第19話 水平線の彼方

「やったぁーー!!」


 喜びを声にして爆発させるカエデと、心の中でガッツポーズを決める俺。お互いを称えあうようにハイタッチをしようとしたその時、ドロップアイテムが表示される。


【旅立ちの方舟はこぶね

 ・冒険者を第二の国「アリアドネ」へと運んでくれる方舟


【帝国の宝剣】

 ・ローデンブルグに伝わる宝剣。その美しい装飾は見るものを魅了する



「宝剣の方は良いとして、【旅立ちの方舟】ってなんだ?」


「説明通り受け取るなら、これで次の国に運んでくれるんでしょ。問題は海が無いことよね」


 その通りだ。ローデンブルグに水路はあったが、その先に続いているはずの海はどこにも見当たらなかった。


「まあとりあえず扉を開けるか、その先に海があるかもだしな」


 そう言って入ってきた扉と反対方向にある大扉を二人で開け放った。扉が開いた瞬間、爽やかな潮風が大量に入り込んできた。突風を受け反射的に目を瞑ったが、少しの間を置いて目を開ける。


「まじか……」


 目の前に飛び込んできたのは、どこまでも広がる雲一つない青空と見渡す限りの水平線だった。


「こんな所に海があったんだね……」


「ダンジョンの奥から海に出られるなんて誰も思わなかっただろうな」


 温かく包み込むような陽の光と、波の打ち寄せる音、気持ちよさそうに飛ぶ鳥の鳴き声。俺達は地面に寝転がり、激戦の傷を癒すように一時の休息を味わった。




「よし、じゃあそろそろローデンブルグに帰ろう」


「ええ~、もうちょっとゴロゴロしようよ~」


「だめだ、アリスにすぐ帰るって約束しただろ? それに宝剣もバルバロイ三世に返さないとな」


「分かったよぉ」


 駄々をこねるカエデを説得し、帰ることを決める。またあの長いダンジョンを戻ることになるのかと思ったが、海岸のそばに転移陣があり、そこからダンジョンの入り口へ戻ることが出来た。



 ローデンブルグに帰還した俺たちはまずバルバロイ三世の元へ向かった。ローデンブルグ上の受付兵士に要件を伝える。


「そんなの不可能だよ。ただの冒険者が急に陛下に謁見できると思ってるのか?」


「俺達が来たことを伝えて頂ければ良いんです。それで駄目なら帰ります」


 そう言うと兵士はしぶしぶ要求を飲んでくれた。少しの時間の後、兵士が不思議な顔をして戻って来る。


「お前達は一体何者なんだ?……まあいい、陛下のお許しが出た。ついてこい」


 以前一度だけ訪れた豪華な扉の前まで案内してもらい、中に入る。バルバロイ三世は俺たちの姿を司会に入れると、口を開いた。


「久方ぶりじゃな、要件はなんじゃ? 支援が必要になったのか?」


「いえ。つい先程、ダンジョン最奥部に住まうボス『ジェネシスライダー』の討伐に成功。ダンジョンの攻略が完了したことを報告に参りました」


「何! それはまことか!?」


「こちらがボスモンスターを撃破した際に入手したアイテムです」


 俺はインベントリに格納された【帝国の宝剣】を差し出す。


「これは確かに三十年前に息子に預けたものじゃ。そうか......最後の瞬間まで誇り高く戦い抜いたんじゃな」


 バルバロイ三世は天を見つめてそう呟く。その瞳には涙が浮かんでいた。


「よくぞ儂の依頼を達成してくれた。本来であればこの宝剣を褒美として授けたい所じゃが、息子の最後の形見として保管しておきたい。構わんか?」


「「もちろんです」」


 声を揃えて答える。


「うむ。代わりと言ってはなんじゃが、あの防具を授けよう」


 バルバロイ三世はそう言うと部屋の後方に飾ってある防具を指さした。


「あれは三十年前、儂の息子のために用意したんじゃが、色と見た目が気に入らんと言われてしまっての」


 その防具はけがれのない純白に丁寧な装飾が施されたものだった。純白の布で作成された防具はかなりの高級感を漂わせている。


(帝国騎士のこだわりってやつか。金属の鎧がお好みだったんだろうな)


 ジェネシスライダーの鎧を思い出してそんな風に考えた。隣を見るとカエデがキラキラした目で防具を見つめている。


「どうじゃ? 品質はこの国一番のものであると保証しよう」


「「ありがたく頂戴いたします」」




「どうだ? 気に入ったか?」


「さいっこうに気に入ったわ! ありがとうカズト君」


 バルバロイ三世からの報酬である防具【純白シリーズ】はカエデに譲った。理由は二つ。最初に見つけた防具をカエデが譲ってくれたことと、白より黒の方が好きだからだ。


「そりゃ良かった。やることも終わったし、アリスの家に行こうぜ」


「おー!」


 カエデは最高の笑顔を俺に向けながら答える。純白の防具はカエデの魅力をさらに引き立たせていて、頭の上に輪っかでも浮いているんじゃないかと疑うほどだった。少し照れた俺は目を逸らして歩き始めた。

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