#10 女子高生が知った社会の闇①
作者が初めて世に不条理を感じたのは、中学三年生のときだった。
当時の私には、心置きなく接することができる友人・Sちゃんがいた。(#01に出てきたカルボナーラちゃんと同一人物です)
小学校高学年のとき、給食の準備中だった。その週、私は牛乳パックを入れるカゴを洗浄する当番だった。水道場で、吐き気を催すような異臭放つ牛乳カゴを、半ば涙目で洗っていると、隣で手を洗っていた女の子が私に話しかけてきた。それが、Sちゃんだった。
Sちゃんとはクラスも登校班も違って、ほとんど初対面のような間柄だったのに、彼女は、まるで昔からの友達だったかのように気さくに話した。
クラスでハブられ気味だった私にはそれが嬉しくて、私たちが仲良くなるまで時間はかからなかったように思う。
その後もクラスはあまり一緒にならなかったが、中学に入り、たまたま同じ部活に入ったことで、Sちゃんとの距離は一気に縮まった。
礼儀正しく勤勉なSちゃんを、大人たちは口を揃えて称賛していた。その反面、彼女は明るく気さくな性格で、場の空気を盛り上げるタイプだった。Sちゃんがいる場はいつだって楽しかった。Sちゃんは、みんなの人気者だった。
そして何より、Sちゃんはとても優しかった。初め私は、Sちゃんが私とここまで仲良くしてくれるのは、いじめられている私を可哀想だと思って、気にかけてくれているからだと思っていた。
そういう意味合いも、Sちゃん自身の中で少しはあったのかもしれない。しかし中学以降、徐々にいじめが沈静化していく中でも、Sちゃんは変わらず私と仲良くした。
二年生になって、ほとんど誰からも悪意を向けられなくなった頃にはもう、私もそんなことはすっかりと忘れ、何も恐れることなく彼女と親友のような関係を築いていた。
三年生になって、ようやく同じクラスになった。教室内で行動を共にする友人はそれぞれ別にいたものの、卒業までの一年、Sちゃんと同じ教室で過ごせると思うと、胸が弾んだ。卒業式が終わった後、二人で並んで正門を潜る未来が、容易に想像できた。
けど、実際に同じ教室で過ごした期間は、半年間だけだった。
二学期の途中、それまでほとんど欠席したことがなかったSちゃんが、突然学校から姿を消したから。
連絡をしても、返事がない。ラインは既読もつかない。彼女が学校に来なくなった理由を、詳しく知る者はいなかった。理由なんて、あって無いようなものだったのかもしれない。
けれど、Sちゃんは最後の最後まで、二度と教室に現れることなく卒業していった。
最後まで、彼女と正門を潜れないまま終わった。
……それから約二年。猫丸は高校二年生になった。その日もバイト先の喫茶店に向けて、自転車を走らせていた。
昨年度までは全日制の県立高校に通っていたが、とある事情で今年の5月頃、通信制高校へ転校した。
県立高校では、中学から引き続き吹奏楽部に入っていたが、転校先の学校には吹奏楽部がなく、楽器とも、吹奏楽とも離れざるを得なかった。現在、私は楽器購入に向けてバイトに勤しむ日々を送っている。
だから、Sちゃんのことも昔のことも忘れかけていたが、つい先日、そんな記憶の片隅にある思い出が、蘇ってしまった出来事があった。
その日、バックヤードで、パート勤めのベテランのおばさん二人(四十代くらい?)が、いつものようにキャイキャイと学生のように喋っていた。
休憩中だった私は、特に気にも留めなかったが、耳を疑うような言葉が飛んできた。
「ねぇ聞いた?
私は単語帳に視線を落としながらも、こっそりと聞き耳を立てた。
「ねぇ。いきなりよね。けど、あの仕事量じゃ、ね…」
「若いのに、よく頑張ってた方だと思うよ。ろくに休みもないのに」
「上がろくでもないからこんなことになるのよ」
「本当、闇よねぇ」
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