第37話 パエリア、そして──

「料理人の皆さんも、どうぞ召し上がってください」


 その言葉に、ワインを片手に楽しく談笑をしていた貴族の人が大きなパエリアの塊に手を伸ばす。


「どれどれ──」


 見た感じ、香りが豊かでとってもおいしそう。目に見えるほどシーフード系の海の恵みが見栄え良く盛り付けられ、上には色とりどりの海鮮の宝石箱みたいに海鮮系の具が広がっている。


 エビ、タコ、イカ、貝類──海産物がいっぱい。シーフードパエリアってやつね。

 コメと一緒に色を付けるためのサフラン、シーフード系の食材と一緒に炊きもまれたおかげで、海鮮系のエキスがごはん全体にしみわたっているのがわかる。

 さらに、トマトに鶏もも肉。


「とりあえず食べてくれ。いまみんなに配るから」


 そう言っておじさんは、お皿に完成したパエリアをのっけて一人一人のっけていく。自分の分を渡されて、焼き立ての香ばしい香りが鼻腔をくすぐってくる。


「いい香りね、でもこれ焦げてない?」


「鍋の底にある、おこげというやつだ。カリカリして、とても美味しいぞ」


「そうなのね? ありがと」


 そういう食べ方もあるのね。本当に楽しみ。カリッとしてる感じなのかな?


 周囲の人たちも、美味しそうにパエリアを食べ始めた。みんな食べるなり嬉しそうな表情。とても満足げだ。

 私も食べてみよ。初めて食べる料理だけど、この香りと料理具合からかなり期待値が高い。


 お皿にシーフードパエリアをのっけて、スプーンで口に入れる。イカを焼いた奴と、黄色いご飯を同時に口に入れて、シーフードパエリアに舌鼓を打つ。


 スプーンを使って一口食べると、そのほのかなシーフードと香辛料の香りに鼻を突かれた。ふわりとした米とシーフードが一体化して口の中で踊る。エビ、ムール貝、イカ、タコ、貝柱、魚介類が、すべてうまく引き立っていた。このシーフードパエリアは、素材が鮮やかで味わい深い。鮮やかな色合いと食感の違いが後を引く美味しさね。


「何これ? こんなおいしいパエリア初めて食べたわ」


「そうだろそうだろ」


 隣にいた人目を丸くして驚く。それから、おこげに口をつけてみたが、カリカリして美味しい。

 海鮮は塩でシンプルに味付けされていて、海鮮の味がうまく引き立っている。それと御飯がよく合う。

 さらに鶏もも肉に、皮の部分をほんのりと焼いた焼きトマト。



 鶏ももは肉質が良くしっかりとした食感。トマトの酸っぱさもアクセントになっていて素晴らしい味になっている。


「すっごい美味しいわ」


「彼女の言うとおりだ──初めての食べ物でどうなるかと思ったが素晴らしいじゃないか」


「初めて食べたけど、新鮮でおいしいわ」

 周囲に人たちの評判も上々。ちょっと、どんなふうに作るか聞いてみよ。

 おじさんに簡単にレシピを聞いて、メモに記録。


「ごちそうさまです、とってもおいしかったです」


 そして、この場を後にする。

 地元の人が多く、会話も女の話とか地元の話が多い。楽しそうに話しているのはいいんだけど──もうちょっと実入りの話をしたいって思った。


 時間は限られるんだし、次行ってみよ。でも最後にひと宣伝。


「こっちも料理作ってるんで、ぜひ来てください。隅っこのエフェリーネの隣にありますから」


「お前の所に行こうなんて物好き、いるかねぇ~~。ブリタニカなんだろ」


「大丈夫ですよ、ちゃんとシチリナの人に見てもらってますから」


「じゃあ期待してるぞ」


 一瞬びくっと肩が震えた。

 私のことを知ってた貴族の人が茶化してきた──。確かに、あのひげ男爵みたいな人──見たことあるかも。とにかく、食べてもらえればわかってくれると思う。来てくれることに、期待してもらうしかない。


 次の店──。


「いいワインの店、紹介しようか?」


「砂漠の地方と、香辛料の売買してるんだけど売ろうか?」


 面白い商談をしている人のところに行く。これなら面白い話が出来そう。


「ちょっといいかしら?」



 そう言って話に入って、どんな料理が食べられているかを見る。大きな、白い袋に刻んだ料理が入っている細かい肉に、刻まれた玉ねぎ。他にいろいろ入っている。そして、なんともいえない癖がある独特の香り──というかこれ、見たことあるかも!


「これ何?」


「これはハギスじゃけぇ~~」


 ハギス?? ああ、うちでも北部で作られている料理。


「ハギス? 何それ」


 隣にいた白いドレスのお嬢様がじっと料理を見つめる。きょとんとした表情がとってもかわいい。これ、うちでもローカルな料理だっただけにこっちでも一部の地方だけで知られるローカルな料理なのかな?


 腰が曲がっている、白髪交じりのおじいさんが言った。


「ハギスっているのはね、羊の料理なんじゃ」


「羊? こんなに匂いが強烈なの?」


「すごいにおいだ──」


 その個性に、周囲が大きくざわついている。

 その気持ちはわかる。全体的に刺激が強いからだ、香りも味も。たまらない人が食べれば最高なんだけれど、人を選びそう。羊だって肉としては匂いに癖がある部類だし。大丈夫かな?



 でも、以前羊を食べた時ほどではない。嗅いでみたが、これでも中和されているみたい。ハーブっぽい香りもするかな?。

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