第13話 学生らの因縁付け
正夫や親戚の男連中が数人廊下に出て来る。
正夫「こ、こら、太、止めえ!お、叔父さんになんてことを……」
親戚男A(50位)「太!止めんか!手を離せ!」
親戚男B(30位)「太兄さん、葬式やで!葬式!場所をわきまえんと……」
男総がかりで太を離す。祭壇前で目をキョロキョロさせながら、読経も途切れがちな僧侶。力なく顔をハンカチで覆う律子。
〇斑鳩の里・道端の茶屋
向一と志那乃が縁台に腰掛けている。学生風の若い男たち数人が通りかかる。
学生A(20位)「おいおい、見てみぃ、あれ」
学生B(20位)「おう……ええなあ、妬けるなあ」
学生C(20位)「若い男と並んで腰かけて……ご新造はん、旦はんに云いつけまっせ」
学生A、B、C「(揃って哄笑)」
云い返そうとする向一を手で制して、
志那乃「それはお目の毒でしたなあ。一昨日(おとつい)お越しやす」
志那乃の度胸の良さに毒気を抜かれて通り過ぎる男たち。
向一「失礼なやつらですね」
志那乃「お気にせんと。それよりここのお茶とお団子をお召しやすな。評判がようて美味しいおすえ」
気を取り直して勧めに応じる向一。うららかな正月の青空。大池をはさんで薬師寺の遠景が見える。
志那乃「学生はん、仏像を見るときは目がきつうおすなあ。なんでやろ」
向一「あの……仏像に込められた想いを感じようとしているのです」
志那乃「込められた想い?仏師の……ですか?」
向一「両方です。仏師と、その仏像を拝んだ人たちの、両方」
志那乃「ふうん、そやったら、そこから悲しい想いが伝わって来まへんでしたか?」
向一「なぜそう思うのです?」
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