第13話 「猫溜まりの家」
一人で先をゆくライブダイブ和尚の歩きには不機嫌さが漂っていた。
彼からすれば復帰第一回は、一人で華麗に決めたかった。
「もう俺は、霊なんて怖くない」
それを完全に示さなければならなかった。 霊に不覚をとり病院送りにされた。僅かな外傷であったが立ち上がれなかった。医師は「霊障害」と診断した。この大自決時代では、事故物件に関わって起こる霊障害はポピュラーな症例の一つに過ぎない。
ただし、医師の治療としては匙を投げる、それも遠くに投げるしか方法がなかった。
医学書に治療法が存在しない以上、ベッドの上に安静にし、自己回復を待つしかない。
和尚を名乗るフリーランスエクソシスト達はそれぞれが別種の技能者たちであるが、その根本的能力は一つだけ、
「恐怖に耐性がある」
それだけだ。恐れ知らずというよりも恐怖というものに対して繊細でありながら鈍感である必要がある。単なる鈍感ではどこが「仕事場」かわからないし、敵対する霊を感知できない。
繊細すぎては身が持たない。鈍感すぎては仕事にならない。
無神経では務まらないが、神経質でも務まらない。それをまとめると「霊を恐れない」ということになる。
だから「霊に負けた」という負い目は早めに払拭したいライブダイブ和尚だった。それは和尚という職を失う瀬戸際の危機感もあるが、男としてのプライドの問題でもあった。
「あの男の子、ずいぶんとプリプリしとるな」
背負ったペット用リュックの中から、いのりが話しかけてきた。他の人間には聞こえない程度の小声なのでナロウも小声で返す。
「そりゃー僕みたいな弱そうなのが監督官としてフォローにつくなんて、ライブダイブ和尚からしたら気に入らない話だよ」
「ナロウは弱くなんてないよ」
「ほんとに?」
「甲斐性が無いだけよ」
「・・・」
300年、いろいろな男(人形フェチ)を見てきた呪い人形の審美眼は、果たして信用できるのか。甲斐性がないのは確かだが。
「あのライブダイブは弱ってるわ。つい先日まで地縛霊の真似事をしておった私から見ても、心根が弱まっているのは見て取れるから」
「そんなのわかるの?」
ナロウは驚いた。そんなあまりにもオカルトみたいな能力…
「まあ、オカルト人形だから、そんなのもあるか…」
いのりは、生まれも育ちもオカルト村の住人だった。人のオーラを見極める能力を持っていても不思議はない。自然生物が獲物の強弱を本能だけで判定できるように、呪物はその性質において「獲物にできる・できない」をジャッジする能力があってしかるべきだろう。
基本的に和尚たちは「獲物に向かない」人種で構成されている。恐怖耐性が高い、あるいは鈍い。そういう連中だけが生き残ってきた。
ナロウにもその自覚があり、ライブダイブにはその自負があった。
一人で先をゆくライブダイブ和尚も困っていた。
同業の手前、虚勢をはってしまったが、内心に潜む恐怖を自覚してないわけではない。
スポーツ選手が試合でのミスの記憶に苛まれイップスになるように、和尚にも精神的失調というのは存在する。
それを認められないほど愚かでもなかった。
さらにいえば、前回の仕事の尻拭いをしてくれたナロウ和尚に対しての引け目もある。今回の再会時に、きっちりと礼を言い、感謝を伝えるはずが、おかしなことになってしまい、まだ何も伝えられていない。
そういった苛立ちを背負いながら、事故物件への道を進んだ。
異変に気付いたのは、後に続くナロウの方だった。古い住宅地を歩いていると、そこかしこ野良猫が見えた。塀の上、住宅の隙間、空の植木鉢の中…様々な種類の野良猫がいた。
その数は進むほどに増えていった。
塀の上に並ぶ猫の群れ、建物の影から覗いている猫たちの眼。
人影は消え、猫の影が溢れている。
「ライブダイブ和尚…」「ああ、」
二人ともに異常に気づいている。
異常と異様こそ彼らの仕事場だ。だがそれは「事故物件」というフレームの中に収まっているのが普通だった。今回の異常はその枠を超えて町に染みだしている。
狭い狭い私道の先に見えた古い一軒家。
ここに住んでいた孤独な老人が自死をした。
その結果、この建物は心霊事故物件となり周囲に対して負の影響を与え始めた。今日はその除霊に来たのだが。
彼ら二人を出迎えたのは、家を取り囲んでいる大量の野良猫たちだった。
足の踏み場もないほど、屋根に隙間がないほど、塀に登れないほど、
猫がいた。
ミャーともニャーとも言わず、じっと闖入者である二人の和尚を見つめている。
