#2
「……次のニュースです。昨夜、原因不明の爆発が都内の数カ所で発生し、当時その場にいた不特定多数の男女が砂になるという現象が起きました。警察や専門の有識者によって捜査が進んでいますが、未だに原因は不明……」
夢にしては惨く滑稽で、現実にしては雑な冗談みたいなニュース達は、どのチャンネルに変えても出演者が皆一様に声を揃えて喚き立てる。
僕の通う大学は翌日迅速に休校を発表し、その間の講義はせいぜいオンラインで配信されていた動画を復習することだなんて申し訳程度のお達しがあった。親の勧めで進学した大学に愛着なんてない僕は、適当に選択した講義をラジオみたく聞き流して時間を溶かし、不気味さと幻想的さを兼ね備えた砂の上を歩く。
ニュースを見た瞬間に食料や生活用品の心配をしたものの、二日経った今日でもそれは杞憂に過ぎない。何食わぬ顔をして住んでる僕を含めた住人の為にあいも変わらず車道を往復するトラックのお陰で、暫くの物流に問題はなさそうだった。
──まぁ、消費していた人間も減っている訳なんだけれども。
この先どうなるかなんてわからないままふらりと立ち寄ったスーパーで、買い物カゴに缶詰やカップヌードル、飲料水を余分に詰め込んだ僕は、重過ぎる荷物とこの現状に溜め息を吐く。
「ねぇお兄さん……ため息つくと、幸せ逃げちゃうよ?」
たまたますれ違った小学生ぐらいの女の子が真っ直ぐな瞳でそう言って僕を見据えたので、僕は「……そうだね」と曖昧に誤魔化して笑顔を作る。
──幸せなんて、とうに逃してるっつーの……。
子供にまで悪態をつくなんて、本当に僕は大人げない。それでも僕の人生が幸せかといえば、残念ながら首を縦に振ることはできなかった。
前を見ることすら難しいほど髪を伸ばすのも、どんなに暑くても長袖を着ているのも……その全部が悲惨な二十一年を物語っている。
えへへ……っと笑って過ぎ去っていく少女の背中を眺めながら、あれぐらいの年頃の自分にとっての『幸せ』がなんだったのかと思いを馳せた。
僕は生まれながらにして病弱だった。
肺が弱いせいですぐに喘息を起こすし、休み時間はだいたい室内に篭っていた僕は、体育の授業の軽い運動ですらまともにできた試しがない。
──そんな特異性があれば格差社会の学校で、陰湿なイジメの標的になるのは時間の問題だった。
最初は上履きや教科書を隠される悪戯。
あり得ないほどの荷物持ちやカツアゲは日常茶飯事、真冬に川を泳がされて死にかけても、クラスの連中は何も言わない。逆らえば集団リンチにあって痛めつけられ、日を重ねるほどに増えていく傷跡や痣、根性焼きの跡……。
思い出すだけで胸が痛むのか、傷が疼くのか──まさに学校というその檻は、僕にとっての地獄だった。
「うぇっ」
脳裏に浮かべただけで虫唾が走り、体が防衛本能で嘔吐いて思考を邪魔する。
反旗を翻さずに過ごした学生時代なんて情けない?
でも、僕はそれで構わない。どうせ僕の人生なんて、風に吹けば流れて散る砂のようなものなのだから──。
自問自答で見事なまでに開き直った僕の帰路を押すように、一際強い風が砂粒をはらりと舞上げた。
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