第17話 漆黒の剣士

 その後、ダンジョンのマッピング率が55%になった所でローデンブルグへ帰還した。

 次の日から俺達は毎日ダンジョン後半の攻略を進める。途中、ゴブリンの上位種である『レッドゴブリン』と遭遇した。ゴブリンとの違いは体が赤いことと、裸では無くボロい布を身につけていること。

 そして武器が棍棒こんぼうから、棍棒の先に尖った石を付けているという変化ぐらいであまり苦戦することは無かった。


 そして十日後、マッピング率が90%を超える。レベルは12まで上昇し、三つ目のスキル『ウォークライ』を獲得した。入手した素材で武器も二段階強化を行えた。残念ながら宝箱は見つからなかったが、順調に攻略を進めることが出来ていることには満足していた。


【ウォークライ】

・使用から一分間、自身の攻撃力を10%上昇させる。



「明日には最奥部まで辿り着けそうだな」


「明日はいつもよりしっかり準備しなきゃね」


 他愛ない話をしながら通路を歩き、まだ通っていない左の通路に入る。通路の奥は行き止まりになっていたが、一番奥にレッドゴブリンが二体たむろしていた。


(倒してレベリングするか、回避するか迷うな)


 奥は行き止まりになっているのだから、わざわざ二体を相手にレベリングする必要はないだろう。そう結論付けてカエデに伝えようとしたその瞬間。


「カズト君! レッドゴブリンの後ろをよく見てみて」


「後ろに何かあるのか?」


 言われるがままに目を凝らす。レッドゴブリンの後ろには、十日間探し求めていた宝箱があった。先ほど出した結論を即座に撤回する。


「よし、行くぞカエデ。二人で左のやつに突進だ」


 すぐさまレッドゴブリンを倒すことを決めるとカエデに作戦を伝える。


「突進!? そんな適当な作戦ある!?」


 カエデが聞き返してくるが無視して『ウォークライ』を発動。続けざまに『チャージスタブ』で左のレッドゴブリン目掛けて突進する。


「もう! どうなっても知らないからね!」


 最初に俺の突きが命中し、少し遅れてカエデの突きも命中する。二発のスキルを受けたレッドゴブリンは抵抗する間もなく消滅した。

 しかし、レッドゴブリンはもう一匹残っている。最初にスキルを打ち終わった俺目掛けて、ゴブリンの石ナイフ付き棍棒が振り下ろされた。俺はまだ使用していない『カウンター』でゴブリンの攻撃を受け流し、反撃する。ゴブリンは少しよろめくが、まだまだ体力は残っていた。


 全てのスキルを打ち終えた俺の無防備な背中にゴブリンの刃が襲いかかる。しかし、その刃は俺に届くことは無かった。カエデの『ダブルスラッシュ』がゴブリンの体を切り裂き、ゴブリンは消滅した。


「さすが俺の相棒」


「ほんっと宝箱のことになるとすぐ暴走するんだから……サンドイッチ奢りね」


「わかったわかった、それより早速開けてみようぜ」


 そう言った瞬間カエデが俺をじっと見る。


「大丈夫だよ、ミミックかどうか確認してからな」


 ちょんちょんとつついてみる、反応なし。これで正真正銘初めての宝箱ゲットだ。せっかくの初めての宝箱、カエデと二人で開けることにする。


「「せーのっ!」」


 宝箱の中身は【漆黒シリーズ】と名付けられた防具だった。黒を基調としたカッコ良さはとうの昔に無くしたはずの厨二心をくすぐる。俺とカエデが現在装備している【旅人シリーズ】は、ザ普通といった感じで見た目の魅力は感じていなかった。


「カエデ、一生のお願いがあるんだけど……」


「分かってるわよ、それはカズト君に譲るわ。真っ黒の見た目は好みじゃないし」


「ほんとか!? ありがとうカエデ」


「その代わり次の防具は私がもらうからね」


 こころよく譲ってくれたカエデに感謝を告げ、すぐさま装備する。性能に関しては少し上がった程度だが、見た目のカッコ良さで何倍も強くなった気がする。自分の姿を見てうっとりしている俺にカエデが呆れたような声で言う。


「カズト君、見とれるのは宿に帰ってからにしてね」


「そ、そうだな。もう良い時間だし帰るか!」




 ローデンブルグに帰った俺達はいつものようにアリスの家に向かった。アリスに手に入れたばかりの防具を自慢げに話すと、カエデと同じように少し呆れて笑われてしまった。

 ミレアも苦笑していたが、クレイブだけはうんうんと頷いてくれた。どうやら真っ黒防具のカッコ良さは、男の子にしか理解出来ないらしい。

 

 帰り際に、明日ボスに挑もうと思っていることを伝えた。心配されるんだろうなと思っていたが、予想に反し三人は笑顔で送り出してくれた。


「絶対に帰ってきてね」


「すぐ帰ってくるよ、はりせんぼん飲むわけにはいかないしな」


 アリスにそう伝え頭をなでると嬉しそうに笑ってくれた。アリスの家を後にし、カエデと一緒に宿に帰る。明日の準備を済ませ、電気を消して寝る準備をしたところで、カエデが寝ころびながら話しかけてきた。




「明日は初めてのボス戦ね、カズト君は不安とかないの?」


「もちろんあるさ。でもそれ以上に叶えたい憧れがあるんだ」


「初めて会った時に言ってた『英雄になる』ってやつ?」


「ああ」


「でも死んだら一生目覚めないかもしれないのよ? その憧れはそれより大事なことなの?」


 そう聞かれて少し考える。俺はなぜ子供の頃の憧れにこんなに固執しているんだろう。ちっぽけな自尊心プライドなのか、それともただの現実逃避なのか。今の俺にはその答えを出すことは出来なかった。


「多分、な」


「ふふっ、やっぱりカズト君って面白いね」


「うるさいなぁ、そういうカエデはどうなんだよ? 怖くないのか?」


「うーん、そうだねぇ。退屈の方が怖いかな」


「退屈? どういう意味だ?」


「いつか教えてあげるわ、今日はもう寝ましょ」


 カエデは意味深にそう言うとすぐに寝息を立て始めた。追及したい気持ちはあったが、言いたくないこともあるだろうと自分を納得させる。すぐに睡魔に襲われた俺は抵抗することなく意識を手放した。

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