第3話 ドラゴンと不可解な結末(第三者視点)

「・・・団長、見てくださいよ。本当にドラゴンが草原にいますよ」

「あぁ、そうだな。ジャックの発言だからてっきり嘘だと思っていたが、まさか本当にいるとはな」

「あの、酒のつまみ代を経費にしたことは後で誠心誠意謝るので、嘘つき呼ばわりだけはやめてくれませんか?」

「「いやだ」」


 北の草原にたどり着いた三人はドラゴンを視認することに成功した。その後、ドラゴンを刺激しないように身を潜めながら観察を開始したはいいものの、しばらく時間が経ってもドラゴンが動く様子はなかった。


「むむむ。まったく動かないですね・・・。寝てるのかな?」

「団長、ちょっと移動して横から見てきます。この位置だと背中しか見えないので」

「あぁ、頼んだ。だが慎重にな。念を押すことになるが、絶対にドラゴンを刺激するような行動だけはするなよ」

「了解です」


 ドラゴンが寝ているのかどうかを確認するために、ジャックはドラゴンの顔を正面から見える位置まで移動を開始した。そして顔が見えるところまで到着すると、あろうことかジャックはドラゴンがいるのにもかかわらず大声で騒ぎ始めた。


「団長!!団長!!」


 ドラゴンを刺激する行動に出たジャックにグレイとカンナは冷や汗をかきながら注意する。


「バカッ!!大きな声を出すな!!」

「ドラゴンを刺激してどうするのよ!!」

「違うんです!!ドラゴンの頭がないんです!!首から上が消滅しているんです!!寝ているんじゃない!!このドラゴンは死んでいるんだ!!」


 とても信じられないことを大声で話し出したジャックに対して、カンナとグレイは「ついにあの男の頭はおかしくなってしまった」と完全に引いてしまった。


「団長・・・ジャックの頭がおかしくなりました」

「そうだな・・・。もうあいつは手遅れかもな、解雇しよう」

「ちょっと!!やばい奴扱いだけはやめて!!心が持たないから!!そんなに信じられないならこっちから一緒に見てくださいよ!!」


 カンナとグレイはジャックの言葉に仕方なく従い、ジャックがいる場所まで移動する。そしてドラゴンへと視線を向けると、首から上、つまり頭を無くしたドラゴンの姿が目に入った。ジャックの言う通り、本当にドラゴンは絶命していたのだ。


「ほ、本当だ・・・。ドラゴンが死んでる」

「・・・これはいったいどういうことだ?ドラゴンの頭を吹き飛ばせるほどの強大な何かが、この草原のどこかいるということか?俄かには信じがたい」

「団長。ドラゴンの周りはもう安全そうですから、もっと近くで見てみませんか?」

「うぅむ。危険だが、明らかな緊急事態だ。早急な調査が必要だろう。よし、近くまで行ってみよう」


 ジャックの言葉にグレイは悩むような素振りを見せるも頷いた。そしてグレイ、ジャック、カンナの三人は恐る恐るドラゴンの死体へと近づいていく。

 三人は極度の緊張感から非常にゆっくりとドラゴンの死体に近づいている感覚であったが、実際には僅か数十秒で死体のすぐ傍まで到着した。


「これは・・・間違いなく死んでいますね。それにこの死体、頭以外の損傷が一切見られません。おそらく一撃で頭を吹き飛ばされて死んでますよ」

「異常事態だな。これは帝都まで報告する必要がありそうだ。それにしばらくは城塞の守衛を増やし、警備を厳重にしなければならないだろう」

「ドラゴンの死体は『結界』で保護しておいて後で取りに来ましょうよ。これほど損傷の少ないドラゴンの死体。きっと金になりますよ」

「ジャック、お前は本当に金にがめついな。まぁでも、それもそうだな。ほい、『結界』っと。―――さて、ドラゴンを殺した謎の存在が近くにいないとも限らない。さっさと帰るぞ。・・・って、カンナ、お前何してるんだ?」


 カンナはドラゴンの首から溢れた血でできた血だまりを凝視していた。その様子を不思議に思ったグレイは思わず声をかける。すると、カンナは目を輝かせながら口を開いた。


「見てください団長、この血だまりの先!!猫の足跡ですよ、これ!!」


 カンナが指で示した先には血で出来た肉球の跡が続いていた。


「それがどうしたんだ?猫がたまたまこの辺を歩いていただけだろう」

「それが変なんですよ。私はこの肉球の形、見たことがないんです」


 カンナの言葉にジャックは首を傾げる。


「は?この肉球のどこが変なんだ?普通の猫の足跡だろ」

「これだからジャックは・・・。あのですね、私は『レパートエアロ』周辺に生息している全ての猫の肉球の形を記憶しています。ですが、この肉球の形はこれまで見たことがありません。突如現れた新たな猫、そしてドラゴンの死体。無関係とは思えませんね。遂に名探偵カンナの出番ってわけですか・・・」

「ちょ、ちょっと待った。カンナ、お前はここら辺に住んでいる全ての猫の肉球の形を記憶しているのか?」


 ジャックは引きつった顔でカンナにそう問いかけた。するとカンナは「何を当たり前のことを聞いているんだ」と不思議そうな表情を顔に浮かべた。


「当たり前でしょ。世界一の猫好きを名乗るには、これくらいは序の口よ」

「・・・そ、そうか」


 はっきり言って異常である。たとえ世界一の猫好きだとしても、都市に住むすべての猫の肉球の形を記憶することなんてしないだろう。もしそんなことをする人物がいれば、余程の変態である。要するに、カンナは変態である。

 そんなカンナの発言の異常さを認識しながらも、ジャックは会話を円滑に進めるために無理やり頷いた。ちなみにグレイの顔も見事に引きつっている。


「ま、まぁ新しい猫がたまたまこの草原に歩いていただけだろう。さすがに猫がドラゴンを一撃で殺すなんてことはあり得ないからな。ほら、お前ら、さっさと帰るぞ。まだドラゴンを殺した怪物がここら辺をうろちょろしているかもしれないのだからな」

「はい」

「は~い」


 カンナはグレイの言葉に少し納得がいかないような表情を見せるも、指示には素直に従った。実はカンナの予想は合っているのだが、この事実を知るのは少し先の話になるだろう。

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