「ハッ脅しかよ。雑魚くせーなぁ今日の相手は!」
ライブダイブは猫の地面を慎重に進みながら大口を叩く。今回の相手がヤバイということは、ここまでの道中で分かっていた。だが、自分を奮い立たせなければならない。慎重さをかなぐり捨てなければ前に進めない心境だった。
コン、とリュックがノックされる。いのりが知らせるまでもなくナロウも危険を察知してた。
「わかってる」いざという時は撤退も視野に入れなければならない。そう覚悟しつつ、ナロウも猫を避け避け玄関に向かった。
小さな二階建て一軒家、築40年以上。
玄関をくぐって最初に感じたのは、その臭いだった。普通のペットを飼っている家の数十倍のペット臭。
家の中に停滞していたその臭いが、開いた玄関に向かっていっせいに崩れ落ちたかのような、むせるほどのペットの臭み《くさみ》だった。
「きっちーな」
ライブダイブが文句を言いながら玄関を上がる。和尚達が事故物件を訪れる時、当然ながらご遺体は片付けられているが、匂いと痕跡だけは残っている場合が多い。
そういった匂いには、なかなか慣れることはできない。
二人揃って居間に入る。ライブダイブのライブ除霊にはそれなりのスペースがいるため必然的に居間ライブになることが多い。
居間の広さを確認したライブダイブはギターやLED付きスピーカーのセッティングを始めた。
することのないナロウは開けたままの障子の向こう、キッチンから居間を見ている。背負っていた人形用のリュックを下ろし、その表面を居間の方に向けた。リュックの覗き穴から現場を見えるようにした。
手持ち無沙汰のナロウは今回の現場の紙資料を確認する。典型的な大氷河世代の実家暮らし。親しい親族もなく、両親も他界。長いひとり暮らしの末に自決。
ナロウとしてもこの資料からからいくつかの「なろう朗読除霊」の作戦を思い付けるが、故人個人に適した決定的な要素を見つけられない。典型的すぎて標準の手段以上のものが浮かんでこない。それでも8~9割程度の成功の確信はあった。
自身の仕事の成功率を予想できるくらいには、現場を踏んできた。
だが、今回の主役はライブダイブだ。それも復帰一発目のライブ。邪魔するつもりはない。
セッティングを終えようとしてるライブダイブの方を見て、ナロウは驚きの声を上げた。
「和尚ッ・・・!」
「何ィ?まだ準備は・・・」
ライブダイブもナロウが指差す方、掃き出し窓の方を見た。
猫。
猫がサッシの下から首を出し、猫が室外機に昇り首を出し、サッシの上から首を出し、庭に並んで首を伸ばす。
猫猫猫。
窓の外は猫がいっぱいだった。すべての目が彼らを見ていた。まるでこれから始まるライブ除霊の開幕を待つ観客のように。
「へっヘヘっ…上等!」
この猫たちは霊が関わる現象で、霊による脅迫であるとライブダイブは認識した。恐怖で追い返そうとしている。ライブダイブはそれを跳ね除ける。
「猫ども!ニャンとないても知らねーぞ!大爆音のライブだぜ!」
ライブダイブはギターを掻き鳴らした。
窓が揺れる大音響が鳴る。
「復活ライブ、ダァァァァァアアアアアアアアア!」
シャウトが、六件隣りまで響いた。
「なるほど」
ナロウは納得した。ライブダイブの除霊方法は知ってはいたが、実際に体験したのは初めてだった。
「これが実際のライブの醍醐味か」
とにかく騒がしい。スピーカーは小型ながら大音量を放ち、古い木造建築の柱を内部から震わせた。叫び歌い跳ねるライブハウス和尚も物件の建築基準をオーバーするライブを見せ、耐震構造の限界に挑んでいた。
とにかく騒々しく、けたたましく、
およそ霊が出る現場ではなくなっていた。
ここまで騒がしい状況になると、霊の出番など無くなってしまう。それにこの近所迷惑さときたら、近所に対してもこの物件が心霊事故物件であることを忘れさせる副次効果も期待できる。
ライブダイブのライブ除霊の完成度の高さにうなるナロウだった。強烈な日光が霊の存在を許さないように、この恐ろしく喧しい自宅ライブも霊を家から追い出すはずだ。
そのはずなのだが…
ナロウは気になって仕方がなかった、掃き出し窓の向こうに並ぶ不動の猫たちの事が。
まったく動いていない。普通の猫ならこの大騒音だ、尻尾を巻いて逃げ出すはずなのに、一匹たりとも逃げ出していない。さらにどれだけ曲を流しても、一切音に乗ってこないのだ。ピクリともせずこちらを睨み続けている。
除霊が効いていない?
