訳アリ騎士団運営・後

さて、世界に魔王が降臨してから早数日。

既に各国ではシャレにならないほどの被害報告が寄せられていた。


そもそも魔王の降臨は、数十年から数百年に一度の世界的災害である。

一度降臨すれば、それだけで地上には様々な天災を引き起こすのだ

国が亡ぶことも珍しいことではなく、むしろ片手の数で済めば御の字。

過去にさかのぼれば、一つの国を残して、ほぼ全ての国が滅んだなんて記録も残されている。


「で、今回の魔王は?」

「一応、教会の者は【深海魔王】と命名しているそうです。

 深海に潜み、豊富な海魔物の傘下で地上を侵略するらしいです」

「へー、ところでうちの国に海ってあったっけ?」

「ないですね。

 一応内海はありますが、あれは大きい湖なので」


が、幸か不幸か件の魔王は我が国では発生せず、その配下も我が国が内陸国なので今のところは手出しはできないらしい。

しかし、かといって影響がないかと言われるとそんなわけもなく。

友好国の魔王被害や渡来品の物価の高騰、さらには魔王降臨に伴い各地の魔物が凶暴化しているのだ。

さらに言えば、我々竜皇国は軍事国としても有名であり、かつ無数の同盟国を有している。

今動かずしていつ動くというのだ。


「では、自分達雷竜騎士団も動かなきゃいけないというわけか」

「ですね。

 まぁ、いきなり魔王軍討伐や隣国の援軍なんて任務には就かされないとは思いますが、軽い戦闘くらいは覚悟しておいてください」


そうして、渡された仕事の資料を見てみると、そこには国内による魔物被害や盗賊被害が無数に書かれていた。

そう、魔王軍による被害は受けていないものの、魔王の活性化によって魔物が活性化しているのだ。

そのせいで、各地で日ごろは無害な魔物が暴走したり、その混乱に乗じて盗賊なども発生しているのだ。


「日頃、この手の仕事は他の騎士団の仕事なんだけどなぁ……」

「他の騎士団の方は、魔王軍討伐と他国の援軍に忙しいですからね。

 まぁ、レイニッヒ様率いる雷竜騎士団には、あまり危険性の高物は回されにと思いますが……。

 その分、国内の仕事が危険度の低い仕事がすべて回されますので、忙しくなると思いますよ?」


う~む、最近ようやく新前騎士に教育がおわり、仕事が楽になるとおもったのに。

まともな雷竜騎士が増えたおかげで、任務が滞りなく進められると喜ぶべきか、ようやく雷竜に乗れるようになったばかりの新人が、危険性が低いとはいえ、怪我する可能性がある任務に行くことに嘆くべくか。

悩みどころである。


「でも、前線よりはましだよね?」

「ですね!

まぁ、私も雷竜ちゃん達が活躍するのはうれしいですが、あまり傷ついてほしくないので!

 噂によれば、魔王の配下は、通常の魔物とは比べ物にならないくらい強力らしいですからね!」


かくして、私は前線に赴く他竜騎士団の冥福を祈りつつ、せめて、国内の安全ぐらいは保とうと、気合を入れるのでした。




――そして、2年後。


「サンビアにワームが出現しました!

 至急救援に向かってください!」

「団長~盗賊団を仕留めてきたぞ~。

 残りは岩竜騎士団に引き渡してきたから、完了の印を押してくれ~」

「え?急だが、要人警護の引き継?

 風竜騎士団からで、内容は花華国の貴族と騎士団?

 怪我人もいるから、医者も必要?

 そんな急にいわれても!!」


――なんとそこには、仕事でてんやわんやになっている雷竜騎士団の姿が!


多いよ多い!

というかできてからまだ10年もたってない騎士団にやらせる量じゃないよこれ!

