第9話 『太陽』との出会い
俺ことルノアは貴族の魔の手からミーシャとルディアを守るため、彼女らが所属する冒険者パーティと共に帝都へ向かうことになった。
俺が今いるこの城塞都市は『レパートエアロ』といい、『ダルメシア帝国』という国に属しているらしい。そして『ダルメシア帝国』の中心であり皇帝が住まう都市が帝都であるようだ。
そんな帝都へ向けて明日の早朝出発するわけだが、猫である俺――正確には精霊だが――が時間通りに集合場所に来ないことを危惧したミーシャの意見の元、なんと俺はミーシャの家で一夜を過ごすことになったのだ。そして早朝。なんとなんと―――。
俺の隣でミーシャがぐっすりと寝ています。
「んにゅう・・・」
あぁ、なんという素晴らしい光景だろうか。目の前でエルフの美人お姉さんが無防備な姿を晒して寝ている。透き通るような白い肌、目鼻立ちのキリっとした美しい顔、そしてモデルのようなスレンダーな身体つき。うむ、本当に凄まじい破壊力だな。高く聳え立つ理性の壁がもう破られようとしている。
・・・ミーシャの胸に向かって抱き着いていいかな?猫だから許されるよね。そうだよね。よ、世の中の猫のきっとそうしてるよね。
『そんなことをしてはだめじゃ、ルノアよ』
突如頭に響く老人の声。い、いったいなんだこの声は!
『ルノア、あぁルノアよ。寝ている
もしかしてこの声の持ち主は、俺の心の中の天使か!?というかなんで老人なんだ!?
『おいおい。お堅い爺さんだぜ。ルノア、みすみすチャンスを見逃すのか?目の前に美人の胸があるんだぜ?お前は今猫なんだから、胸に顔を埋めるくらい許されるだろ。動物愛護団体だってそれぐらい許可するぜ?』
おぉ!天使に対抗して心の中の悪魔が出てきた!!こっちは天使と違ってイメージ通りの感じだ!!
『だから、そのようなことはしてはいかん!!』
『あぁ?枯れた爺は黙ってろ。ルノア、やるんだ!!』
うぉお!心の中の天使と悪魔が戦ってる!!あぁ神様、俺はどっちの言うことを聞けばいいんでしょうか!
『胸に顔を埋めるなどやってはいかん!!太ももに顔を埋めるんじゃ!!』
・・・はい?
『ショートパンツゆえに大胆に露出された傷一つない足や太もも!!最高じゃ!!胸になんか構っている暇はない!!』
『んだと爺?薄着に隠されたエルフの大きすぎず小さすぎない美乳!!こっちの方がいいに決まってんだろうが!!太ももに顔を埋める場合じゃないだろ!?』
ち、違った!!心の中の天使と悪魔が戦ってるんじゃない!!心の中の太ももフェチと胸フェチが戦っているんだ!!
くそ!!どうすればいい!!どっちの言うことを聞けばいいんだ!?どっちも俺の本心だぞ!?
『断然太ももじゃ!人は皆下半身から生まれ出てくるのじゃぞ!!』
な、何言ってんだこの爺!!
『それを言うなら人は胸から出る栄養剤で育ってんだよ!胸と共に成長してんだよ!!男の子は常に胸に引き寄せられるんだよ!』
ちょ、ちょっと待って。こんなのが俺の心の中に巣食ってんの?普通に嫌なんですけど。普通に出て行ってほしいんですけど。自分の本心が恐ろしくなってきたんですけど。
『太ももじゃ!!』
『美乳だ!!』
うるせぇ!!
『太ももじゃ!!』
『美乳だ!!』
う、うる・・・。
『太ももじゃ!!』
『美乳だ!!』
う、うわぁああああ!!!もういやぁあああああ!!!!
―――ノア。――て。
うん?
―――ルノア。―きて。
遠くから声が聞こえる。この声は・・・ミーシャ?
―――ルノア。起きて。
「にゃあ・・・」
気が付けば俺の顔をミーシャが覗き込んでいた。どうやら俺はいつの間にか寝ていたらしい。しかし、なんだか目覚めが悪いな。悪い夢を見ていたような・・・そんな気がする。
「ルノア、ささっと準備して早めに家を出るわよ。騎士団と待ち合わせをしてるから」
「にゃにゃ?」
騎士団?
