第34話 初見殺し
ウロボロスは二つの頭両方に体力ゲージが表示されている。それぞれの頭の攻撃パターンはそこまで複雑ではなく、噛みつきと毒吐き、尻尾を振り回す全体攻撃の大きく三パターン。
最初は避けきれず回復を挟む時もあったが、右と左で担当を分けていることが功を奏したのか今ではダメージを受けることなく攻撃を続けられている。俺とカエデは大体同じように攻撃を与え続け、ウロボロスの体力が半分を切った。
「体力が半分を切った! 一旦離れるぞ!」
俺の叫び声を聞いたカエデは後ろに下がる。俺もカエデに続き後ろに下がろうとした瞬間、カエデを狙っていた右頭が俺に襲い掛かる。間一髪ガードが間に合ったが、左頭がその隙を逃さず俺の体に嚙みついた。
「っっ!!」
「カズト君!」
カエデがすぐに助けに入ってくれ、回復薬と毒消しを使用する時間を稼いでくれる。素早くインベントリを操作して態勢を整えてカエデと合流する。
「助かったカエデ、もう別々に戦うのは無理そうだな」
「そうだね、でも二つの頭から同時に狙われたら危ないし……どうしよう」
「右頭は一旦放置して左頭を集中的に攻撃しよう。ちょっとダメージは受けるかもしれないけど、二つ同時に相手するよりはマシなはずだ」
「分かった。体力も残り半分だしスキル全部使おう!」
作戦が決定し、すぐに俺達は残りのスキルすべてを開放し右頭だけを攻撃する。スキルの打ち終わりに左頭からの攻撃を受けてしまうが気にしない。スキルの集中砲火を受けた右頭は、残り半分の体力をみるみる減らし、消滅した。
「よし! 後は左だけだ」
「スキルは無いけど一つだけなら大丈夫ね」
俺達は山場を越えたと一息つき、張り詰めていた緊張を解く。残された左頭だけを一応警戒しながら回復薬を飲んでいたその時、体の左半分に大きな牙が突き刺さった。
「ぐぅっ!!」
呻き声を漏らしながら体に噛みついたものを確認すると、それは消滅したはずのウロボロスの右頭だった。すぐさま剣で振り払い後ろに下がる。
「なんで右頭が復活してるんだ!」
「分からないわ……私も左頭だけを警戒していたから」
「くそっ、二つ同時に倒さないと駄目なのか? ソロだったら本当に詰んでるじゃないか……」
今のレベルとスキル構成では二つの頭を同時に倒すのはほぼ不可能だろう。だが二人なら攻略法さえ分かってしまえば何とかなる。
「カエデ、これが最後の作戦だ。両方の体力を残りスキル一発で倒せるまで減らす。そしたら合図を出すからカエデは右、俺は左にチャージスタブで止めを刺す。恐らくこれで復活はしないはずだ」
「了解。合図は任せたわ、むきになって無理しちゃだめだよカズト君」
いわば初見殺しの要素に少しの苛立ちを感じていた俺に気付いたのか、カエデが落ち着かせるように言葉をかけてくれた。
「ああ、最後の仕上げだ。やってやろうぜ」
俺達は二つの頭を同時に相手しながら均等に体力を削っていく。一度倒しきった右頭は復活時に体力が三分の一ほどに削れていた。左頭を少し多めに狙い、回復を挟みつつ戦闘を続ける。
五分ほど経った時、二つの頭の体力がスキル一発で削り切れるくらいに減ったことを確認する。
「カエデ! 次の尻尾攻撃を避けたら行くぞ!」
「了解!」
ウロボロスは尻尾の振り回し攻撃の後、少しの隙が生まれる。その隙を狙い、二人でチャージスタブで突進するという作戦だ。何回か噛みつき攻撃を躱した後、ウロボロスは体を大きくくねらせた。
俺達は同時に剣に青白い光を纏わせ大きくジャンプする。その下を毒々しい紫の太い尻尾が通りすぎた時、スキルを発動させる。システムの力により空中で大きく加速し俺は左頭、カエデは右頭に向かって突進を始めた。
俺達の剣が同時にウロボロスの頭を貫き体力ゲージを全損させる。すると頭だけではなく、長い体全てがだんだんと薄くなりやがて消滅した。
「お、終わったの……?」
「おっ、この画面が出たってことは終わったんだろうな」
ウロボロスの消滅から少し後、目の前にボスを撃破したという画面と共にドロップアイテムが表示された。それを確認したカエデは安堵からかその場にへたり込んだ。
【万能薬草】
・どんな病、状態異常をも回復するという薬草
【ミシシッピ号の乗船許可証】
・アリアドネから第三の国ジパングへ出向する貿易船ミシシッピ号の乗船許可証
「これが例の薬草か、やっとジュリの病気を治してあげられるんだな」
「ちょっと待たせちゃったね……早く持って行ってあげなきゃね」
「そうだな、ちょうどすぐそこに転移陣も出てきたみたいだし」
前回のように出口の扉があるわけではなく、ウロボロスの消滅と同時に部屋の中央に転移陣が出現していた。これに入れば入り口まで転移させてくれるんだろう。寝転んで休みたい気持ちがないと言えば噓になるが、早くロディとジュリを安心させてあげたい気持ちの方が大きい。
いまだ地面にへたり込んでいるカエデに手を差し出す。カエデは少し顔を赤くしたが、素直に手を取って立ち上がってくれた。お互いの健闘を称えるように拳を合わせ、入り口へ続く転移陣に入った。
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