第35話 病の完治と別れ

「ロディ、これをジュリに」


 俺達は転移陣でダンジョンの入り口に戻った後すぐにロディとジュリの家に来ていた。ジュリの体調は良くないようで顔は赤く息が荒い。すぐにインベントリ内の万能薬草をロディに手渡す。


「これでジュリを治せる……本当にありがとうございます」


 ロディは俺とカエデに向かって深々と頭を下げる。


「私達が勝手にやったことだから気にしないで大丈夫だよ。それよりジュリに飲ましてあげて」


 カエデがそう言うとロディはすぐに万能薬草を器に入れてすりつぶし始める。俺達がダンジョン攻略している時に色々調べていたんだろう。手際よく準備を済ませ、ジュリの口に万能薬草が入った器を運ぶ。ジュリは少し苦そうに顔を歪めるが、飲み込むとすぐに息の荒さも収まり顔色も元に戻った。


「……ん、あれ? カズトさんとカエデさん?」


「ジュリ、二人が薬草を取ってきてくれたんだ。少しは楽になったか?」


「すごく楽になったよ、信じられないくらい……」


 自分の体調の変化に驚くジュリを見て俺達は心底安堵する。十中八九大丈夫だろうとは思っていたが、薬草が効かない可能性もゼロでは無かった。微笑んで見つめている俺達に気付いたのか、ジュリが上半身を起こして頭を下げる。


「カズトさん、カエデさん。見ず知らずの私のために危険を冒して薬草を取ってきてくださってありがとうございました。何か恩返しをしたいのですが……」


 ジュリが申し訳なさそうに表情を暗くする。受けた恩に何も返すことが出来ない自分が不甲斐ないんだろう。まだ小さい子どもにそんな表情は似合わない。


「本当に大丈夫だよ。勝手にやったことだし、洞窟の奥に用事があったのは俺達も同じなんだ」


「そうだよ! 私達はジュリちゃんの笑顔が見られればそれで満足なの。だから笑って?」


 俺達の言葉を聞いたジュリは少し悩んだ表情をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべてくれた。出会ってから初めて見せるジュリの元気いっぱいな笑顔に母性本能が刺激されたのか、カエデがジュリを抱きしめる。ロディはその様子を目に涙を溜めながら眺めていた。


 出会う前はたった一人で妹のために奮闘していたロディ。俺達の知らない苦悩や責任感、様々な感情もあったはずだ。こんなに小さい子供が危険だと分かっていながら洞窟へ向かう勇気は計り知れるものではない。俺は優しくロディの頭を撫でる。


「よく頑張ったよ、お前はジュリにとってただ一人の英雄だ」


 溜めていた涙がとめどなく溢れ出した。俺のお腹に縋りつくように顔を押し付けるロディを抱きしめる。その様子を見ていたカエデとジュリも笑いながら泣き始め、落ち着くまでに少しの時間を要した。



「じゃあ俺達はそろそろ行くよ」


 すっかり泣き止み元気になったロディとジュリに告げる。二人は満面の笑顔を向けてくれた。


「分かった。本当にありがとうカズトさん、カエデさん」

「お二人は私の命の恩人です。本当にありがとうございました、お気をつけて」


「二人も元気でね! また会おうね」

「ロディ、もう無茶しちゃだめだぞ。ジュリを傍で守ってやってくれ」


 俺の言葉にロディは強く頷いてくれた。それを確認し、ゴンドラに乗り込み貿易船へ向かう。俺達は二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。



 貿易船ミシシッピ号は、アリアドネ東の港に停泊していた。ミシシッピ号は貿易船というだけあって、数十名は船内で寝泊まりできるであろう大きさを誇っている。船内の入り口付近に立っている船員のような風貌をした男に乗船許可証を見せる。


「すいません。ジパングまで行きたいのですが……」


「ああ、すまないがしばらく出航は出来ないんだ。大蛇に襲われてしまうからな」


「大蛇は僕達が撃退しました。なので大丈夫なはずです」


「なに!? それは本当か!?」


「もちろんです。残念ながら証明できるものはありませんが……」


「そうか……分かった。では今日中に大蛇が撃退済みかをこちらで確認する。荷物の手配もまだ完了していないから明日の昼頃にもう一度来てくれるか?」


「分かりました。お願いします」


 船員らしき男は話し終えるとすぐにどこかへ歩いて行った。俺達は戦いの疲れを癒すため、そしてジパングへ向かう準備を整えるため宿へ向かう。


 宿に着き、すべての準備を整えベッドに入りながらメニュー画面を操作する。ウロボロスを倒したことでレベルは20まで上昇し、新しいスキルを入手していた。


【チャージスラッシュ】

・猛スピードで敵に突進し、横薙ぎの二連撃を放つ


 チャージスタブの上位互換と言っていいだろう。スキルパレットの登録を変更し、メニュー画面を閉じる。スキルと防具は順調に更新できている。しかし武器はいまだに初期のロングソードだった。強化はしているとはいえそろそろ上限の+10になってしまう。


「カエデ~、武器ってまだ新しいの手に入らないのかな」


「次の国で手に入りそうじゃない? なんて言ったってジパングだし」


「ジパングだから手に入りそう? どういうことだ?」


「ジパングっていえば日本のことでしょ? 日本刀みたいな強い剣がありそうじゃない」


「た、たしかに……」


 そういえば歴史の授業でジパングという名前を聞いたような……。記憶力の悪さはさておき、新しい武器が手に入るかもしれないという期待に胸を膨らませ俺達は眠りについた。



【名前】:カズト

【レベル】:20

【体力】:690/690

【武器】:ロングソード+9

【防具】:漆黒シリーズ

【装飾品】:共鳴の青雫(スキル:共鳴)

【筋力】:60

【敏捷】:25

【耐久】:25

【魔力】:5

【割り振り可能ポイント】0

【スキルパレット】チャージスラッシュ、カウンター、ウォークライ、サークルエフェクト 

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