そんな予感がしていた。
ガチャリ
掃き出し窓の鍵が、ひとりでに動いて開く。
誰も触っていないのに、勝手に動いた。
「ナロウ、気をつけなさい」
リュックの中のいのりが警戒している。
「動き出したわ、ずいぶんとお眠の霊ね。でもゆっくりだけど強力よ」
いのりには、人間には見えない世界が見えているのか、霊の存在を視覚的に認識している。
ナロウもオカルト的存在である彼女の言葉を信じる。
「どのくらいヤバそう?」
「私ほどじゃないわ」
いのりはフフンと鼻を鳴らす。
「自慢はいいから、実際のところは?」
「そうね、人間がいたら…死んじゃう程度?」
「十分ヤバイんだけど!」
スーーっと窓が動き、僅かな隙間が開いた。
ほんの僅か、子供でも通り抜けられない、風の通り道程度の隙間。
そこから隙間風が部屋の中に入ってくる。
そよそよとした風邪は室内から放たれる音圧をものともせずに侵入してくる。
なぜ風が見える?
常人であるナロウにも風が見えた。
風がキラキラとした輝きながら入ってくるのが目に見えたからだ。
「毛だ」
風が目に見えたのは、何のことはない、大量の毛が風とともに部屋の中に入ってきていたからだ。
「猫の毛だ」
それは細く儚い猫の毛だった。猫の毛の反射が、川のキラメキのような空気の流れを目に見えるようにしていたのだ。
スワスワと流れ込んでいたその毛の流れが、一気に激流となった。
何百という猫の毛が流れながらまとまり、視認できるレベルの毛の密度、流れとなって部屋の中に流れ込む。そして部屋の中を回転する渦を作り出した。
その中心にいたライブダイブは、大量の猫の毛がぶち込まれた洗濯機の中にいる洗濯物だった。
つぎつぎと猫の毛が彼の手に、眼に、口に絡みつく。
「うへ!ペッペッ!」
彼のライブの邪魔をする霊による攻撃は、猫の毛による搦め手だった。
だがライブダイブにもプロ和尚としての意地がある。たとえ毛玉が喉に引っかかったとしても歌を止めない、止められない。
「俺の除霊ライブを止めたいのなら、俺の命を取ってみろ!」という気迫で霊現象に立ち向かった。
渦巻く猫の毛は、粒子のような状態から帯状にまで密度を上げている。
窓の外の猫たちはその光景を無言で見つめ続けている。
部屋の全てのものに猫の毛がからみつき、床も絨毯も毛だらけだった。
毛の渦巻きに囚われつつあるライブダイブ、だが猫の毛の被害者は彼だけではなかった。
「うあああぁ!」
ナロウも同じく毛の奔流に囚われつつあった。服の袖口から毛が入り込み、彼の体毛と絡み合い動きを捕らえていく。口に入り込もうとする毛を、必死でむしり取っている。
「ナロウ!」
リュックから飛び出したいのりは、片手を上げて眼を光らす、オカルト人形の本領発揮だ。
その瞬間、ナロウの体に張り付いた毛が、磁石に触れた砂鉄のように起立して止まる。猫の毛はいのりの手の位置を中心とした放射状に伸び、彼女の手の動きに合わせて角度を変える。
とりあえず猫の毛の侵食は止まっている。それはライブダイブについた毛も同じだ。彼の体に取り付いた大量の毛が逆立ち、ヤマアラシのような状態になっている。
「ナロウ!なんとかしなさい!」
「なんとかって、どうすれば?」
人形に対処を命じられた主人、しかしそんな方法など思い浮かぶわけもなく。
「猫の気持ちを知りなさい!」
両手で全ての毛の動きを封じているいのりは、窓の外の猫たちを目線で示した。
「猫…ネコのきもち?」
ここに至るまでナロウは、ネコについては霊が起こした心霊現象の一種としか考えていなかった。ネコの主体的な気持ちなど、当然のことながら考慮に入れていなかった。
人の霊ありき、
それがこの仕事の基本だった。