いや、理由はわかり切っているのだ。

元々この国は、複数の竜騎士団があり、それらが協力して国内の治安維持やら仕事を為してきたのだ。

でも、今は魔王侵略に従い、半分以上の竜騎士及び騎士団が他国のものへ向かっているのだ。

しかも国内に残ったのは、方や岩竜騎士と呼ばれる飛べない竜の騎士団であり、現在竜皇国に残っている飛竜所有の騎士団は、うちと近衛騎士団だけだ。

近衛騎士団は細事で動かすわけにもいかず、そのため、飛竜が必要な仕事はすべてにうちに回ってきてしまうというわけだ。

幸いにも、2年間みっちりトレーニングをしたおかげで、騎士団が激務でつぶれることはないが、精神は別話。

本当ならストライキに一つや二つくらいしたいが、騎士団長兼王族という立場がそれを許してくれない。

くそう!どれもこれも魔王のせいだ!早く退治されてくれ!


「ねぇねぇ、副官君!

 あとどのくらいで魔王は退治されるかなぁ?」

「残念ながら、皆目見当もつきませんね。

 というかむしろ、最近は押されているそうですよ?」


ふぁっくふぁっく。




――なお、半年後


「ねぇねぇ、副官君。

 うちの任務なのに、国外に行ってこいって任務があるんだけど。

 これって何かの間違いじゃない?」

「う、うちの騎士団の実力が認められたんですよ!

 よかったですね!」


くそがよぉ……!




――で、さらに半年後。


〈ウィkヴェロsじゃ絵qvえいそでくぁ@ふぇい!!〉

「「「て、敵襲だぁああ!!!!」」」

「……!!」

「……何をぼっと突っ立っている!

 みんな各々護衛対象を守れ!!

 敵に対処しろ!!」


――そして、ついに地獄の窯は開かれた。


これは私の油断が招いた事。

数と共に難易度もあがり続けているが、相変わらず致命的な失敗を負わず。

団員の欠員もないため、失敗率も低い。

なので、国外の任務を回されるも、特に問題ないと思ってしまった。


『今回は……よろしくお願いします』


きっかけは、天馬国の要人の救出の任務であった。

天馬国はこの度の魔王の襲来による大きく疲弊した国の一つだ。

実際に滅びかけており、そのためにせめて血だけは残そうと、そこの姫君と彼女を護衛する聖馬姫騎士隊を救出して来いという任務であった。

この任務は危険な国外の任務ではあるものの、楽な任務であるはずだった。

落ち合う場所も決まっているし、集合場所は前線よりそこそこ離れていた。

そのことを団員皆理解しており、団員も如何に奇襲に備えるかよりもどうやったら、失礼にならないかなどという事ばかり考えていた。

……そんなこと敵にばれているとも知らずに。


「く!敵を近寄らせるな!

 咆撃開始ぃィぃィぃ!」


号令に合わせて、雷竜達の口からブレスが吐かれるも、魔王軍はそれを呼んでおり、ブレスに合わせて魔法で水の盾を作った。

そうだ、我々は奇襲を受けてしまったのだ。

そもそも、今回の任務は救出ながら、ほぼ亡国の危険地帯に、異なる国の王族が二人も集合するのだ、人類の敵である魔王軍が狙わないわけがない。

此方は油断した竜騎士に、敗戦国の姫とその護衛。

相手は、すでにいくつかの国を滅ぼした精鋭魔物部隊。

そう、そして気付いた時に時すでに遅く、魔物の魔の手が我々を襲い……。




〈〈〈wくらぽdそwqvkdjgvべがtf!!!?????〉〉〉

「……あれ?ブレス、普通に有効じゃね?」

「はっはっは!まっさか~!

 あれは演技だろ、精鋭魔物部隊がこんな雑な攻撃で敗れるわけが……。

 あれ~~~?」


なんか、普通に失敗していた。


〈………伊rソイgxgs!!〉

「お、なんか引いていくぞ」

「これは護衛任務成功……、ってことで良いのかな?」

「………!!!!何をぼっさとしてるんですか!!

