすな、学生はん。あんさんが法隆寺でいじけてはったのを見たとき、つい弟を思い出してもうて…余計なお誘いをしたばかりか、こないわやくちゃ(滅茶苦茶)まで聞かせてもうた(軽笑)」

向一「いいえ!……あ、あの、ぼくは、その……その、なんと云ったらいいか……あなたをお慰めも出来なくて……」

志那乃「まあ……おおきに(礼をする)。うちのような女にご親切賜りまして。(小声で)かいらしい(可愛い)ぼんぼんや。いえね、もう2年も経ってもうて、うちはもう何とも思うてまへんの。

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