「昨日の夜、ルノアが寝ていたときにルディアが家に来てね。急遽騎士団の依頼を受けることになったのよ。だから帝都に着くまでは騎士団と共に行動するわ」
なるほど。これからしばらくは騎士団とやらが一緒なのか。よし、もしミーシャとルディアに色目を使う騎士がいたら吹き飛ばすことにしよう。
さて、準備が出来たらすぐに家を出るとのことだが、そもそも俺が何らかの準備をする必要はない。精霊だから腹も減らないし汚れとかも付かないからな。昨日ルディアにそう教えてもらったんだ。ということで、ミーシャの準備が整うまで特にすることのない俺はだらだらとして待っていた。
「準備が出来たわ。ルノア、行きましょう」
少し時間が経つとミーシャは準備を終え、俺の前へと姿を現した。露出の少ない旅装束に小さめのバッグを腰につけ、背中には弓を背負っていた。まさに冒険者といった格好だ。その姿を見た俺が「うんうん」と満足げに頷いているとミーシャに抱っこされ、そして家を出発した。
家を出発してからしばらく歩くと、大きな城門が聳え立つ広場へと到着した。その広場を見渡してみると、大きな荷台を囲むように何十人もの騎士が立っていた。ミーシャが言っていた騎士団とはあの集団のことだろうか。
さて、この城門付近にミーシャが所属する冒険者パーティが集合しているはずだ。いったいミーシャの仲間はどんな人物なのか、俺が見定めてやろう。もちろん、男なら容赦はしない。
そんなことを考えていると、いつの間にか冒険者らしき恰好をした者が数人、ミーシャの下へ集まっていた。
「みんな、おはよう」
「おはよ」
「お、おはようございます」
「ミーシャ、おはよう!」
ミーシャとルディア、そして見たことがない女の子が二人、挨拶を交わしている。もしかしてミーシャの冒険者パーティは全員女の子で構成されているのか!?
「ルノア、紹介するわね。まずこの子がエマ。この子は剣士で、このパーティでは前衛を担当しているわ」
「紹介された通り、僕の名前はエマ。超一流の剣士さ。実はもうルノアが大精霊であることは知ってるんだ。ルディアに教えてもらったからね。これからよろしくっ!!」
「にゃ」
まさかの『ぼくっ娘』きたぁ!!小さめの背丈に反した魅惑的な身体つき、首元辺りまで伸びる銀髪に澄んだ青い瞳、そして魅力的な笑顔。完璧です!!完璧でございます!!なんか背丈よりも大きな大剣を背負ってるけど、気にしない気にしない。
「次はクロエよ。獣人の格闘家で、エマと同じく前衛を務めているわ」
「ク、クロエです。よ、よろしくおねがいします。大精霊様」
「にゃあ」
次は『守ってあげたくなる系女子』きたぁ!!頭についたケモ耳がピクピク動いているその様は可愛さ満点!明るい茶髪に茶色い瞳、エマと同程度の小さめの背丈から発生する上目遣い!そして気の弱そうな態度。守ってあげたい!もう一度言う、守ってあげたい!!
「そして昨日話しただろうけど、この子がルディア。後衛の魔法使いよ」
「よろ」
「にゃ」
そして無口な美少女ルディア。水色の長髪に、眠たげで無表情な顔。何の感情も映さない灰色の瞳。確か魔力や魔素を可視化する魔眼を持っているとか。
三角帽子にローブを着て、背丈ほどの大きな杖を持っており、まさに魔法使いといった格好をしている。この子が初めて笑顔を見せた時、俺はきっと恋に落ちるだろう。それから始まるラブロマンス。
「最後に私!改めて、ミーシャよ。時には斥候をしたり、時には魔法を使ったり、パーティのバランサー的な役割を担っているわ。よろしく、ルノア」
「にゃ」
最後にエルフの美人お姉さん、ミーシャ。艶やかな緑色の長髪に同じく緑色の瞳。モデルのようなスレンダーな体。エルフ特有の整った顔立ち。あぁ、最高の冒険者パーティではないか・・・。
「この四人で構成されたA級冒険者パーティ。それが【
その時のミーシャの顔はとても自信と希望に溢れていて、誰もが惹かれてしまうような溌剌とした笑顔を浮かべていた。まるで太陽のような、そんな輝きを彼女は放っていた。
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