 早く追撃してください!!一匹のこらず!!」

「え、でも……」

「でもも、しかしもありません!!!

 逃がせば、100を超える追撃部隊が用意されます!

 はやく!!!!殺されたいのか!!!!!!」


激昂する姫と姫騎士隊に急かされながら、魔王軍奇襲部隊を撃退、壊滅させることに成功した。


「思ったよりも柔かったな~~~」


黒焦げになった魔王軍を見ながら、そんな感想が出てくる。

どうやら、向こうは火竜や天馬(ペガサス)の対策はしていたが、雷竜の対策はしていなかったようなのだ。

おかげであの水の盾は、遠距離物理攻撃や魔法攻撃に強くても、電撃には効果が十全には発揮しないようだ。


「ありがとうございます!

 おかげで、多少の仇討ちができました!」


それよりも個人的には、先ほどの姫様と姫騎士隊の豹変ぶりのほうが怖かったし、団員の態度も見るに、同意見のようだ。

いやまぁ、必死なのはわかるから何も言わないけどね?


「では、追撃部隊が来る前に避難しましょう。

 次もうまくいくとは限らないので」

「はい、ありがとうございます!

 ……ですが、一つだけお願いがありますけど、よろしいでしょうか?

 実は、まだこの地域で逃げていない集落があるのです。

 せめて、そこへ避難の呼びかけだけでもしていただければと……」

「それくらい、お安い御用ですよ」


かくして、我々はちょっとしたハプニングに見舞われながらも、任務は続行。

姫様のちょっとしたお願いを聞きながら、ゆっくりと避難を続けるのでした。



――なお、半月後


「……!!すいません、あそこの集落が襲われています!

 今すぐ我らで助けに行くので、援護のほどをよろしくお願いします!」


――さらに、半月後


「な!あれは、【ペガサスフォール】!!あれのせいで、我々の天馬国のペガサスが次々と……!!

 このままですと、天空馬車や私達が乗っている天馬が動かず、どの道じり貧です!

 ですので、父上の仇……取らせてもらいます!!」


――一か月後。


「つまり、この辺一帯の民を救うには、あそこの魔王軍の基地を壊すしかありまえん!

 困難かと思われますが、共に民のため、両国の未来のため、やりましょう!!」


――二か月後


「ついに来ました!私たちの王都!

 ここまで、ここまで本当に長かったです……!!

 挫けそうにもなりましたし、二度と帰れないかと思いました!!」

「ねぇ、そろそろ帰らない?」

「ですが!!ついに私達は、この王都に、天馬騎士の王都にたどり着きました!

 今こそ、魔王軍からこの城を奪還する時が来たのです!!」

「いや、もういいじゃん?

 十分自分たちは善戦したよ、頑張ったよ。

 だから、そろそろ帰って休養しよ?」


はい、というわけで現在私達は天馬国の王都の目の前に来てしまった。

というのも、はじめは単なる避難誘導の任務のはずが、いつの間にか天馬国内の魔王軍ぶっ殺しツアーに変化。

そして最終的には、天馬国王都の奪還作戦にまで発展してしまったわけだ。

どうしてこうなった。


「レイニッヒ様は優しいのですね。

 こんな、何も残されていない私を気遣ってくれるなんて……

 ……しかし、私はくじけません!私は天馬国の姫【白翼のリーフ】!

 ここで、ひいては天馬国が、いえ、女が廃ります!

 たとえ敵と刺し違えてでも、復讐を成し遂げるつもりです!!」

「聞けよ」


なお、大体の原因はこの天馬国の姫リーフが原因だ。

彼女が、あの手この手で言い訳や方便を考え、なんとか我々を魔王軍と戦うように仕向けたのだ。

そのせいで、あの救出作戦を始めてからずっと臨戦連戦、幸い死者は出てないが、それでも部隊みんな疲労困憊。

私も見捨てられるなら見捨てたいし、今すぐにでも帰りたいのが本音。

でも本当に見捨ててしまったら国際問題であるし、無理やり連れ帰るのも近接戦は姫をはじめとする天馬の騎士団のほうが上なのである。

かなしぃなぁ。


「報告します!

