第38話 伝説の刀

「「こんにちは〜」」


 こぢんまりした門構えの鍛冶屋に到着すると、精悍せいかんな顔つきをした無愛想な男が出迎えてくれる。


「いらっしゃい」


 それだけ言うと男は手に持っているハンマーを赤く熱された刀状の鉄に打ち付け始める。


「武器を探してるんですけど、何か良いのありますか?」


 男は手を止め、無言でこの店に置いてある武器を全て見せてくれる。武器は全て刀状の片手剣武器だったが、現在の装備であるロングソード+9に勝る武器は無かった。

 俺達の心境を察したのか、男が無愛想なまま口を開く。


「不満か?」


「い、いえ。そういう訳では無いんですが……」


「今あるのはどこにでも流通している鉄で鍛えたものだからな。城の最奥部に保管されているという【玉鋼たまはがね】でもあればお前さん達のお眼鏡に適うものも鍛えられるんだが……」


「本当ですか!?」


 武器に飢えるあまり食い気味に返事してしまった。


「ああ。先代が残した二組の刀【紅蓮刀ぐれんとう】と【紫電刀しでんとう】の設計図。特殊な製造法ゆえに、頑丈さとしなやかさを兼ね備えた玉鋼でないと鍛造出来ない。手に入れてきてくれればお前達のために鍛えてやる」


「ありがとうございます! すぐに取ってきます!」


「城は今ちょっとゴタゴタしてるらしいから気をつけろよ」


「はい!」


 ゴタゴタって何だろうという疑問はあったが、足は言うことを聞かず城に向かって歩き出していた。


「やったなカエデ! やっと新しい武器が手に入るぞ!」


「そ、そうね……」


 先程からテンションが上がりまくっている俺の相手をして疲れているのかカエデは少し元気がない。だが俺のテンションはまだまだ収まらない。


「しかも二本だぞ二本! 名前も【紅蓮刀】と【紫電刀】で超カッコ良いよな! カエデはどっちがいい?」


「カズトくんに任せるわ……」


「じゃあ実際に見てから決めるか! 名前だけなら紅蓮刀だけどな〜」


 その後もテンション高くカエデに話しかけ続けながら城へと歩き続けた。


 間近で見るお城は圧巻だった。見上げても一番上が見えない城を首を痛めながら見上げていると、声を掛けられた。


「おい、そこの二人。見ない顔だがこんな所で何してる」


 声の主は和風の鎧を纏った中年の男だった。おそらく城の兵士だろう。慌てたカエデがすぐに口を開く。


「あ、怪しいものじゃないんです! ちょっと用事がありまして」


(それは怪しいやつがする返事の常套句じょうとうくだろ……)


「怪しさしかないが……用事とはなんだ?」


 これ以上カエデが話すと面倒くさいことになる気がして、俺が先に答える。


「用事というかお城が大変なことになっていると耳にしまして。何か手助けできることがあればと思い参上しました」


「手助け? どこで聞いたか知らんが、そんなもの要らん」


「こう見えて結構強いんですよ? そこらの魔物ならちょちょいのちょいです」


「そうは見えんがな。それに魔物など現れておらんから必要ない」


「では現在起きている問題だけでも教えて頂けませんか? 教えていただけるまでここから離れません」


「はぁ……じゃあ教えるだけだぞ。一月ほど前になる、この桜姫城おうきじょうの護衛隊長である『義晴隊長よしはるたいちょう』が亡くなられたのだ。死因は不明、だが義晴隊長と幼い頃から親交がある『京楽きょうらく』という男が暗殺したのではないかという噂が立っている。その調査や隊長の死の影響で大忙しという訳だ」


「なるほど、そんなことが……」


「分かったら帰った帰った、俺は忙しいんだ」


 面倒くさそうに手を払われ、俺達はそれに従い桜姫城を後にする。


「隊長の死、そして暗殺の噂か」


「カズト君はどう思う?」


「うーん、今の話だけだとなんとも言えないな。とりあえずやるべき事は決まったし、聞きこみ調査と行こうぜ」


「おっけい、じゃあ二手に分かれて聞きこみしよっか」


 俺達は一時間後に宿で集合ということだけ決め、聞き込みを開始した。



 一時間後……



「どうだった?」


「収穫無し。カエデは?」


「私も。みんな噂で裏切りがあったとかは言ってたけど、それ以上の事は何も知らないみたい」


「そうなんだよな〜、今日のところは一旦休むか」


 そう言って宿に入ろうとしたその時、視界の端の方で船で見かけた美しい黒髪の女性を発見した。


「カエデ!あそこにいるのって」


「あ! 船にいた美人の人! すいませーん!!」


 カエデが大声でその女性に声を掛ける。驚いたように振り向いた女性は一度立ち止まったが、すぐに背中を向けて歩き始めた。カエデは即座に追いかける。


「あ、おい!」


 俺の呼びかける声も聞かず、その女性のもとへ走り出すカエデを仕方なく追いかけた。

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