#04 十六歳、ついに作曲デビュー(?)

※(猫丸の自作小説『あの音が響く先で』の内容を含みます)















「えっと、とりあえずー、作品名にそった曲を出したいから…」


 自室のベッドに寝転がり、スマホでGoogle先生を開く。


「『あの音が響く先で』…の英語表記だと、何々、…あーこれいいやん」


『Beyond』で『〜の向こう』だから、間違ってないし。


 猫丸はそう納得すると、タブレットパソコンを立ち上げ、キーボード設定を半角モードにして、アルファベットを打った。


『Beyond that sound』と。



【※※※】


 ……と、気軽に架空の曲を考えてしまったのが、去年の九月の話。


 この約八ヶ月後、とんでもない後悔にみまわれるとも知らずに…



【※※※】


「うーん、ここのトランペットの音どうやって表現しよう…」


 第七楽章に入って演奏シーンが一気に増え、猫丸は『音楽を文字化すること』の難しさを実感していた。


 例えば作中でコンクールの自由曲として出した、『マーチエイプリルリーフ』も、



【フルートやクラリネットの主旋律と、トランペットのファンファーレが鳴り、この曲は始まる。


 Aに入ると、クラリネットとアルトサックスがメロディーを吹く。


 続いてB、ここは同じメロディーに、新しくホルンだけのオブリガードが入る。


 Cは低音楽器によるメロディーと、その他大勢の楽器の裏打ちが入る。


 Dになると、木管楽器によるピアノの静かな雰囲気に変わる。】



 ……猫丸的に、この文だとなんだか味気無いな、と思うのだ。


 例えば、『吹く』だけでも『入る』『出す』『奏でる』『演奏する』『響かせる』など、考えれば考えるだけ色々言い換えはある。

 

 実際に聞いたらあんなに感動するのに、文字化した途端、急に呆気ないものへと変わってしまう。それに悩まされていた。


 曲の音源を流しながら、左手には参考資料として有名どころの吹奏楽小説(主に『響け!ユーフォニアムの原作)を頼りに、右手で文字を打つ、というスタイルで、必死こいて執筆した。


 曲のスコアでもあれば、もっと再現率は高まっただろうが、猫丸が、『マーチエイプリルリーフ』を中学の吹部でやったのは一年生のときだ。


 スコアは各パートに一つずつ配られる決まりだったが、先輩(そのパートの最上級生)が貰う決まりだったため、猫丸は貰えず、ホルンの楽譜しか手元になかった。


 だからやはり、演奏シーンを書くためには、どうしても実際の音源と楽譜は欠かせない。直感だけで一気に書けるものじゃ無いんだな…


 猫丸がそのことを深く実感していると、ふと気がついたことがあった。


 ……あれ?『Beyond that sound』って、架空の曲じゃね?


 そう、この曲は『あの音が響く先で』のストーリー展開に使うために、猫丸が一から考えたものだ。


 だから当然、『マーチエイプリルリーフ』のように、元になる曲も音源も楽譜もない。


 そうなってくると、『Beyond that sound』の演奏シーンを執筆しようとしたとき、めちゃくちゃ困難になる。というか、ほぼ不可能だろう。


 となると、方法はひとつだけだ。


 ……自分で作曲するしかない。


 自分で曲の主旋律、対旋律、伴奏を考え、それを音符にして、譜面に起こす。


 その作業がどれだけ大変で、どんなに時間がかかるものなのか、安易に想像はついた。


 しかも十六年と約半年間生きてきてこの方、一度も作曲なんてやったことない。


 作詞ならやったことあるが、作曲だと『難しそう』というイメージが強すぎて、やりたいと思ったこともない。


 それに加え、ただ単にメロディーを考えて楽譜に起こす、だけじゃ『良い曲』は作れないだろう。


 多分、音楽理論とか、和音の構成とか、色々勉強しないといけないんじゃないだろうか。


 しかも身近に作曲経験がある人物もいないため、全部独学で。


 だからといって、『前奏』からここまで長らく引っ張ってきた以上、この曲を放ったらかしにすることなんてできない。


 それに、『Beyond that sound』は今後のストーリー展開で絶対に外せない曲だ。


 この曲があるからこそ、『あの音が響く先で』がある。そう言っても過言ではないくらい。


 つべこべ言おうが言うまいが、猫丸はこの曲を作って、一つの『楽譜』にするしか手はないのだ。


 そのことに気がついた途端、猫丸は酷い頭痛に襲われた。


「作曲なんて無理だよぉぉぉぉぉ

 既存曲にすれば良かったぁぁぁぁぁ」 


 


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