 竜皇国より、雷竜騎士団の王都奪還作戦の許可が取れました!!」

「でかしました!!」


でかしてねーよ。

というか、なんで国も許可いるんだよ。

我王族ぞ??お前も俺もこんなところで死んでいい人物ではないぞ??


「ふふふ、父上と弟の仇……。

 まもなく取れます、待っていてください!」

「皆殺し、皆殺し……くひひ♪」

「ひえっ」


ついでに言うと、本来止めるべき役割をもつはずの聖馬姫騎士部隊は、姫の護衛のはずなのになぜかイケイケで、当初は多少の取り繕いをしていたが、現在は魔物への深い憎しみと狂気を隠そうとしない。

ハーピーやらマーメイドやらの人型の魔物であろうとも、彼女らが命乞いをしようともお構いなし、むしろ積極的に殺し、拷問までするほどだ。

私だけがおかしいのかと思ったが、雷竜騎士団のみんなもドンびいているのでおそらく彼女たちがおかしいのだろう。

うんうんよかったね!すごく帰りたい。


「ふふふ、そう心配なさらずとも、ここを奪還すれば天馬国は救われます。

 そうすれば、この国にも平和が訪れ……、私も安心して竜皇国に挨拶しに行けます」

「避難つってるだろうが、この女郎」


こうして、私はリーフ姫に王都奪還作戦の後、絶対に避難をしてもらうと約束してもらった上で、天馬国の旧王都へと突撃したのであった。


え?結果?

まぁ、普通に勝ちましたわ。




――半年後。


「おお!よくぞ戻ったレイニッヒよ!

 大丈夫か?怪我をしてないか?病気にはなってないか?」

「……」

「いや、それはこちらの台詞なのですが????」


――なんとそこには、ぼこぼこにケガをした父王と兄の姿が!


一体何事かと聞けば、どうやら自分の出撃許可証を発行したのは兄だったようだ。

兄としては世界を救うため、多少の犠牲やリスクはやむなしと考え、雷竜騎士団を国外に、さらに活躍したと聞けば理由をつけて、前線へと送ったのだそうだ。

いやまぁ、自分が王族なのになんで前線許可が出るんだよとは思っていたが、理由が分かって何よりである。


「でも、当然儂はそんな意見には反対じゃからな。

 こいつは皇太子だからと言って、儂の許可なし許可を出す、つまりは王権を無視したというわけじゃ。

 というわけで、お主さえよければ、こ奴とその部下を今すぐにでも処刑するが、どうする?」


さらっと長男の死刑を提案するのをやめてくれない?

私は知らなかったようだが、どうやら長男と父王は相当仲が悪いようだ。

とりあえず、ここで兄上が処刑されてしまうと後継者が自分なんてことになりかねないので、なんとか中止に。

まぁ、色々言いたいことはあるが、兄上を許すことにした。


「むぅ、お主のお願いなら仕方ない。

 レイニッヒの優しさに感謝するがよい。

 ……だが、今度同じようなことをしたら、処刑どころでは済まないからな?」


父王、怖いです。

しかしまぁ、自分の説得もあり、なんとか父は兄の処刑を断念してくれた。

よって、長かった護衛任務という名の天馬国奪還作戦も無事終わり、雷竜騎士団は無数の勲章と共に久々の長期の休みをいただくことになった。

ふぅ、今回の依頼はなかなかにハードであったが、結果だけ見れば部下の欠員はなく、武名も上げ、評判もばっちりといえるだろう!

後は、魔王が討伐されるまで国に引きこもり、引退までこの評判を維持、惜しまれながら引退というルートが現実的だろう。

それに、これ以上の危険度の高い任務は父王が止めるだろうし、残りは他騎士団に頑張ってもらうべ!

