第29話 闘技場のミニゲーム

「それにしてもメイとスズが双子だったなんてな、全く気付かなかったよ」


「でしょ? 初めて会う人はみんな驚くもん」


 メイとスズは真反対と言ってもいいぐらいぱっと見の印象は違う。初対面で双子だと見抜ける人はほとんどいないだろう。ただ、顔の造形だけで言えば双子というだけありかなり似ている。


「メイちゃんとスズちゃんは十六歳なんだよね? じゃあ高校一年生?」


「そうだよ! だからカエデ達は先輩だね」


 メイはそう言って、何か意味深な表情を浮かべながら俺を見つめた。


「だから……カ・ズ・ト・せ・ん・ぱ・いって呼んであげようか?」


「やめてくれ、そんな趣味は無いんだ」


「ちぇっ、つまんないの」


 メイは俺をからかおうとしたんだろうが甘い。カエデに鍛えられた俺の心はお子様ごときに揺さぶられるほどやわじゃない。そう思っていた時、メイがスズに何やら耳打ちをしていた。スズが少し恥ずかしそうにしているが、やがて覚悟を決めたような表情で俺を見た。


「……カズトせんぱ……い」


「ぐはぁっ」


 俺は見事に撃沈した。スズはメイとは違っておしとやかで恥ずかしがり屋だ。そんなスズが恥ずかしそうに頬を染めながら、前髪の隙間から覗く大きな黒色の瞳で俺を見つめてくる。こんなの平常心を保てるわけがないだろ。


「カーズートーくーん?」


 なぜか少し不機嫌そうな顔をしたカエデが俺を見つめている。前ではメイがしてやったりと言わんばかりにニヤニヤしていて、スズは恥ずかしそうに頬を染めている。急いでこの地獄から脱出するために口を開いた。


「そ、そうだ! スズ達は今どれくらい攻略進めてるんだ?」


「えと……明日にはローデンブルグのボスを倒そうと思っています」


「それでボスの前にリフレッシュでもしようと思ってね、カズト達は?」


「俺達は第二の国のダンジョン攻略中。七割ぐらい進んでるかな」


「やっぱり早いね、第二の国ってどんなところなの?」


「それは着いてからのお楽しみ、だろ? 何も知らない状態で初めて見る場所に行くのが醍醐味なんじゃないか」


「まあそれもそっか」


 少し雑談をしながらサンドウィッチを食べ、四人全員が食べ終わったタイミングで立ち上がる。


「よし、みんな食べ終わったしミニゲーム会場へ行こうぜ」


 俺達は四人並んで始まりの街の少し北にあるというミニゲーム会場に向かった。ミ人ごみをかき分けながら中心に進むと、円形の闘技場のようなものが現れた。闘技場は透明の壁で囲われていて中の様子がはっきりと認識できる。


「闘技場? モンスターとの戦闘でもするのか?」


 闘技場をぐるりと見ていると少し離れた場所に大きな扉を発見する。その近くでは二人組の男性が機械を操作していた。受付機器だったのだろう、操作が終わると少しして扉が開き始めた。


「あ! 誰か挑戦するみたいね」


「今のところ中には何もないけど……何が始まるんだろ」


 カエデの疑問はすぐに解決する。挑戦者が闘技場の真ん中付近に近づいた時、何もない場所から突然大量の狼が現れた。灰色の毛並みに赤みがかった目、狼の頭上には【ラン・ウルフ】という名前だけが浮かんでいる。


「狼の群れか!? 十匹ぐらい出てきたぞ!?」


 挑戦者は既に知っているのだろう、特に驚きもせずに戦闘準備を始めていた。魔術師とハンマー使いの二人組は、恐らく事前に決めていたのだろう。前衛に槌使い、後衛に魔術師の陣形を組む。

 ラン・ウルフの群れは標的を槌使いに定め、一斉に攻撃を開始する。槌使いは大きなハンマーを必死に振り回しヘイトを買いつつダメージを与え、その間に魔術師が炎の球を放ち続ける。流石に十匹の群れは完璧に回避できない、時々槌使いがダメージを食らってしまうが攻撃力はそこまで高くないのだろう。順調にラン・ウルフの数を減らし続けていた。


(この調子ならクリアできそうじゃないか? なんでまだ誰もクリアしてないんだろう)


 そう考えながら戦闘を眺め、ラン・ウルフの数が半分になったその時。


「カズト君! あそこ見て!」


 視線を闘技場の後ろに向けると新たに一匹、明らかに大きい狼型のモンスターが現れた。灰色ではなく真っ白な毛並みに深い深紅の目、上部には【ラン・ウルフロード】という名前が表示されている。出現と同時に大きな遠吠えを放つと、半分になったラン・ウルフ達の雰囲気が変わる。


 挑戦者の二人はこの展開も知っていたのだろう、表情をより真剣なものに変え戦闘を続行する。しかし、ラン・ウルフロードの遠吠えにより強化されたラン・ウルフ達の前に、抵抗空しく槌使いが倒される。その後は一瞬だった。前衛を失った魔術師は為す術なくラン・ウルフの群れに飲み込まれた。

 倒された後は入り口の前にワープする仕様になっているらしい。挑戦者たちは悔しそうな表情を受かべ、闘技場を後にしていった。観戦しているプレイヤーたちは、「やっぱりあそこが鬼門か……」「今回の挑戦者は強そうだったんだけどな」等と口にしている。


「半分減らしてからが本番って訳か……」


「あのでっかいやつは倒さなくていいのかしら」


 メイの疑問は俺も持っていた。ラン・ウルフロードはラン・ウルフの群れにバフをかけるだけで、戦闘に参加してはいない。最初に出てきた十匹のラン・ウルフを倒した後に戦う可能性もあるだろう。


「ん~、十匹倒してから戦う可能性も考えておくべきだろうな。警戒するに越したことは無いし」


「カ、カズトさんの言うとおりだと思います……」


「その前に強くなった後のラン・ウルフ達を倒さないといけないんだけどね」


 カエデの真っ当な指摘が入る。確かに今のままではあの挑戦者たちと同じようにクリアできない可能性が高い。俺達は少し作戦会議をすることに決めた。

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