だがいのりの一言で、ネコが思考の要素に加わった。
突然、脳内でその要素たちが反応を起こし、次々と自動的に接続していく。
閃きが答えを導き出した。
「まだつながっているんだ、ネコとここの住人は…」
力を使いながら、いのりは正解を導き出したナロウに微笑んだ。
「だとすれば…!」
ナロウはネットでなろうのページを開く。
いのりに読み聞かせてきた大量の小説、普段読まなかった物の中に、アレはあったはず…
履歴を辿り見つけ出した。
「主人とネコの別れを描いた短編」
これはナロウの趣味ではなかった。センチ過ぎた。娯楽作ではなかった。
「でも、今必要な物語はコレだぁ!」
ナロウはページをオープンし、独唱体制に入る。だが、それだけではこの勝負、勝てないと、毛の挟まった肌で感じていた。
「ライブダイブ和尚、なにか、メロディックな伴奏をお願いします!」
「ハァ?急に何だよ!」
顔中の毛が逆だっているライブダイブは突然の要求に驚いた。
「今から僕が朗読をします、それにあわせてギターを引くんです、しっとりとした、エモいやつよろしく!」
ナロウの雑かつ適当な要求。だが彼も和尚、同業者かつ今回のサポーターだ。
ナロウがこの場の勝機を見出したというのなら
「キュイイイイ~ン」
ギターの音色は哀愁を奏でた。
「信じてみるぜ!」
ライブダイブは同僚を信じて奏で始めた。
ナロウは語り始める。ある男とネコの別れの物語を。今までの彼の音読は素朴だった。感情は込めるが必要以上ではなく最低限、学校の先生が読み聞かす程度の朗読だった。
だが今は、彼の情感を高めるライブダイブのBGMがあった。ナロウの語る物語を聞き、それに合わせて奏でるギターソロ。最初はノリが分からずグダグダだったが、見事に合わせてきている。
曲があればそれに言葉は乗ってしまう。
ナロウの朗読もリズムが生まれ、音の強弱が生まれる。朗読に合わせBGMが奏でられ、BGMによって読み手の感情が引き上げられる。
なろうの朗読は進化し、一段上のエモさを作り出した。
「わお、いいじゃない」
いのりが喜んだように、その除霊の効果は高まっている。それぞのれ単独では生まれ得ない力強いメッセージ性とドラマチックさが加わり、
新しい除霊が生まれていた。
ナロウが得た閃きとは、この霊の正体。
この霊現象は人間単体によって起こっていない。彼と彼の愛した猫たちとの繋がりが、この現象を引き起こしているのだ。
死んだ人間と生きるネコ。
この繋がりのもつれを解消するためには、人間に伝えなければならない、もうお別れの時期だと、猫たちにサヨナラを言ってと。
物語はクライマックスを迎える。
物語の中でネコとおじさんの別れが描かれる。昨日まで、ナロウにとってこの物語は泣かせだけの話だと思っていた。だからあまり好きではなかった。いのりはこの話を気に入っていた。彼女はナロウよりも遥かに多くの別れを経験していたからだ。
今、ナロウもこの物語を自分のことだと感じられていた。ここにいる人と猫たちの別れは実際にあった。その気持を想像すれば、
この物語の気持ちを朗読できる。
その時、ナロウの目には見えなかったが、猫たちの眼には見えていた。
この家に住み、猫たちを愛していた男の姿をはっきりと。光が描いた彼の姿は猫たちにお別れを告げた。生前、彼が出来なかったことをした。はじめて、猫たちに分かる言葉でそのニンゲンは言った。
「ありがとう、さようならだ」
猫はその言葉を聞いて納得した。
もうここに来ても男はいないのだと。
混線し固定化されていた人と猫の気持ちがほどかれた。
猫たちはその場から次々と去っていった。
「う~~ぺっぺっ!」
