第16話 初めての宝箱?

 翌日、俺とカエデはダンジョン攻略に向かった。マッピングは完了しているため、扉まではサクサクと進むことが出来た。


「帰って来たな」


「そうね、昨日はキングボアがすぐそこにいたのよね」


「ああ、今日はいるか分からないけどいるつもりで扉を開けよう」


 昨日と同じく二人で扉を開ける。出来ればいないことを願っていたが、扉を開けた瞬間キングボアと目が合う。はっきりと見えるその姿はワイルドボアの数段大きく、大きな牙を持っていた。


【キングボア:Lv.8】


「カエデ、突進だけじゃないかもしれないから守り重視で戦うぞ!」


 ワイルドボアは攻撃方法が突進しか無かった。それも、突進を回避するとしばらくその場で立ちつくす。だがこいつは上位種、攻撃パターンが増えていてもおかしくはない。俺とカエデは戦闘態勢を取るとキングボアが突進してきた。いつものように回避をするとキングボアがお尻をさらす。


(攻撃するべきか?)


 一瞬迷った。結果的にその迷いが俺を救うことになる。キングボアは突進を回避した俺を認識していたのか、すぐに振り向きもう一度突進してきた。


(連続で突進してくるのか! 避けきれない!)


 避けきれないと悟り体の前に剣を構える、そして二つ目に習得したスキル【カウンター】を発動する。スキル発動時特有の青白い光をまとった剣で、キングボアの突進攻撃を受け流し、すれ違いざまに斬りつける。


 キングボアが少しよろめく。その隙にカエデが【チャージスタブ】でキングボアに突進する。アクティブスキルを二発受けたキングボアはHPゲージが三割まで減少していた。


(流石は上位種だな、スキル二発でこの程度か)


 ダンジョン前半のワイルドボアやゴブリンなら、レベルアップによる筋力の上昇、武器の強化の恩恵もあり、スキル一発で倒せるほどに俺達は成長していた。


「カエデ! 俺はもうカウンターは使えない、次の突進を剣で受け止めるからその隙に倒してくれ!」


「了解!」


 キングボアはもう次の突進の助走を始めていた。剣を構え、受け止める準備を整える。キングボアが大きな牙を突き出し突進を開始した。牙が体に突き刺さらない様に微調整し、牙と剣がぶつかるように受け止める。衝撃は完全には殺せず、俺のHPゲージを一割ほど減らして突進は止まった。


 【共鳴】によりカエデが後ろでスタンバイしているのは分かっていた。次の瞬間、カエデが俺の頭を飛び越え、【ダブルスラッシュ】を発動させた。着地と同時に剣を振り下ろし、返しの斬り上げが直撃するとキングボアのHPゲージは無くなり消滅した。


「強かったぁ、さすがは後半の敵って感じね」


「今まで以上に気を引き締めていかないとな」


 そう返し、一割ほど減少したHPを回復するために回復薬を飲む。かなり苦いが、HPを少量とはいえ回復してくれるんだ。文句は言っていられない。


「よし、じゃあこの調子で攻略を再開しようか」



 その後、俺達は慎重に攻略を進めていった。キングボアを三体ほど倒した頃、目の前に少し小さな扉が現れた。


「また扉……でもさっきの扉とちがって小さいね」


「ああ、それにこの扉からは宝箱の匂いがする」


 ゲームの醍醐味だいごみと言ってもいい宝箱。ダンジョンの前半では宝箱は一つも見つからなかった。なかば宝箱の存在を諦めかけていた俺は、柄にもなくテンションが上がった。


 すぐに扉を開け放つ。扉の先は小部屋のようになっていて、部屋の中央には予想通り宝箱が存在していた。宝箱を認識した直後、すぐさま走り出した俺だったが何かに引っ張られた。


「ぐぇっ」


 襟に首を絞められ、声にならない声が口から出る。後ろを見るとカエデが俺の首根っこを掴んでいた。


「なにするんだよ!」


「何するんだじゃないわよバカ。宝箱に警戒もしないなんてホントにゲーマーなの?」


 そう言われて正気を取り戻す。宝箱に擬態ぎたいする『ミミック』はゲームのお馴染みモンスターだ。宝箱に飢えていた俺はミミックの存在が頭からすっぽりと抜けていた。


「ごめんなさい……」


 謝ることしか出来ない情けない俺。落ち込んでいるのを見かねたのかカエデがフォローしてくれた。


「まあ初めての宝箱で興奮する気持ちは理解できるわ、でも死んだらおしまいなんだから次から気をつけてね?」


「ああ、もちろんだ」


 少し深呼吸した後、宝箱がミミックであるかを確認するためにカエデが剣でちょんちょんした。その瞬間宝箱が大口を開け剣に噛み付いた。


「カズト君!」


「まかせろ!」


 言葉にしなくてもカエデの意図は伝わった。カエデの剣に夢中になっているミミックを、真上から串刺しにするかのように突き刺す。ミミックはその一撃で完全に消滅した。


「ミミックだったかぁ、残念」


「でも逆に考えれば宝箱はどこかにあるってことだろ?宝箱がないならミミックがいるはずないからな」


 俺は本心からそう言う。ミミックを見つけるまで、このゲームには宝箱という概念自体が存在しないと思っていた。宝箱があるという事実だけで探索のモチベーションも上がるってもんだ。


「隅々まで探索するぞ! カエデ!」


「お〜」


 カエデはやる気MAXな俺に少し引いたのか、ふにゃふにゃした言葉を返してきた。

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