第28話 メイとスズ

 ピロンッという電子音で目覚める。時計を確認すると朝の九時だった。


「こんな朝早くになんだ?」


 届いたメッセージを確認すると、掲示板で知り合ったメイからの連絡だった。始まりの街でやり取りして以来初めてのメッセージだ。


『始まりの街で開催されてるミニゲームのこと知ってる?』


 メイの言葉遣いは初めてやり取りした時よりかなりフランクになった。それにしてもミニゲームという単語は初めて聞いた。


『初めて聞いた、なんだそれ?』


『クリアしたらレアな装飾品が手に入るらしいよ、まだ誰もクリアしてないんだって』


『そりゃすごいな。でもなんで俺にそんな話を?』


『カズト達ならクリアできそうだな~と思ってさ。私の知る限りカズト達が一番攻略スピードが早いからね』


『なるほどね、ステータスが必要なのか……面白そうだな』


『でしょ? 実は私達も今日そのミニゲームやろうかなって思ってるんだよね、良かったら一緒に行かない?』


 メイのメッセージに少し驚く。俺達はまだ顔を合わせたことは無かったし、メイとパーティを組んでるもう一人に関してはコミュニケーションを取ったこともない。少し悩んで返信する。


『カエデに話してからでいいか?』


『もちろん、決まったら返事ちょうだい』


 メイの返事を確認してから画面を閉じ、隣のベッドを確認するとカエデはまだ寝ていた。いつもは俺より早く起きているカエデの寝顔を少しだけ堪能してから起こす。


「カエデ~朝だぞ~」


 体をゆすると眠たそうに目を擦る。


「ぅん……カズト君?」


 覗き込む俺と目が合う。少しの沈黙の後、飛び起きるカエデ。


「おおおはよう! 今日は早いねカズト君!」


「おはようカエデ、起きてすぐで悪いんだけどちょっと話があるんだ」


「話……?」


「メイって覚えてるか? ほら、掲示板の」


「ああ、もちろん覚えてるよ。それがどうかしたの?」


「さっきメッセージが来たんだ、ほら」


 そう言って、メイとのメッセージをカエデに見せる。興味深そうにメッセージを読み終わったカエデが口を開く。


「すごい楽しそうだけど……ダンジョンの攻略を早く進めないと。昨日は全然進められなかったし」


 昨日のことにまだ責任を感じているのか、少し重たい声だった。


「あんまり根を詰めすぎても良くないんじゃないか? アリアドネに来てから毎日ダンジョンに潜ってるし、今日だけリフレッシュするのも良いと思うけどな」


「でも……」


「クリア報酬の装飾品があったら攻略も楽になるかもだろ? それに……個人的には一番初めにクリアしたっていう称号も欲しいんだ」


 カエデだけに判断を任せるのも悪いなと思って、個人的に行きたい理由も添えておく。


「ふふっ、やっぱりゲーマーだね。分かった、じゃあ今日だけね! 明日からまたダンジョン攻略頑張るよ!」


「おっけ、じゃあメイに返信しとくな」


 カエデの了承を取ってからすぐにメイに返信する。


『さっきの話だけど、一緒に行ってもいいか?』


『やった! じゃあ十三時に始まりの街の転移陣に集合ね!』


『了解』


メニュー画面を閉じた俺に気づいたのか、カエデが話しかけてくる。


「ミニゲームももちろん楽しみだけど、メイちゃん達と会うのも楽しみだよね」


「顔合わせたこと無いもんな、文面からすると若い女の子っぽいけど」


「仲良く出来たらいいな〜、メイちゃんとパーティを組んでる子はスズちゃんだっけ?」


「ああ、恐らく男は俺だけだ。頼んだぞカエデ」


「も~、四人で遊ぶんだからカズト君も輪に入ってよ?」


「善処します……」


 昨日のこともあり、良いリフレッシュになると思ってメイの誘いに乗った。だが恐らく女の子三人と俺一人という天国のような地獄のような状況になる。複雑な感情を胸に抱きながら、出掛ける準備を始めた。



 準備を終え、俺達は約束の五分前に始まりの街へ到着した。転移陣の付近でキョロキョロしていると、同じような動きをしている二人組を発見する。


「あ! メイちゃーん、スズちゃーん!」


 カエデはとても初対面とは思えないテンションで声をかけた。どっちがどっちかも分かっていないだろうに流石のコミュニケーション能力だ。


「カエデ! おはよう!」

「は、はじめまして……」


 元気に返事をしたのが恐らくメイだろう。メイは肩のあたりで揃えられたピンク色のミディアムボブの髪形に、くりくりの目が特徴的な愛嬌カンスト系女子だった。腰には剣を装備しているから剣士だろう。対照的にスズは黒髪ロングで前髪は少し目にかかるほど長く、人見知りのようでどこか親近感を覚える。手には杖を持っているから魔術師だ。


「待ったか? メイ、スズ」


 身長は二人とも俺よりかなり低い。肩のあたりだから150cmくらいだろうか。俺より緊張しているであろうスズの存在のおかげで、緊張はかなり解けていた。


「カズト! 会うのは初めてね、よろしく」

「よ、よろしくお願いします……」


「よろしく、早速ミニゲームと行きたいところだけど……お昼はまだだろ?」


 二人は同時に首を縦に振る。


「じゃあまずは昼ご飯だな! 何か食べたいのあるか?」


「「サンドウィッチ!!」」

「サンドウィッチ……」 


 メイとカエデが口を揃えて言った。カエデには聞いてないんだけどなあ……。あとスズも小さい声でサンドウィッチと言っていた。なぜ女子はこんなにもサンドウィッチが好きなんだろうか。この三人がたまたまなのか?その疑問の答えは俺の過去の中には存在しなかった。


「分かった分かった、じゃあサンドウィッチにしよう」


 メイとスズはお気に入りの店があるのか、先頭に立って歩き始める。俺とカエデは少し遅れて歩き始めた。

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