第11話 初めてのダンジョン攻略

「ここがダンジョンか」


 目の前には岩壁がんぺきに囲まれた洞窟どうくつの入り口のようなものが存在していた。初めてのモンスターとの戦闘。今までのゲームとは違う、一度死んだら終わりの緊張感は味わったことのないものだった。


「カズト君、一旦落ち着いて作戦をおさらいしましょう」


 カエデも少し緊張している様子だった。


「ああ、そうだな」


 俺たちはサンドウィッチを食べているときにある程度の作戦を立てていた。

 とりあえず、入り口付近の弱いモンスターを倒してレベルを上げられるだけ上げること。お互い職業は【剣士】を選択していることから、もし囲まれてしまった場合は背中を預けて正面の敵に集中して戦うこと。絶対にすぐに助けられる範囲にいること。はぐれてしまった場合は、どこかに隠れてメッセージを飛ばすこと。


 少し話してお互いに落ち着いたところで、ダンジョン攻略に向かうことにした。

 ダンジョンに入ると、内部は少し広めの一本道になっていた。所々に分かれ道はあるが、気を付けていればモンスターに囲まれることは無いなと一安心する。


「横から挟まれないように、分かれ道があるところは注意しよう」


「おっけい。じゃあ気をつけてゆっくり進もっか」


 過剰かじょうなほどに周りを気にしながらゆっくりと歩を進めていく。一度もモンスターと遭遇そうぐうすることなく最初の分かれ道がやってきた。


「まっすぐ進むか左に進むか、どうする?」


「カズト君が決めていいよ」


「じゃあ左にいこう」


 左に行くことを決め、顔だけを出し左の道にモンスターがいないかを確認する。


 


 少し離れたところに、茶色い毛並みで猪みたいな大きさのモンスターが背中を向けていた。少し集中してそのモンスターを見ると、モンスターの上部に名前とレベル、HPゲージが浮かび上がった。


【ワイルドボア:Lv.1】


 あれがワイルドボアか。既に二度食べたことはあるが、姿を見るのは初めてだった。


「カエデ、左の通路の先にワイルドボアっていう猪のモンスターがいる。今は背中を向けているからこっそり近づいて倒そう。もし気付かれた場合はそのまま戦闘だ」


 俺はカエデにそう伝えると、なるべく音を消してワイルドボアに近づく。カエデは無言でうなずいて俺の後ろからついてきてくれた。

 ワイルドボアは俺たちの接近に全然気づいていなかった。剣が届く範囲まで近づき、右手で背中の【ロングソード】を抜く。思い切り振りかぶり、お尻目掛けて振り下ろした。

 ワイルドボアは鳴き声を上げ、俺たちから距離を取ると正面を向き戦闘態勢を取る。チラッと体力ゲージを確認すると、三分の一ほど削れていた。


「カエデ、体力ゲージは見えるか?」


「見えるわ! あと二発ってところね!」


「よし、見た目からしておそらく突進してくるだろう。かわして二人で止めを刺すぞ!」


「おっけい!」


 ワイルドボアは鼻息を荒くすると、予想通り俺たち目掛けて突進してきた。俺は右に、カエデは左に躱すとワイルドボアは無防備にお尻をさらす。


「「はぁっ!!」」


 二人同時に無防備なお尻を斬りつけると、ワイルドボアは倒れた。HPゲージが空になると同時にワイルドボアの姿はだんだんと薄くなり、やがて消滅した。


「はぁぁぁ、緊張したぁ」


 カエデが気の抜けた声を出す。俺も同意見だった。たかがレベル1の雑魚ざこモンスター。通常のゲームであれば何も考えず倒すことが出来たはず。


(これが死んだら終わりのゲームの緊張感か)


 初めて味わう感情にやはりこれは俺の理想のゲームだと確信した。


 一息つき、ワイルドボアを倒したときに手に入れた経験値とGゴールドを確認する。俺とカエデはお互いに30経験値と100Gを手に入れていた。残念ながらレベルは上がらなかったが、経験値ゲージは半分ほど蓄積されていて、次のレベルまで残り30と表示されていた。


「あと一体ワイルドボアを倒せばレベルアップか。どうする? 探索を再開するか?」


「当たり前じゃない、一回戦闘して緊張もほぐれたし再開しましょ」


 そう決めるとさっきほどではないがゆっくりと進んでいく。ある程度進むと、100cmくらいの人型モンスターが現れた。今回はワイルドボアではなく、ゲームではお馴染みのモンスターだった。


【ゴブリン:Lv.2】

 

「カエデ、とりあえず行動パターンを把握しよう。俺が前に出る」


「了解。危なくなったら下がってね」


 幸い、ゴブリンはリーチの短い棍棒こんぼうを持っているだけだった。闇雲やみくもに棍棒を振り回すゴブリンの攻撃を距離を取って躱す。


(まだ一層だしな、こんなもんか)


 少し油断したその瞬間、ゴブリンが手に持っていた棍棒を投げつけた。距離を取って安心していた俺は、とっさに回避することが出来ず顔面に受けてしまう。

 痛みは無いが、フルダイブゲーム特有の不快感と衝撃が俺を襲った。後ろに吹き飛ばされながらゴブリンを見ると、掴みかかろうと俺に向かってきている。


(やばい!)


 咄嗟に体の前に剣を出し、防御の姿勢を取る。しかしゴブリンは俺にとびかかる前に体力ゲージを全損ぜんそんし、消滅した。


「全く、油断しすぎじゃない?」


 後ろで見ていたカエデが、俺に夢中になっていたゴブリンを倒すとあきれた声で言った。


「ごめん、助かったよ」


 差し出された手を取り起き上がる。ゴブリンを倒したことで俺たちはレベルアップしていた。どうやらパーティを組んでいると、モンスターに攻撃していなくても経験値はもらえるらしい。周りにモンスターがいないことを確認し、ステータス画面を開く。


【名前】:カズト

【レベル】:2

【体力】:120/130

【武器】:ロングソード

【防具】:旅人シリーズ

【筋力】:5

【敏捷】:5

【耐久】:5

【魔力】:5

【割り振り可能ポイント】5


 体力が100から130に増えている。少し減っているのはさっきのゴブリンの攻撃による影響だろう。そして【割り振り可能ポイント】というのは恐らく、【筋力】【敏捷】【耐久】【魔力】のいずれかのステータスに自由に割り振れるということなんだろう。何にするか迷っているとカエデがこっちを見た。


「カズト、ステータス何に割り振るの?」


「んー、迷ってるけど、筋力多めで魔力は無し、あとは均等にしようかな」


「へえ、なんで?」


「決まってるだろ? 筋肉はすべてを解決するんだよ」


 カエデは呆れたように笑いメニュー画面を操作し始めた。俺はちょっと滑ったかなと思ったが、気にせずメニュー画面の操作を再開する。結局、カエデに言った通りステータスを振り分けた。

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