第22話 水の都アリアドネ
始まりの街から転移した俺達は、アリアドネの入り口の前に立っていた。どんな景色が待っているんだろうか。新たな国への期待に胸を膨らませながら扉を開く。
「なにこれ! 水の上で生活してるの!?」
カエデが驚くのも無理はない。道路の代わりに水路を使用しているのか、人を乗せたゴンドラが水の上に数えきれないほど浮いている。中にはそのゴンドラの上で商売をしている人までいた。一応歩いて通れる通路が両脇の建物の前にあるが、二人通るのが精いっぱいなほどに道幅は狭かった。
「カエデ! 俺達もゴンドラに乗ろうぜ!」
狭い通路を歩くのも悪くはないが、どうせならこの国独自の風習を楽しみたい。入り口のすぐ近くにゴンドラをレンタルできる店があり、そこで二人用のゴンドラをレンタルする。
ゴンドラはオールで水面を漕ぐことで移動できるが、初めのうちは中々慣れず上手に移動できなかった。
「カズト君! そっちじゃないわよ!」
「やばいぶつかるッ!」
他のゴンドラに何度かぶつかってしまい、頭を下げながら俺達は進んでいた。移動にもそろそろ慣れてきたころ、目の前に美味しそうな匂いを漂わせている出店を発見した。
「あそこでご飯にしようよ」
「そうするか、ゴンドラの上で食べていいのかな?」
あたりを見回すと、ゴンドラの上で談笑しながら食事をしている人々が大勢いた。ゴンドラをうまく操縦し、店の前に停止させる。
「いらっしゃい、ご注文は?」
陽気なおじさん店主だった。店に並べられている料理は、見たことがないものばかりだったのでおすすめを聞いてみる。
「おすすめってありますか?」
「それなら、この『シーサーペントの塩焼き』だね! 新鮮でおいしいよ!」
「じゃあそれを二つください」
「まいどありぃ!」
『シーサーペントの塩焼き』は白身魚のような淡白な味に、刺激的な調味料の味付けによるコラボレーションが芸術的なほど美味しかった。
「……っこれ、すっごいおいしいね! ほっぺた落ちちゃうよ~」
カエデが頬を手で押さえながら笑顔で言う。今まで口にしたことのない美味に舌鼓を打ちながら、至福の時間を味わった。
「お腹もいい感じに膨れたし、まずは宿に向かうか」
「そうしよっか、その後は情報収集だね!」
宿に向かうことを決め、ゴンドラを漕ぎ始める。マップの通りに五分ほど移動すると目的地の宿が見える。ゴンドラを道路のそばに停泊させ、宿に入る直前にカエデに聞く。
「今回はどうする?」
「どうするって何が?」
「別の部屋にするか同じ部屋にするかだよ」
「もう観念しなよ~、決まってるでしょ?」
心の底から楽しそうに笑うカエデを見て俺は抵抗することを諦める。だが、ただ諦めたわけではない。いつかカエデをからかう側に回ってやるという強い意志を新たに燃やす。宿を取った俺達は情報収集をするために、もう一度ゴンドラで街中を散策し始めた。
何人かのNPCに話を聞く中で、東の海の果てにあるという第三の国『ジパング』の情報が手に入った。
「ジパングに行くためにはどうしたらいいんですか?」
「それがね~、本来なら貿易船が港から出てるのよ。でも東側の洞窟に住み着いた大蛇のせいで今は貿易船が出航できなくてね」
「じゃあその大蛇がいなくなれば、貿易船でジパングへ行けるようになるってことですか?」
「そんな奇跡が起きてくれたらね」
「なるほど、ありがとうございます。あとその洞窟に行く方法を教えてくれませんか?」
「ゴンドラはレンタルしてるわよね? ゴンドラで東門から出れば行けるわ、でもゴンドラを壊したり、無くしたりしたら買取になっちゃうから気を付けてね」
「分かりました。ありがとうございます!」
今後の予定が決定する。ダンジョンに入る前に道具屋に寄ることに決め、俺達はゴンドラを漕いでいた。
「今度のボスは蛇か~、嫌だなぁ」
「なんでそんなに嫌なんだ? ゴブリンとかの方が見た目的には嫌じゃないか?」
「分かってないなあカズト君は。毒があるかもなんだよ?」
そうか、毒を忘れてた。フルダイブゲームの毒ダメージというのは多くのゲーマーが嫌っている。ダメージを受けるとき特有の不快感が継続的に襲ってくるからだ。毒の不快感が気になって集中力が切れるというのは、ゲーマーであれば一度は経験したことがあるだろう。
「毒消しとか売ってるかなぁ」
「売ってたら毒を持ってるんだろうね……」
俺達は毒消しが売っていない事を願って道具屋に向かう。
「回復薬と毒消しをください……」
到着した道具屋にはしっかりと毒消しが売られていた。これで今回のダンジョンで毒を使うモンスターがいることはほぼ確定だ。俺達は気乗りしないままダンジョンに向かうことになった。
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