第18話 激闘の結末

 次の日、道具屋で回復薬をいつもより多めに買い込み、ダンジョンの最奥部へ向かった。


「この先にボスがいるんだね」


 マッピング率は99%を示していた。目の前には謎の模様が描かれた大扉が存在していて、その奥からは言いようのない雰囲気が感じられる。


「ほぼ間違いなくいるだろうな。カエデ、初めてのボス戦で何があるかわからない。危ないと思ったらすぐ引けよ」


「もちろん、カズト君もね」


「よし、じゃあまずはちょっと扉開けて姿だけでも確認するか」


 二人で大扉を少しだけ開けて、中の様子をうかがう。扉の奥は今までのような通路ではなく、岩壁に囲まれた円形の広い部屋だった。そしてその中央にはボスの姿があった。


 そのモンスターはバルバロイ三世の情報通り、下半身はボア系のモンスター、上半身はゴブリン系のモンスターが合体していた。しかし、ボア系のモンスターはキングボアより数段大きく、茶色ではなく白い毛並みをしていた。ゴブリン系のモンスターに至っては、銀色に輝く鎧と兜を装備しておりぱっと見ではゴブリンだとは気づけない。しかも右手には派手に装飾された直剣を握っている。


【BOSS:ジェネシスライダー Lv.14】


 姿を確認した後、俺たちは一旦扉を閉め作戦をり直すことにした。


「あいつはかなりやばいな……」


「そうね、あいつの装備ってもしかして......」


「おそらくバルバロイ三世の息子の装備だ。三十年前に奪ったんだろう」


 鉄の鎧はローデンブルグにいる衛兵の装備と酷似こくじしていた。持っている剣は宝剣だろう、モンスターの装備品とは考えられないほどの存在感を放っていた。


「一旦作戦を練り直そう」



 俺達は扉の前に座り込んだ。


ずは防御に徹して行動パターンの把握だね」


「ああ。行動パターンの把握が済んだら隙を見て攻撃、体力が八割を切ったら下がって回復しよう」


「おっけい、後なにかあるかな?」


「そうだな……体力を半分減らしたら一旦離れて防御に集中しよう。行動パターンが変化するかもしれない」


「了解。じゃあそろそろ行こうか、カズト君」


 先ほどとは違い、扉を大きく開け放つ。ジェネシスライダーは扉の音に気づき、ゆっくりとこちらを見る。俺達を視界にとらえた瞬間、大きく咆哮ほうこうした。ジェネシスライダーの奥にも大きな扉があったが、それは倒した後に考えることにする。


「来るぞ!」


 ジェネシスライダーは勢いをつけて突進を開始する。今までの経験から横っ飛びで避けるが、避けた所に宝剣が襲い掛かる。ターゲットはカエデだ。事前に防御に専念することを決めていたおかげか、何とか直撃は免れた。しかしガードの衝撃で大きく後ろに弾き飛ばされてしまった。


「また来るぞ! 気を付けろ!」


 ジェネシスライダーは弾き飛ばしたカエデに向かってもう一度突進を開始した。ギリギリで回避しても意味が無いことはカエデも理解している。鍛え上げた敏捷を駆使し、大きく距離を取るように回避を続ける。カエデとジェネシスライダーは鬼ごっこをするように走り回り、攻撃をする隙は全く無かった。


(このままじゃらちが明かないな、距離を取っていると延々に突進を繰り返すタイプか?)


「カエデ! こっちに誘導ゆうどうしてくれ!」


 呼びかけを聞いたカエデがジェネシスライダーを引き連れて俺の元へ走ってくる。カエデが俺を飛び越えた瞬間、剣を正面に構え突進を受け止めた。衝撃でHPが少し削れたが気にしない、次に飛んでくる宝剣の斬り下ろしを『カウンター』で受け流し反撃する。


 ジェネシスライダーはうめき声をあげ、突進を繰り返していた足を止めた。恐らく俺が回避をせずに近くに居る影響だろう。カエデに作戦を伝える。


「俺が注意を引きつけておくから背後から攻撃してくれ!」


「危なくなったらちゃんと下がってよ!」


 カウンターはしばらく使えない。両の足に力を込め、剣を真正面に構える。ジェネシスライダーは正面にいる俺を排除しようと宝剣を力の限り振り続けるが、防御に徹しているおかげで直撃は避けることが出来ていた。


(よし、このまま近距離戦を続けていれば勝てる!)


 防御の衝撃でHPが削れていくが、タイミングを見計らって防御役を交代することで回復薬を飲む時間を作る。それを数回繰り返した時、ジェネシスライダーの体力が半分を切った。


「カエデ! 距離を取ったらまた突進が来るからこのまま戦うぞ!」


「了解!」


 戦闘前に決めていた作戦とは違うが、こういう時は臨機応変に対応するのが大事だとゲーマーとしての勘が告げていた。

 だがその勘は盛大に外れ、もう一度咆哮したジェネシスライダーは後ろ脚を大きく蹴り上げた。


 今まで突進以外の攻撃をしてこなかった白色のボアの予想外の行動に、背後から攻撃をしていたカエデは避けきれず直撃してしまう。大きく吹き飛ばされ壁に激突したカエデの体力は、六割ほどまで減少していた。


(クソッ、やっぱり行動パターンが変化したか。カエデが戻ってくるまで耐えるしかない!)


 カエデが減少した体力を回復するまで一人でジェネシスライダーの攻撃を受け続ける。防御役の交代が出来ない俺は回復も行えず猛攻を受け続けていた。時折ときおり混ざるボアによる牙の攻撃や、さっきとは違う剣筋に防御が追い付かない。

 俺の体力が半分を切ろうとしたその時、遠くから猛スピードで突進してくるカエデをスキル【共鳴】で察知する。


「カズト君下がって!」


 『チャージスタブ』でジェネシスライダーの注意を引きながらカエデが言った。俺は一度下がり体力を回復させ、すぐさま戦線に復帰する。


「気を付けろカエデ! さっきよりかなり行動パターンが増えてる、あとスキルは出来るだけ温存してくれ!」


 作戦の細かな意図を伝える時間は無かった。簡潔にそう叫び、何とかジェネシスライダーの攻撃に対応しつつ、ダメージを与えていく。ジェネシスライダーの体力が二割を切ったその瞬間、カエデに向けて叫ぶ。


「今だ! 全部のスキルを使って攻撃するぞ!」


 スキルを温存していた理由は一つ。体力の減少による攻撃パターンの変化がもう一段階ある可能性を捨てきれなかったからだ。クールタイムを経過したほぼ全てのスキルを使って、二人でジェネシスライダーにスキルを叩き込む。体力が残り数ミリになった瞬間、ジェネシスライダーは最後の力を振り絞り俺を目掛けて聖剣を振り下ろす。

 待ってましたと言わんばかりに正面に構えた剣を青白く発光させ、最後に残していたスキル『カウンター』で迎撃するとジェネシスライダーは消滅した。

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