第三章 ジパング
第36話 謎の少女
「今日でアリアドネともお別れかぁ」
カエデが惜しむように呟く。美しい街並みに新鮮でおいしい海鮮料理、ローデンブルグに負けず劣らず居心地の良い国だった。俺にももちろん寂しい気持ちはある。
港には大勢の人が集結していた。久しぶりのミシシッピ号の出航を見に来た人や船員、乗客は誰もが笑顔を浮かべている。その中に昨日の船員らしき男の人を発見し、目が合った。
「おお! 昨日の冒険者じゃないか。本当に大蛇を倒してくれてたんだな、感謝するよ。若いのにすごいもんだ」
「ありがとうございます。僕達もジパングに行けなくて困ってたので……今日はよろしくお願いします」
「乗船許可証は持ってたよな? もう客室には入れるはずだ、許可証はあそこの受付で渡すんだぞ」
船員はそう言って船の入り口を指さしてくれた。俺達はすぐに受付へ向かう。
「お願いします」
受付の若い女性に乗船許可証を提出する。女性は許可証をじろじろと観察した後、笑顔を浮かべる。
「お二人様ですね、お客様のお部屋は201号室でございます。こちらのカードキーが扉の鍵となっておりますので、紛失しないようお気を付け下さいませ」
丁寧な説明を受けた後、カードキーを受け取る。そのまま奥へ進み二階へと続く階段を上り、201号室の扉を開く。部屋の中は二十畳はあるであろう広さに、
「わぁ~、良いお部屋ね~」
カエデが感嘆の声を漏らす。俺達は部屋の中を少し探索してから、部屋着に着替えベッドに寝転ぶ。その時視界に通知が表示された。メイとスズからのグループメッセージだ。メッセージ機能の中にグループ機能というものがあり、俺とカエデとメイとスズで四人グループを作成していた。もちろんカエデも気付いたようでメニュー画面を操作している。
『やっとジェネシスライダーを倒せたわ! あと共鳴の青雫も王様から貰えたの、教えてくれてありがとね』
『カズトさんとカエデさんのおかげです。お二人はどこまで進みましたか?』
『おめでとう! 私達も今ちょうどアリアドネのボスを倒して第三の国に向かう所だよ』
『はや! 流石ね……何か困ったことがあったら聞いても良い?』
『もちろんいいぞ、メイとスズも何か分かったら教えてくれよ。この前のミニゲームみたいなやつとかな!』
『は、はいっ! じゃあ頑張ってください!』
『お互い頑張ろうね!』
カエデのメッセージを最後にやり取りが終了する。それと同時に船内にアナウンスが鳴り響いた。
「ミシシッピ号にご乗船の皆様。ジパングへの到着は約十八時間後の午前十一時を予定しております。船内のレストランにてビュッフェ形式でのお食事をご用意しております。船内の施設は室内のタブレットからご確認いただけますのでご活用ください」
ピンポンパンポーンという音とともにアナウンスが終了する。案内の通り、ベッドの上の棚にあるタブレットを操作すると船内の案内が表示された。船内にはレストランの他に売店やトレーニングルームなど様々な施設が存在するらしい。
「カエデ! 船内の探索行こうぜ!」
テンションが上がった俺はタブレットで見るだけでは満足できず、実際に船内を見て回りたいと提案する。
「はしゃいじゃって子どもだね~、ちょっと待ってね」
ちょっとバカにされた気もするが一緒に来てくれるらしい。少し準備をしてから二人で部屋を出る。
船内の探索は時間を忘れるほどに楽しかった。トレーニングルームや、船上からの景色、売店などをじっくりと堪能して気付くと既に夜ご飯の時間になっていた。
「そろそろレストランに行かない? お腹空いちゃった~」
「そうだな、行くか!」
レストランの食事はテーブルに置かれた数十種類の料理を自分で取るビュッフェ形式で、見たことのない豪勢な料理だらけだった。テンションが限界突破した俺達は二人して動けないくらい食べてしまった。
「もう一歩も動けない……」
「私も……」
テーブルの上でぐったりしながらレストランの扉をチラッと見ると、背中に長い日本刀のようなものを携えた黒髪ロングの女性が目に入る。その女性が扉を出る直前、何か光るものが落ちた。俺は反射的に椅子から立ち上がり、落とし物へ向かう。
「カズト君!? どうしたの!?」
後ろでカエデが驚いた声を上げるが特に気にする必要はないだろう。落とし物に近づくと綺麗な銀色のペンダントだった。落ちた衝撃で開いたのだろうか、中には可愛らしい少女と父親らしき人物が笑顔を浮かべている写真が入っている。
「すいませーん、これ落としませんでしたか?」
ペンダントを拾ってすぐに黒髪の女性を追いかけ声をかける。声に気付いた女性が振り向くとその美貌に驚く。眉毛の辺りで揃えられたく艶やかな黒髪、吸い込まれそうな漆黒の瞳。俺とそう変わらないであろう身長に淡い水色の和装はまるで大和撫子のようだった。
「ありがとうございます。大事なものでしたので助かりました」
そう言って俺の手からペンダントを取る。表面上は笑顔を浮かべているが、その目はどこか不思議な感情を帯びている気がした。
「わざとじゃないんですけど中が見えてしまって……一緒に写っているのはお父様ですか?」
普段なら絶対にペンダントだけ渡して会話をせずに別れていただろう、しかしなぜかこの女性のことが気になって言葉が零れた。
「はい……もう亡くなってしまったんですが優しい父でした。では失礼します」
俺が言葉を返す前にその女性は目の前から去っていく。わざとではないとはいえ無神経な質問をしてしまった謝罪をしたかったのだが、これ以上話しかけるなという雰囲気を感じた。
「やっと帰ってきた~、カズト君何してたの?」
「ああ、落とし物を届けてきたんだ。ちょっと不思議な人でさ……話でもしようと思ったんだけどダメだったよ」
「へえ、人見知りのカズト君が知らない人と話したいなんて珍しいね」
少し不審そうな顔をしたカエデに俺の感じたことを話す。そうすると納得したように頷いてくれた。
「なるほどね。確かに気になるけどそれじゃ仕方ないか~、話したくないこともあるだろうしね」
「そうだよな……よし、じゃあそろそろ部屋に戻るか」
気にしても仕方ないと俺達は部屋に戻った。
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