『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』

 私は純文学は好みません。


 これはもはや偏見なのですが、純文学の登場人物は何か目を離したらおっぱじめやがる人が多いじゃないですか。性欲も物語のスパイスになると流石に認めざるを得ない年齢になりましたし実際認めますが、にしても、あいつら脳みそ性欲で出来てんのかって言いたくなるぐらい盛ってるように感じて。性欲しか人間に無いわけじゃなし、もっと違う方面で描写をしてほしい。エロ本読んでるわけじゃあるまいし。


 あと個人的には言葉回しに芸術を見出すのは分かるのですが、しかしそればかりに囚われてばかりではつまらないと思っています。

 個人的には難解な言葉遣いを多用することがなく、娯楽性をしっかり保ちつつもその中に哲学的エッセンス、難解なテーマやメッセージを内包する方が理想的であると考えています。

 ともかく、そういう訳で私の読む本はライト文芸(キャラクター文芸)やライトノベルが中心です。こう言うと顰蹙を買いそうですが、私はこちらの方により進歩性、ポテンシャルを見出せると考えています。

 


 さて、本題に入りましょう。

 私が読んだのは主題の通り、『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』。長い。この類のタイトルを嘆く流れはありますが、正直分かります。ちょっと軽薄なんですよね。内容にタイトルが深く絡むならともかく。

 これを先日とあるSNS(数択しかないので探さないでください)に投稿したところ、作者様本人に巡回されました。

 バイト終わりのベンチでソフトクリーム味の飲料(ソフトクリームを液体にして冷やした味)を飲みながら書いていただけだったので反応されると夢にも思わず、結構本気で慌てました。

 なので改めてここで詳しく語り直したい次第です。


 この物語、最初から最後まで王道も王道の展開をしています。

 病気持ちだけど明るく前向きな病弱ヒロインと周囲と関わることを避けている主人公が出会って恋に落ち、主人公が変化していって、最後は病気が悪化して……的な。

 最終章だけ少しずれはあるけど、まあ、テンプレ通りです。


 私、清楚系病弱ヒロインって属性、好きです。

 明るくて前向きで、でも本当はちょっと怖い。こういうヒロイン属性ってありふれてはいるけど、逆に言えばそれほど擦られるまでにみんな好きってことなんじゃないかなと思います。


 そういう話はいつかたっぷり話すとして。

 この作品、大筋は従来のそういった病弱ヒロイン系小説から大きく離れていないどころかしっかりとそれを踏襲しています。

 シナリオも、主人公の親友もヒロインに世話を焼く友達(少し珍しく最初から最後まで味方)も、特別変わった属性でもなく割とよくある属性。

 でも単純に構成力が高いし文章がすっきりしているから読みやすい。

 こういうのでいいんだよって誰かに脳内で囁かれます。

 最近とあるソシャゲで薄幸美少女を推しているのでその影響もあるのでしょう。


 さてこの作品、ちょっと変わった特徴がありまして。

 それが「構成」でなく「文」で小さな仕掛けを施している所ですね。


 最近の小説は一文でそれまでの視点を反転させるというものがブームなのでしょうか、そういうメタ的な仕掛けが多いように感じますが、この作品はそこまでではない、けれどちょっとした仕掛けが施されていまして。

 淡々とした文章の中に平然と物語を展開させる一文を挿入しています。

 それまで読んでいて、本来ならそのまま終わってもよいような章の終わりに、しれっと物語を展開させる一文が仕込まれているのです。それまでの文と変わらない淡々とした言葉遣いで。


 普通に読んでいて突如ぶっ込まれる急展開の情報。脳みそをあまり使わないで物語に没入しているだけの単純な私は困惑します。そしてその理由を探るために次の章を読みたくなる。意図しているのかは分かりませんが私は面白く感じました。

 そしてこれを上手く使い、おそらく意図した仕掛けになっているのが最終章の一つ前。


 いざハッピーエンドって感じでそのまま幕引きか、良かったとか思っている時に挿入される一文で私の情緒は急降下しました。

 なんでよハッピーエンドだったじゃん現実は無情だったと言いたいんですかと荒れる心情を抱えつつ読み進めれば、ちゃんとその過程は幸せな結末で。そしてちょっと切ないけどとてもいい満足感を得られた小説でした。


 この仕掛け、たぶんこういう小説を読んだことのある人の方が引っかかります。私は元からとても単純なので引っかかるのは当然なのですが、言ってしまえば固定観念やテンプレなどの経験を持って読むからこそ引っかかりやすいトリックです。引っかかった人が私以外にもいてほしい。



 結論。

 少なくとも純度百パーセントの病弱ヒロイン系小説を読めますし、分かりやすく感動できるけど「こういうのでいいんだよ」って感じです、本当に。

 読む価値があるかは人によるでしょうが、少なくとも私は穏やかな気持ちでバイト中の時間を過ごせました。バイト前にある空き時間の三十分前後で小説読んでるのです。



 あと、やっぱりタイトルは間違いなく変えた方がいいと思いました。これだけは本当にもったいないと思いました。もっと良いタイトルあったろうに。

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