よし!これはもう勝ったながはは!!




――なお、一月後


「魔王軍の進行はますます強くなり、3つの国が滅びました」


へ―そうなんだ大変だね。


――二月後


「天馬国が再侵攻されました!

 至急援軍を要請しております!」


くっ!なんてことだ!すぐに助けに行かねば!

というわけで、火竜騎士団の皆さん!!やっちゃってください!


――三月後


「あの……天馬国の王都が落とされたと……」


え!?マジ!?

この国一番の火竜騎士団が向かったのに!?

折角一度は助かった命であったのに……非常に残念だ。

リーフ姫と聖馬騎士団のご冥福をお祈りします。




――半年後




「見 つ け ま し た よ レ イ ニ ッ ヒ 様 ! !

 と も に 参 り ま し ょ う ぞ! !」


げぇ!リーフ姫ぇ!?

じゃーん!じゃーん!




――で、1年後。


「あ、あれは天馬国を滅亡の危機に追いやった【ペガサスフォール】!

 あっちには、竜皇国の火竜騎士団を半壊状態に追いやった【ドラゴンキラー】まで!!

 もうだめだぁ!お終いだぁ!」

「いやまて、あれは……雷竜騎士団!?まさか、本当に来てくれたのか!?」

「そ、それじゃぁ、あの人が、あの魔将殺しの……よろしくお願いします!」


――殺せ……

――いっそ、殺せ……


というわけで、現在は懐かしの魔王軍前線にいる。

しかも、今回の任務は魔王軍の本隊に特攻する特殊部隊通称【勇者】、彼らが無事に魔王に突撃できるための露払い任務に従事しているというわけだ。

いやね、わかるよ?今現在対魔王軍戦線は不利であるし、今は一人でも兵が必要なのもわかる。

でもだからといって、わざわざ俺や雷竜騎士団を呼び出すことはないじゃん。

他の竜騎士部隊を連れて行けよ、そっちの方が数も質もいいだろ。


「誠に申し訳ありません、レイニッヒ様。

 しかし、今の対魔王戦線には普遍的な戦力ではなく、選ばれた勇者が必要なのです」


しらねーよ、というか選ばれた勇者ってなんだよ。

それに自分と雷竜はあくまで、偶然この前の魔王軍と相性が良かっただけであり、普通の竜騎士に比べるとむしろ弱いぐらいだぞ?

だから、返してくれよ、ここにふさわしくないから、むしろ勇気とは程遠い人間だから。


「ふふふ、そんなご謙遜することはありません、レイニッヒ様。

 あなた方は間違いなく竜皇国の勇者なのです、もっと自信を持ってください」


なお、自分がここにいる原因はこのリーフだ。

天馬国の王都の再侵攻で、ついに死んだかと思ったが、なんと普通に生きていたのだ。

なんなら、生き残って竜皇国までやってきて、兄や父王相手と激しい口論を繰り広げた後、無理やり自分を出撃させたのだ。


「まぁまぁ、ならば、あなた方の部隊はあそこにいる敵を倒してもらえませんか?

 飛んでいる敵は、私達がやりますので」

「まぁ、それくらいなら」


かくして、自分と雷竜騎士団は、安全そうな魔物の群れに突撃するであった。




――半年後。


「魔王!討ち取ったりぃぃぃぃ!!」


やったああああああああ!!

帰れるううううううう!!




――で、一月後。


「おお!よくぞ帰ってきてくれたなレイニッヒよ!

 いろいろ言いたいことはあるが、まずはバーシバルの処刑からじゃな!

 まったく、レイニッヒを危険な目に合わせ負って、五体満足で生きていたからいいものを!

 とりあえず、足固めと去勢のほうは済ませておいたから、後は自由に処刑してよいぞ♪」


あ、兄上ええええええ!?!?




――三年後



「不束者ですが、よろしくお願いしますね♪」


――あくまで演技だからな?兄者のためだからな?


