第10話 カエデとアリス
「おかえりカズト!」
アリスの家に着き、顔を合わせるとすぐに笑顔で出迎えてくれた。ひとまず覚えていてくれたことに安心した。しかし、隣にいるカエデに気が付くと少し
「隣の女の人は?」
「ああ、知り合いの冒険者で一緒にダンジョン攻略に行こうと思ってるんだ」
簡潔にカエデのことを説明する。
「はじめまして、カエデです。よろしくね」
少し礼儀正しくカエデが挨拶する。アリスはまだ拗ねた表情を保ったまま挨拶を返す。
「アリスです」
俺はなぜアリスがこんなに不機嫌なのか分からなかったが、カエデは理解したのかこう提案してきた。
「カズト君、二人で話したいこともあるだろうし、アリスちゃんの部屋で話した方がいいんじゃない? 私はここでご両親と話しておくわ」
俺は何が何だかわからなかったが、ミレアとクレイブが微笑ましい顔で『うんうん』と頷いているのを見て、カエデに従うことにした。
「わ、分かった。じゃあアリス行こうか」
アリスはまだ拗ねた顔をしていたが、二人で話すことには納得したのか部屋まで歩き始めた。部屋に入るとすぐにアリスが詰め寄ってくる。
「カズト、あんな綺麗な女の人と知り合いだったの? 昨日は一人でダンジョンに行くって言ってたのに……」
「あ~、ついさっき知り合ったばかりなんだ。一人でもよかったんだけど、二人の方がダンジョンも安全に攻略できるかなと思って。アリス達にも心配かけたくなかったからさ」
アリスが拗ねたような顔をしているのを見て、何も悪いことをしていないのに言い訳じみた説明をする。その説明を聞いたアリスは少し顔を明るく変えた。
「そうなんだ。私に心配をかけないため? 私のことが大事だから仕方なくカエデと一緒にいるってこと?」
仕方なく、ではないけど、そこを否定するとまたアリスの機嫌が悪くなりそうな予感がした。
「もちろんアリスのためだよ」
アリスは完全に機嫌が直ったのか、勝ち誇ったような笑顔を浮かべている。
「それならいいわ、さっきは変な態度を取っちゃってごめんなさい。カエデさんにも謝りたいし、リビングに戻りましょ」
言葉の選択を間違えずに済んだことに、そっと胸をなでおろした。
もうミレアとクレイブと打ち解けたのか、リビングに戻ると三人は和やかに談笑していた。戻ってきた俺たちに気づくと、カエデがこっちを見た。
「おかえりカズト君、アリスちゃん」
その言葉を聞いて、ミレアとクレイブもこっちを見る。
「カエデさん、さっきはちょっと勘違いしちゃって失礼な態度取ってごめんなさい」
アリスがそう言ってペコリと頭を下げる。カエデが『やるじゃん』と言いたげな表情で俺を見た。ミレアとクレイブは先ほどと同じく微笑ましい顔で『うんうん』と頷いていた。
「気にしてないよアリスちゃん。これから仲良くしてくれる?」
「もちろん! でもカズトは私のものだからね」
アリスの発言に俺は吹き出しそうになった。少なくとも嫌われてはないだろうとは思っていたが、こんなにはっきりと言われると照れ臭い。そっぽを向く俺とは対照的に、カエデとミレアとクレイブは顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、行ってきます」
少しリビングでゆっくりした後、アリス達に別れを告げた。二人に増えてしまったし、ずっと家に泊めてもらうわけにもいかない。出来るだけ話をしに顔を出すことを伝えると、アリスも納得してくれた。
「それにしてもカズト、アリスちゃんにすごいなつかれてるわね」
「まあ、色々あったからな」
昨日のことはカエデに詳しく話していない。アリスにとっては思い出したくもない話だろうし、誰かに話す必要もないと思ったからだ。
「とりあえずダンジョン攻略に行く前に、道具屋に寄ってから行こうぜ」
道具屋に着くと、薬草などのダンジョン攻略用アイテムがずらっと並べられていた。だがその中に転移結晶は見当たらなかった。
「赤い正六面体の形をした転移結晶って置いてないんですか?」
「あれは貴重なものだからうちにはないね。どうしても欲しいなら、ダンジョンのモンスターを倒したら
そんな貴重なものだったのか。ミレアさんに心の中でもう一度礼を言う。とりあえず回復薬をいくつか購入、もちろん代金はカエデに出してもらう。モンスターを倒したらお金を返すことを約束し、ダンジョンへ向かった。
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