第二章 アリアドネ

第21話 情報交換

 体が揺れている。それに声が聞こえる気がする。


「……カズト君!」


 カエデの声だと認識し、意識を覚醒させる。


「おはようカエデ、どうしたんだ?」


「ほらあそこ! アリアドネじゃない?」


 カエデが指さす方を見ると、少し離れた場所に船着き場が見える。すぐ隣には大きな門があるからそこから入国するんだろう。


「おお! やっと着いたか、どれぐらい寝てたんだろうな」


「分かんない、でもまだ日も高いし一時間ぐらいじゃない?」


 空を見ると太陽はまだ俺たちの頭上にあった。

 アリアドネの船着き場までの間に出発の準備を済ませる。船着き場に到着し、陸地に降りると船は目の前でだんだんと薄くなっていき、消失した。


「役目を終えたからってことか」


「操縦も出来ないから持ってても意味ないもんね、それより見て! 転移陣があるよ!」


 大きな門のすぐ隣には転移陣があった。ローデンブルグの門の前にあったものと酷似している、おそらく始まりの街に続いているんだろう。


「始まりの街に続いている転移陣かな? アリアドネに入る前に一回戻ってみるか?」


 始まりの街には、このゲームからログアウト出来ないことが告げられたあの日以来一度も戻っていない。あの地獄のような状況は変わったのだろうか。他のプレイヤーはどんなふうに過ごしているんだろうか。少し気になった俺はカエデに提案してみた。


「うーん、そうだねぇ。ちょっと気になるし一回戻ってみよっか!」


 カエデの同意も得ることができ、俺達は始まりの街へ続く転移陣に入った。

 久しぶりの始まりの街は至って普通だった。一か月も経てば、大多数の人間はこの異常な状況でさえも適応してしまうのだろう。飲食店やショッピングセンターなどは多くのプレイヤーで溢れていた。


 俺達はそこら辺のプレイヤーに話しかけながら情報収集を行うことに。その結果、大きく三つの情報を入手することが出来た。


 1.ゲーム攻略を諦めたプレイヤーは始まりの街にずっと滞在している

 2.始まりの街では全ての施設利用が無料で行える

 3.メニュー画面に『掲示板』が追加され、匿名での情報交換が可能になっている


 特に大事なのは『掲示板』の追加だろう。真偽はともかく、一度死んだら終わりの状況では情報が重要なことに変わりはない。俺達は始まりの街に来たことでメニュー画面に追加された掲示板を覗いてみた。


『最後の国は糞まみれの国だぜ』

『ローデンブルグの王様殺したら牢屋に入れられて草』

『誰か一層クリアしたやついないの?』

『クリアしたけどボスはくそデカいドラゴンだった』


(はあ、結局こんなもんだよなぁ)


 テキトーな情報しかない掲示板を見てため息をつく。本物の情報を持っている人がいることを諦めかけたその時、一つの書き込みを見つけた。


『私はゲーム攻略の情報交換相手を求めている。こちらから提供できるのはローデンブルグのボス情報。有益な情報を持っているプレイヤーは私まで連絡してくれ』


 その書き込みとともに自分のゲームIDをせていた。書き込みの内容から見るに真実である可能性は高いだろう。ローデンブルグのボスの情報は必要ないが、これから先ゲームの攻略を進めるうえで情報交換出来るプレイヤーというのは重要になってくる。


「カエデ、こいつに連絡してみよう」


「ほんとに? 嘘ついてるだけかもしれないよ?」


「嘘じゃなかったらラッキーってことで」


 俺は掲示板のそのプレイヤーに連絡を取ってみる。


『掲示板を見て連絡した。ローデンブルグのボス情報を持っているというのは本当か?』


『本当だ。そちら側からは何の情報を提供できる?』


『具体的に提示は出来ないが、俺は既にローデンブルグを攻略している。そちらの持っていない情報もあるはずだ』


『それは本当か? そうであればローデンブルグのボス情報など必要ないだろう?』


『今回連絡したのは、これから先のゲーム攻略のためだ。信頼できる情報交換相手かどうかを確かめようと思ってな』


『なるほど、私と目的は同じというわけか。ではお互いの信頼のために同時にメッセージを送信しよう。内容はボスの名前だ、本当にボスを倒したのなら知っているはずだろう?』


『分かった。じゃあ今から一分後、十四時ちょうどに送信しよう』


 そして一分後。


『『ジェネシスライダー』』



 メッセージが一致したことで、お互いの情報の信頼性はある程度保証された。その後、少しやり取りを続けた。相手は『メイ』と名乗り、パーティーを組んで攻略中であることや、まだボスは倒していないことを話してくれた。俺も名を名乗り、第二の国に到着したことを伝える。


 ときどき連絡することを約束し、メッセージを終了した。



「嘘はついて無さそうで良かったね~」


「メッセージを送ってみて正解だったな」


 俺達だけではどうしても見逃してしまうイベントやアイテムなども確実に存在する。このタイミングで協力できるプレイヤーを見つけたのは喜ばしいことだ。


「収穫もあったし、そろそろアリアドネに向かうか?」


「そうしよ! お腹も空いちゃったし、アリアドネの美味しいごはん食べよ~!」


 カエデはそう言うとお腹をポンポンと叩く。新しい国への様々な期待とともに俺達は始まりの街を後にした。

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