第24話 ロディとジュリ

 俺達はその翌日から本格的にダンジョン攻略を行った。カエデもグロスフロッグの気持ち悪さに段々慣れ、戦闘にも参加できるようになった。


 ダンジョン攻略を始めてから一週間後。マッピング率は40%まで進み、ドロップ素材により武器の強化も二段階進んだ。レベルは17まで上昇し、新たなスキル【サークルエフェクト】を習得した。


【サークルエフェクト】

・自身の体を回転させ薙ぎ払う範囲攻撃


 残念ながら宝箱はまだ発見できていないが、ローデンブルグのダンジョンでも一つしかなかった。恐らく宝箱の配置数はかなり少ないんだろう。その代わり中に入っているアイテムは魅力的で強力なものになっているはず。まだ見ぬ新しい宝箱への期待も持ちつつ、今日のダンジョン攻略を終了した。


 その帰り道、ダンジョンの入り口付近で小さな十歳ぐらいの男の子を発見した。その男の子は装備も貧弱、武器の短剣もボロボロでとてもじゃないがダンジョン攻略が出来るとは思えなかった。


「こんなところで何してる?」


「僕は洞窟の奥に行かなきゃいけないんだ」


 茶髪のくせ毛から見え隠れする青色の目は強い意志を孕んでいる。しかしその意思とは裏腹に男の子の足は震えていた。このまま一人で向かっても無駄死にするだけだと話を続ける。


「なんで洞窟の奥に行きたいんだ?」


「そんなのお前に関係ないだろ!」


 男の子は余裕がないのか、感情を爆発させる。確かに関係ないがこんな小さな男の子を見殺しにするわけにはいかない。一旦落ち着かせるように優しい声色を作って話す。


「俺の名前はカズト。この洞窟の奥には危険なモンスターがいっぱいいるんだ、何か手伝えることがあるかもしれないし、話してみてくれないか?」


「そうよ、私達結構強いのよ? あ、私はカエデ。よろしくね」


 俺達の諭すような説得に態度を和らげてくれた男の子がぽつぽつと話し始めた。


「僕の名前はロディ。妹のジュリと二人で暮らしてるんだけど、ジュリが病気になっちゃったんだ。お医者さんに診てもらったんだけど、こんな症状は初めて見るって言われた」


 妹と二人で暮らしているという所に引っかかったが、両親は何らかの事情でいないのだろう。流石に聞くわけにもいかず黙って耳を傾け続ける。


「少し待ったら体も良くなるかもって思って待ってたんだけど、ジュリはずっと苦しそうでベッドから動けなくて……。その時、街中で洞窟の奥にどんな病気でも治せる薬草があるって聞いたんだ」


「そっか、それで一人でこんなところに?」

 

 ロディは小さく頷いた。


(こんな小さな男の子が妹を助けるために一人で洞窟に来たのか……すごい覚悟だな)


 隣を見ると感情移入しているのか、カエデが瞳をウルウルさせていた。


「分かった。でもロディ一人じゃ洞窟の奥にたどり着く前にモンスターにやられちゃうぞ」


「……っ! それでも行かなくちゃ」


「だから俺達が洞窟の奥に行って取ってくるよ、そしたらジュリを助けられるだろ?」


「僕が行かなきゃ意味が無いんだ、妹を守れるぐらい強くなきゃダメなんだ」


 兄としての覚悟だろうか。それで死んだら意味が無いだろうと思ったが、その覚悟を尊重する。


「じゃあ一緒に行こう。それなら大丈夫だろ?」


 ロディはその提案を受け入れてくれた。ダンジョンの攻略は今のところ特に苦戦することもなく進められていたため、ロディを守りながらでも大丈夫だと判断した。それと、実際の戦闘を見たらロディもモンスターの危険さを認識して家で待っててくれるんじゃないかという希望もあった。


 時間も二十時を回っていたため、一旦ロディと一緒にアリアドネに帰還することに。家まで送り届けると、ロディからお願いされる。


「ジュリにも顔を見せてあげてほしい、少しでも安心させてあげたいんだ」


「ああ、もちろん」


 ロディ達の家はアリアドネの少し南にあった。案内されるまま部屋に入ると、ベッドでロディによく似た小さな女の子が寝ころんでいた。入ってきた俺達に気が付くと、熱で赤く染まった顔に笑顔を浮かべる。


「おかえり、お兄ちゃん。その方たちはどうしたの?」


「ただいまジュリ。安心してくれ、この二人は洞窟に一緒に来てくれるんだ。これでジュリの病気も治せるぞ」


 ロディがジュリの小さな手を握りながら安心させるように伝える。


「もう、ほっといたら治るって言ってるのに……」


 ジュリは少しき込みながらそう言った。ロディを心配させないために強がっているんだろう、顔色も悪く喋ることすら難しそうだ。


「俺はカズト、こっちはカエデ。ロディと一緒に洞窟に行くことにしたんだ」


「すぐに薬草取ってくるから、ジュリちゃんはゆっくり寝て待っててね?」


 カエデはジュリの頭を撫でながらそう言った。ジュリは安心したように答える。


「ありがとうございますカズトさん、カエデさん。お兄ちゃんをお願いします」


 ジュリは安心したら眠たくなったのか、目を閉じて寝息を立て始めた。ジュリが眠ったのを見守ってから、俺達は宿に帰ることにする。


「ロディ、明日十三時に迎えに来るからそれまで待っててくれよ?」


 一人で洞窟に向かわないように念押しする。ロディが頷いてくれたのを確認して家を出た。



「優しいね、カズト君は」


「困っている人を助けるのは英雄の役目なんだ」


「ふふっ、またそれ?」


 カエデはご機嫌そうに笑う。俺はそれ以上返事はせずゴンドラを漕ぎ始めた。



【名前】:カズト

【レベル】:17

【体力】:580/580

【武器】:ロングソード+6

【防具】:漆黒シリーズ

【装飾品】:共鳴の青雫(スキル:共鳴)

【筋力】:51

【敏捷】:22

【耐久】:22

【魔力】:5

【割り振り可能ポイント】0

【スキルパレット】チャージスタブ、カウンター、ウォークライ、サークルエフェクト 

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