第20話 別れと旅立ち

「おかえり!!」

 

 アリスは帰ってきた俺達を見るや否や胸に飛び込んできた。


「ただいまアリス、すぐ帰ってくるって言っただろ?」


 そう言って昨日と同じように頭をなでる。抱き着いて離れないアリスが落ち着くのを待ってから、俺達は五人で食卓を囲みながらボスとの激闘のこと、今後のことについて話した。


「白いボアと鎧を装備したゴブリンが合体してたの!? 信じられないわぁ」


「ダンジョンの最奥部にたどり着いたのはカズト君たちが初めてだからな。誰も見たことが無くて当然だろう」


 ミレアとクレイブが興味深そうに俺達の話を聞いてくれる。そして、ダンジョンの最後には海が広がっていて、俺達はそこから次の国を目指すことを伝えた。アリスが悲しそうな表情を作る。


「カズトとカエデ、遠いところに行っちゃうの? もう会えないの?」


 胸にチクッとしたものが刺さる。


「大丈夫だよ、今までみたいに毎日は会えないけど絶対いつか帰ってくる。約束だ。」


「そうよアリスちゃん、ちょっと遠いところに旅に出るだけ。不安ならあれ、する?」


 カエデがそう言って小指を差し出す。俺達は三人で小指を絡み合わせ、アリスを安心させるように固く約束した。アリスは今生こんじょうの別れではないことに一瞬安堵あんどした様子だったが、しばらく会えない事には変わらない。すぐに大きな瞳に涙が充満し、声を上げて泣き始める。俺とカエデはただ黙ってアリスを抱きしめ続けた。


 アリスはしばらく泣き続けていたが、やがて落ち着くと言った。


「今日は帰らないで」


 ミレアとクレイブの方を見ると、笑顔で頷いてくれた。


「ああ、今日はずっと一緒だ」


 俺とカエデは順番にお風呂に入り、アリスの部屋で眠ることになった。アリスとカエデは同じベッドで、俺は床に布団を敷いてだ。布団に入るとカエデはいつものようにからかってきた。


「カズトくぅん? 一人だと寂しいでしょ? 私たちの間に入ってもいいのよ?」


「今日はアリスもいるんだし変なこと言うなよカエデ」


 いつものように受け流し、布団で寝ようとしたその時。


「カズト、今日はずっと一緒って言ってた」


 そう言うとアリスは隣で寝るようにポンポンとベッドを叩く。そういえばそんなことを言った。だけどそれとこれとは話が別だ。


「いやアリス、それは……」


 瞳をウルウルさせながら俺を見つめるアリス。その横でニヤニヤするカエデ。やがて俺は根負けしたように白旗を上げた。流石に間で寝るわけにはいかないので俺→アリス→カエデの順に寝ることにした。カエデは不満そうだったが、アリスは満足そうに笑ってくれたからカエデの方は無視を決め込む。


 少しの間三人で話していたが、アリスがこくりこくりと眠たそうにしているのに気づき電気を消した。


「おやすみ、アリス」

「おやすみ、アリスちゃん」


「おやすみカズト、カエデ。……だいす、き……」


 意識を失う直前アリスが発した言葉を聞いて、俺達は顔を見合わせて少し照れたように笑った。


「寂しくなるね」


「そうだな、でも二度と会えないわけじゃないんだ。絶対に帰ってこようぜ」


「うん。じゃあ私達もそろそろ寝よっか、おやすみカズト君」


「おやすみ、カエデ」


 

 翌朝、朝ご飯をご馳走になり少しゆっくりとしてから準備を済ませる。家の前まで見送ってくれた三人にもう一度告げる。


「ローデンブルグに来てから今まで色々とお世話になりました。本当にありがとうございます。また絶対に帰ってくるのでその時はよろしくお願いします」


「本当にありがとうございました。」


 カエデも俺に続いて頭を下げる。ミレアとクレイブは笑って答えてくれた。


「良いのよ、私達も本当に楽しかったわ。息子と娘が増えたみたいで、ねえ?」


「……ああそうだな、寂しくなるな。子供が巣立っていくってのはこんな気持ちなのかなあ」


 クレイブは将来アリスが家を出るときのことまで想像しているのか、少し泣いていた。


「カズト! カエデ! 帰ってきたらいーっぱい冒険のお話聞かせてね。約束破ったらはりせんぼんだからね!」


 アリスは涙を見せずにそう言ってくれた。


「もちろんだ。それまで良い子で待っててくれよ?」


「アリスちゃんのお話もいっぱい聞かせてね?」


「うん!」


 満面の笑顔で元気に答えてくれたアリスの頭をなでる。これでしばらく会えないのかと思うと頭から手が離れなかった。


「カズト? どうしたの?」


 アリスが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。溢れ出そうになる感情を表に出すわけにはいかない。精いっぱいの虚勢を張る。


「何でもない、じゃあそろそろ行くよ」


 俺達は最後にもう一度頭を下げ、別れを告げた。三人は俺たちの姿が見えなくなるまで手を振って送り出してくれた。


「カズト君、泣きそうになってたでしょ?」


「そういうカエデだって、目が赤いぞ」


「うそ! 我慢できたと思ったのになぁ……」


 そう言ってカエデは目を擦る。約一か月。短いようで長い、濃密な時間を過ごしたこの国に別れを告げる。




「ここで船を出せばいいのか?」


 ダンジョンを抜けた先、第二の国アリアドネに続く海岸に俺達は立っていた。ボスを撃破した際に入手した【旅立ちの方舟】を、海面に向かって出現させる。すると、二人で乗るには少し大きい木造船が現れた。


「おお~けっこう大きいね」


「そうだな、とりあえず乗ろうぜ」


 早速乗り込んだ俺達は船内を少し確認する。しかし船を操作するための装置がどこにも見当たらなかった。


「この船どうやって動かすんだ?」


「分からないわ、とりあえずいったん休憩しましょ。疲れちゃった」


 カエデがそう言って寝転ぶ。俺もカエデに倣って寝転び、一応インベントリ内の【旅立ちの方舟】を確認するとポップアップが出現した。


『第二の国アリアドネに向かいますか?』


「カエデ! 自動で国まで向かってくれるっぽいぞ、もう出発するか?」


「おねがーい」


 隣で寝転ぶカエデは眠たそうにあくびをしながら返事した。俺が『はい』をタップすると船がひとりでに動き出した。隣のカエデを見ると既に気持ちよさそうに爆睡している。


(こんなに気持ちよさそうに寝られたら俺も眠たくなるじゃないか)


 体を包み込む暖かな陽の光、波とともに訪れる心地良い揺れは俺の意識を連れ去った。



【名前】:カズト

【レベル】:14

【体力】:490/490

【武器】:ロングソード+4

【防具】:漆黒シリーズ

【装飾品】:共鳴の青雫(スキル:共鳴)

【筋力】:42

【敏捷】:19

【耐久】:19

【魔力】:5

【割り振り可能ポイント】0

【スキルパレット】チャージスタブ、カウンター、ウォークライ

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