口の中で絡まっている猫の毛をライブダイブは吐き出していた。
ナロウも体中に絡まった毛をこそぎ取ることしかできない。はやくシャワーを浴びたかった。
「はーー、面白いものが見れたわ」
いのりは外出先のハプニングを楽しんだようだ。
「あのなー、そんな気楽な状態じゃなか…」
ナロウは言いかけて気付いた。
いのりがリュックから出て、丸出しの状態で立っていた。
呪いの人形が呪いの現場に立っている。ライブダイブがいるのに。
「…!」
ライブダイブが驚きの表情でいのりを見下ろしていた。
「あ・・・の、コレは・・・」
ナロウがなにか言い訳をと考えるが、先程のような閃きが全く起きなかった。
心霊人形を目の当たりにしたライブダイブは固まっていた、そして次の瞬間、
「すげーーーー!お前、人形遣いもできるのか!」
と大喜びしだした。
「はぁ?」
ナロウといのりは同時に困惑の言葉を発したが、それもまたライブダイブを喜ばせた。
「すげっすげっ!ほんとに人形遣いだ!今まで隠してたのかよ!ずっるーい!」
ライブダイブが新しいおもちゃを見た子どものようにはしゃぎ回る。ナロウとしては、それに乗じるしか手段はなかった。
「ええ、今まで秘密にしていましたが、ついに完成したので実戦テストをしたのですよ。まあ、現代のロボットテクノロジーと古式ゆかしい人形を組み合わせたハイブリッド除霊と言いましょうか…」
「はぁ?」
なろう小説読み過ぎのナロウはこの手の戯言がスラスラでてくる。嘘八百並べるナロウにいのりは腹を立てているようだ。
人形遣い系の除霊というのは確かに存在するのだが、当然ながら糸や仕掛けで動かす人形に過ぎない。本物の呪いの人形を手元に持っている愚か者など、ナロウしかいないハズである。だがこの場合、お互いの素性を全く知らないというのが功を奏し、人形遣いという偽りの地位を獲得できた。
大騒ぎしていたライブダイブは急に神妙になり。
「いや、はしゃいでる場合じゃなかったな。スマン」
ナロウに頭を下げた。ナロウは困惑するしかない。
「今回もまたナロウ和尚に助けられた。スマンとありがとう。復帰ライブと気張ってみたが、結果はこのザマ、また助けられた。監査としては不合格なのは仕方ない。納得するよ」
近所迷惑級の大騒ぎをしていた男とは思えないほど殊勝な態度だった。
「ライブダイブ和尚、今回の目的は除霊であり、それは成功しました。それにおそらく僕一人ではこの除霊はできなかった」
「お前がそう言ってくれるのは分かる、だがよー」
ライブダイブもそれを分かって入るが、単独ライブとしては失敗し、彼自身の資質が疑われている状態に代わりはなかった。
「和尚に重要なのは立ち向かえる勇気があるかどうかです。僕の眼から見ても、あなたにはその勇気が溢れていて、最後まで諦めなかった。それに、あなたの伴奏があったから僕の除霊は力を増してお祓いができたんです。合格に決まってるじゃないですか」
しばらく俯いていたライブダイブだが
「やっぱ、そっかぁ~?」
顔を上げた時は満面の笑顔だった。
「やっぱオレありき、だよな~今回のライブ。お前のポエトリーも良かったけどさ~、それに合わせきったオレのテク~?すごかったよね~」
お調子者なのだ、徹底的に。
だがそれでいい。霊に立ち向かえる人間の数は少ない。そのなかでこの調子の良さは極めて貴重な資質であると、ナロウにもわかっていた。
まだ自分のテクニックとメロディックさを自慢し続けるライブダイブ。
最後に残った猫は、その人間のバカさを見下ろした後、塀の向こうに姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます