第13話 悪役貴族、初探索の褒賞を受ける

 その後、俺達は全速力で第三階層を脱出した。

 上の階層で魔物と交戦している生徒達にも直ちに地上に上がるように指示を出しながら、地上を目指して迅速に撤退する。

 ものの十五分程度で全生徒の撤収が完了し、俺達は迷宮の入口でモラン教官に第三階層で起きたことを報告した。


「あぁ? 第三階層にゴブリンロードだぁ? ゼオン。お前、またテキトーなことを……」

「事実ですわ、モラン教官。わたくしとジークも実際に交戦しました」

「ふむ。お前ら二人がそう言うなら、マジなんだろうな」


 ……おい、不良教官。俺とロレインで態度が違いすぎないか?


 俺が内心で抗議していることなど露知らず、モランは守衛の一人をギルド本部へ報告に走らせる。

 ギルドの援軍はすぐに現れ、迷宮ダンジョン内に現場検分のための冒険者パーティを送り込む。

 俺達の報告の事実確認が取れると、俺達四人はギルド本部へと連行された。


 冒険者ギルド本部の奥にある豪奢ごうしゃな会議室に通された俺達は、ギルドのお偉方から細かい事情聴取を受けることになった。

 幸いモラン教官も立ち会ってくれたが、真正面に居並ぶお偉方――いかついおっさん達――が発する威圧感は如何いかんともしがたかった。

 一通り話し終えた後、居並ぶお偉方の真ん中に座った一人が、しかつめらしい表情で深掘りしてくる。


「つまり……君達が第三階層に下りた時点で、ゴブリンロードはすでに第三階層にいたと?」

「確証はありませんけれど、その可能性が高いと思いますわ」

「前代未聞だな。迷宮の魔物が、自発的に本来の生息エリアを離れることはないはずだ。モラン教官、学院側で事前に迷宮内の探索はされましたか?」

「ええ。授業の直前に、俺とカティナ先生で手分けして十層まで下りて、異変がないことは確認しました」

「そうですか。詳細な原因調査は追って手配しますが、恐らく何か外的な要因が……」


 主な受け答えは、ロレインとモランが主導してくれていた。

 悪評が轟いている俺は論外として、平民のジークや奴隷のサディアが話すより、公爵令嬢であるロレインが話したほうが話がすんなり進む。ロレイン本人もそう判断したのだろう。

 実際ロレインのおかげで、冒険者ギルドのお偉方から余計な疑義を示されることはなかった。


 とはいえ、さすがの彼らも納得しがたい部分がひとつあった。


「しかし……まさか、本当に一年生だけのパーティでゴブリンロードを倒すとは……」

「パーティではありませんわ。倒したのはゼオン・ユークラッド一人です」


 ロレインが訂正するので、俺はとりなすように割って入った。


「いや。俺はたまたまとどめを刺しただけで、実際はジークとロレインの二人で倒したようなものですよ」

「何言ってんだよ、ゼオン。俺達の攻撃なんて、ほとんどダメージになってなかったぞ」


 ――余計なことを言うな、ジークっ!

 せっかくお前らに手柄をなすりつけようとしてるのに、さらっと台無しにするんじゃねえ!


 俺の思惑に気づいた様子もなく、ジークは純度一〇〇パーセントの善意で続ける。


「ロレインの言ったことが事実です。ゼオンは俺らも知らない複雑な複合魔法を使って、ゴブリンロードを一撃で倒してました」

「死骸の報告を聞いた限りでは、我々にも未知の魔法のようだった。ゼオン君、君はどうやってあの魔法を?」


 ギルドのお偉方に詰められ、俺は言葉に詰まった。

 さすがに「前世の情報を使って新魔法を開発してみました」などと言うわけにもいかない。

 かといって、努力して新魔法を開発したというには日頃の行いが悪すぎるし、実に回答に困る質問だ。


 俺が内心で頭を抱えていると、隣に座ったサディアが口を開いた。


「独自開発の魔法は、魔法師にとって生死に直結する情報です。冒険者ギルドだとしても、情報開示を強制する権利はないはずでは?」

「……ふむ。君の言う通りだな。とにかく、迷宮内の異変の情報を持ち帰ってくれたのは大きな功績だ」


 サディアのフォローで、お偉方も俺を追及するのは無理だと悟ったようだ。

 俺は目線でサディアに感謝を伝えてから、ふと原作の流れを思い出した。


 原作でゴブリンどもに襲われていたのはサディアで、彼女を助け出したジーク達は冒険者ギルドから褒賞を受ける。

 それによってジークとロレインは一層学院内で尊敬と好意を集める存在となり、サディアを見捨てたゼオンは学院から居場所がなくなっていく。


 幸い、居場所がなくなる事態にはならなさそうだが――


「君達四人全員に、異変を知らせてくれたことへの褒賞を与えたい。そして――ゼオン・ユークラッド君。君にはゴブリンロード撃破の褒賞を与えたい」

「ちょっ、ちょっ、ちょーっと待ったっ!」


 俺は机を叩いて猛然と立ち上がると、お偉方に向かって反論した。


「先程も言いましたが、俺は止めを差しただけで、ゴブリンロードと長く交戦していたのはジーク達のほうです! 褒賞なら彼らにこそ与えられるべきかと!」

「だからさっきも言ったじゃねーか。俺らの攻撃なんて、あいつにダメージ与えてなかったって」

「そうですわ。第一、あなたに手柄を恵まれるなんてまっぴらごめんですわよ」


 俺だって、そんな手柄欲しくないんだっつーの!

 学院の敬意を集めるのは、絶対にジーク達でなければならない。下手に歴史を改変して、ジークが世界を救わない世界線になるのは不穏すぎる。

 第一、ゴブリンロード討伐なんて功績を上げちまったら、今後の重要な戦闘イベントにまで駆り出されるじゃねーか! そんなの絶対に御免だ!


 とはいえ、ジークとロレインにここまで頑なに否定されては、二人に手柄を押しつけることもできない。

 俺は必死に思考を巡らせた後、内心で盛大に嘆息を漏らしながら、嫌々提案する。


「……じゃあ、四人で褒賞を等分ってことでどうでしょう? 実際、サディアの作った魔法薬ポーションに、ジークがおとり役として稼いだ時間、ロレインが敵の動きを止めてくれたから倒せたわけですし。俺一人だったら、魔法を撃つ前に確実に殺されてました」


 本当はそこに俺が含まれる事すら嫌なのだが、背に腹は代えられない。

 俺一人の功績になるくらいなら、全員で褒賞を等分のほうが遥かにマシだ。

 ジーク達なら今後もっと大きな功績を積み重ねて、きっと原作通りに大活躍をしてくれるはずだ。


 ジークとロレインはやぶさかではない顔をしている。それを見て、ギルドのお偉方も納得したようだった。


「では、そのように手配しよう。四人とも、本当によくやってくれた」

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