「ええ、ええ!あくまで建前という奴ですよね!

 わかっています」


――本当にわかっているのか?


さて、魔王討伐から三年後。

世間では竜皇国万歳だとか、竜帝黄金期と言われているが、今の自分の内心は芳しくない。

なぜなら、私はわけ合って天馬国の姫であるリーフと婚約することになってしまったからだ。

理由としては、兄の減刑のため。

というのも、兄は二度も王命を無視しして、私を前線送りにしたため、父王によって処刑されかかっていたのだ。

流石にそれがまずいことは、ニワカ王族の私でもわかるし、なにより兄が殺されれば次男である自分が王位を継がねばならない。

なんとか、王位を回避するために兄の減刑を求め、そのために父王が出した条件が天馬国の懐柔であり。

なので、事情に詳しい天馬国に伝え、姫であるリーフ姫を一時的に差し出し、婚約することで、天馬国との同盟関係を強化、実質的な属国化に成功したのである。


「ふふふ♪私としても渡りに船でした!

 どのみち天馬国は、どこかの国の助けがなければ、復興すらままなりませんから!

 それに、レイニッヒ様相手なら私は……♥」


「ねぇ、だからそれ演技だよね?

 父王が引退したら、婚約解消する感じで。

 そうやって、事前に話したよね?」


「大丈夫です。

 側室に文句をいうほど、器量の狭い女ではありませんので」


微妙にわかってるのかわかってないのかわからない発言をする、リーフに思わずため息を吐く。


「しかし、少し考えてみてください。

 レイニッヒ様が私と正式に結婚すれば、数々のメリットがありますよ?」


そして、それを見据えていたかのようにリーフは口を開いた。

私としては、顔と体は好みなくせに、怖いという一点でマイナスなのだが、話を聞くだけ聞いてみよう。


「まず第一にレイニッヒ様が私と正式に結婚すれば、世間で流れている結婚しろの催促がなくなります」


うん、それは確かにメリットだね。

でも半分は、君と婚約したせいだからね?


「第二に過去に両国の間であった外交問題がなくなります。

 具体的には、幼少期のレイニッヒ様が私のことを不細工だ、生意気だと称して、心も体もボロボロにした事件も美談に変わります」


う~ん、それも確かにメリットだけど、それは前ニッヒ君が原因だしなぁ。

いや、彼女にとっては同一人物かもしれないが、自分にとってはあまりなじみがないことだ。


「第三に、両国の移動や天馬国の復興をいいわけに、その移動時間や滞在期間を自由時間にできます」


あ、それは確かなメリットだ。

そういえばこの体になってから、まともに平和になった異世界を旅してない。

魔王の侵略のせいで、休暇の有効活用ができなかったし、今すぐにでも旅に出かけたいぐらいだからな!!


「そして、そのほかいろいろありますが最後に!

 今ここで婚約や妊娠をすれば、それを言い訳に大規模休暇が取れます。

 ええ、ええ、それはきちんとあなたの父王にも確認済です。

 どうですか?私と結婚したくなってきましたか?」


「……とりあえず、いったん保留で」


だがしかし、根は善人の姫への負の感情と休暇や旅行などを天秤にかけた場合、どちらが勝つかなど明白。

この更に数年後、私は公務を抜け出すために、彼女の手を取ることにしたのであった。

そして、以降天馬国と竜皇国の同盟関係は数百年にわたって続き、共に発展し、高め合っていく関係となるのでした。


なお、この後、父王が子供を作らないと王位を継がせると脅してきたり。

雷竜騎士団の参加者が倍増して、感電被害者も倍増したり。

雷竜騎士団の団員が性的な意味で襲われたり、大丈夫な日詐欺を受けたり。

実は兄と自分は血がつながっていなかったり、サンボルが拗ねたり。

聖馬姫騎士団の真の恐ろしさを身をもって味わわされることになるのだが……またそれは別の話である。


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