食事
「いただきます。」
無言の中の食事。
20名程が集まって、ただ食べるだけの時間を共有する。
塩で揉んだ、大根と蓮根の先ほど料理のレクチャーを受けた、えのき茸を炒めた、塩なめ茸が絡められた和え物を食す。
静かな空間に、シャキシャキと鳴る蓮根を噛み砕く音が鳴り響く。
味噌汁を飲み込む喉仏を通る音。
箸で一口大に切り分ける、箸と皿のあたる音。
初めは、(あっ!これ美味しい。)とか。
(これ、味薄いな。私だったら、酢で煮てから)。
私的な発想が脳裏を走り出す。
噛み締める度に、「いただきます。」を言う前に言われた言葉を思い出す。
「食べる時に、ジャッジをしないで下さい。」
「ただ、食べていることに、意識を向けて下さい。」
菜の花のお浸しを口に入れ、噛む。
次に広がった思いは、料理を作って頂いたことに感謝の思い。
その思いが満たす前に、食材を作って下さった。野菜を育てて下さった方に、感謝の思いが広がり始め、土や、太陽、雨に、風、落ち葉を落としてくれた木に、食材を運んで下さった方。販売をして下さったレジ係の人。この会を開いて下さったあいこさん。走馬灯のように次々と感謝の思いが溢れだしたと思ったら、今度は、ただ生きていることに、生かされていることに、ここに存在することに感謝と、めくるめく先まで感謝の念が広がり続けようとしていた。
(不思議だ。。。)
頭の中には、僧侶の善。食事風景が映っていた。
食事をするだけで、「幸せ」と、「感謝」と、「平和」と、「幸福感」が、ただただ広がり行く。そんな空間を味わっていた。
「みなさま。どうでした?」
「食べることに集中する。」
「みなさんの感想をお聞かせ下さい。」
「普段、如何に、自分を、「雑に扱っていた」のかを、知りました。」
「噛んでいることを感じ。喉元を通りすぎることを感じ。味、食感、臭い、音。普段、ただ口に入れて、体内に入れる。なんにも感じ取ろうともせずに、他の色んな事と紛れて、流れ去るような、無意識な時間を過ごしていました。随分、自分を無視し続けていたのだと、感じました。」
「如何でしたか?」
「初めは、食べている音が、噛む音が聞こえたり、味を感じたりしていました。ある時ふっと、何も音の無い静かなシーンとなった時間がありました。」
「凄いですね。」
「如何でしたか?」
「普段、主人が早く食べる人で、主人に合わせてあっという間に食べてしまうんですが、今日は、ゆっくり、味わって食べました。ふと周りを見ると、もう食べ終わられている方もいらっしゃって、途中からは、いつもの様に掻き込むように食べてしまいましたが、味わってたべると、美味しいんですね。今度、主人にも、ゆっくり食べてみて貰おうと思います。」
端から一人ずつ、みんなの感想が話されていく。
口々に、「幸せ」「美味しい」の言葉が、つむぎがれていく。
「食べるって、「幸せ」なんですね。」
「今」「いま」「いまに集中する。」
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