第31話 ミニゲームの結末
「さあカエデ、やろうぜ」
「最後は任せたからね」
闘技場の真ん中に向かいながら軽く言葉を交わす。大雑把に作戦を伝えたが、カエデは特に文句も言わず引き受けてくれた。もちろんサンドウィッチを奢ることが条件で。
闘技場の中に入ると、透明の壁の向こうの観客からの視線を一斉に受ける。緊張もしていたが、それ以上にこの大観衆の前でクリアした時のことを考えると口角が上がった。
「来るぞ」
闘技場の真ん中まで辿り着くと、ラン・ウルフが十体現れる。俺とカエデは二手に分かれ、五体ずつヘイトを買い戦闘を開始した。体力をギリギリまで減らさなければいけないという縛りはあるが、最悪四体までなら倒してしまっても良い。だがどうせなら十体全部一気に倒した方がカッコ良いという、極めて私的な理由でカエデにも倒さないようお願いしておいた。
五体を相手にしているとはいえ、強化前のラン・ウルフは俺達のレベルであれば十分対応できる範囲だ。上手く体力調整を続け、俺が担当している五体はスキル一発で倒せるまで弱らせた。俺の体力も七割まで減少しているが問題ないだろう。
「カエデ! こっちは終わったぞ!」
少し離れたところで戦闘をしているカエデに向けて大声で叫ぶ。
「こっちももうそろそろよ! 準備しといて!」
カエデからの返事を受けて俺は準備を始める。目の前にいる五体のラン・ウルフは俺に向かってきているが、もう反撃はできない。防御と回避に徹しながら、スキル『ウォークライ』を発動させておく。
「カズト君! 行くよ!」
「いつでもいいぞ!」
準備を終わらせた俺はカエデからの呼びかけに答える。後ろからカエデが走ってくる足音とラン・ウルフ達の唸り声が近づいてきた。剣に青白い光を纏わせ、スキル『サークルエフェクト』の準備をする。
カエデの足音がすぐそこまで近づいた瞬間、肩に衝撃を感じた。カエデは俺の肩を踏み台に、大きく上空に跳躍し叫ぶ。
「今よ!」
その声を聴いた瞬間、ウォークライで強化された状態のサークルエフェクトを発動。攻撃力を増した青白い光が、俺の体を中心として綺麗な円を描く。その光に触れたラン・ウルフ達は一匹残らず消滅した。
「っし! 上手くいったみたいだな」
作戦が上手くいったことで一安心していると、上手く着地できたカエデが笑顔で手を向けてくる。軽く手を合わせハイタッチで互いの健闘を称えた。闘技場の外を見ると大勢の観客が拍手を送ってくれている。
「じゃあカズト君、出ようか」
「そうだな。あれ、でも報酬はいつもらえるんだ?」
少し疑問を持つ。今までの経験上、クリアした瞬間に報酬の画面が表示されることが多かった。だが受付機器を操作すれば貰えるんだろうと、その疑問を振り払い出口へ向かおうと顔を上げた瞬間。さっきまで拍手をしてくれていた観客が、少し焦った表情で俺達の後ろを指さしている。
それを見た瞬間、忘れていた存在に気が付く。ラン・ウルフを十匹同時に倒すことだけに気を取られ、ラン・ウルフロードの存在を完璧に失念していた。それはカエデも同様だった。俺達が同時に後ろを振り向くと、ラン・ウルフの倍以上ある巨体が突進してきている。
「「っっ!!」」
咄嗟に防御の姿勢を取るが、衝撃は完全には殺せず少し減少していた体力がさらに減少する。ラン・ウルフロードの醸し出す雰囲気、受ける衝撃の強さ。上位種だけあって、強化状態のラン・ウルフより数段上の実力を持っているだろう。
「カエデ! やるしかない、まずは回避に専念するぞ!」
「おっけぃ!」
すぐさま戦闘態勢に入り、いつも通り敵の行動パターンの把握に徹する。ラン・ウルフロードの攻撃パターンはラン・ウルフ達とそこまで変わりはなかった。噛みつき、突進、尻尾での薙ぎ払い。もちろん威力は段違いだが相手は一匹。上手く連携を取り戦闘を続け、五分後。俺達の体力も二割まで減少しているが、ラン・ウルフロードの体力も残り一割程度まで削ることが出来た。
その瞬間、ラン・ウルフロードが大きく咆哮した。その喉は赤く染まり、鋭い牙の向こうから火の粉が舞う。俺は咄嗟に横に飛んで回避するが、カエデは逃げ遅れてしまった。ラン・ウルフロードから放たれた火球に飲み込まれ、カエデの体力ゲージは完全に消滅した。
「カエデ!!」
(くそっ! 行動パターンの変化まであるのか、それも高威力の遠距離攻撃だと!?)
少しの予備動作があるとはいえ、少しでも反応が遅れると回避は難しい。カエデを失った俺はヘイトの分散が不可能になり、ただ敵の攻撃を凌ぎ続けていた。
(あと少し、あと少し時間を稼げば……)
もう俺の体力ゲージは赤く染まり、数ミリ程度しか残っていなかった。火球を大きく横に避けるだけでは、敵の隙を付けずまともにスキルを命中させられない。カウンターのクールタイムが明けるまで攻撃を避け続け、火球をカウンターで受け流してチャージスタブで止めを刺すしか作戦は思いつかなかった。
火球を二つ回避したその時、カウンターのクールタイムが明けた。
(よし! 後はもう一度火球が来るのを待つだけだ!)
距離を取っているおかげで、すぐに次の火球モーションが始まる。目の前に迫る火球をあえて回避せず、カウンターで受け流し敵の目を欺く。姿を見失い隙を見せたラン・ウルフロード目掛け、すぐさまチャージスタブを発動させる。
猛スピードで近づく俺に気づかないラン・ウルフロード。目の前まで接近した時、深紅の目が俺を捉えるが時すでに遅し。青白い閃光を纏った剣がラン・ウルフロードを貫き、その姿を消滅させた。
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