第38話 ハギスと王道料理

「いや──この料理が強烈なだけじゃ。一応ハーブを入れて、食べやすいようにしてあるんだが、それでも匂いは強くてな」


 コックの人が笑いながら言う。それでも、ハギスのことを知らないことを知らない人は多いのだろう。小さい女の子はきょとんとしていたり、隣のおじいさんは首をかしげていたり。「何それ?」


 女の子の問いに私が答える。


「ハギスっているのは羊の肝臓や心臓、肺などを細かく刻んで羊の胃袋に詰め目こんだ料理のこと。独特な味があって、美味しいよ」


「そうなの? 私楽しみ~~」


「内臓のひき肉に、玉ねぎを刻んだもの、オート麦、牛脂をませているのじゃ」


 色々と工夫しているのね。とりあえず食べてみよう。どんな味かワクワクしながら、皿にハギスを乗っけてもらう。


「うんうん、楽しみ楽しみ」


「へぇ~~美味しいじゃない」


 一部の人は、美味しそうに食べている。味は大丈夫そう。周囲の人も最初はきょろきょろと迷っていたが次第に皿を取りゆっくりと食べていく。


「塩味と、ひき肉──そしていろいろな味が醸し出していてとても美味しい」


「意外と行けるじゃない!」


 物珍しさに一口食べてみた人たちが言った。

 みんなの表情が、次第に明るくなっていくのがわかる。それを見た人たち──ハギスが美味しいものだと認識したのだろう。



 次第に人だかりができ始めた。元々、半島の先端にあるローカルな食べ物だけあって食べた人が少なく、物珍しさも感じているのかな?


 みんな、大きなハギスを切り分けて食べていく。最初はあの匂いに警戒心を強めていたものの、食べていくたびにフォークが進んでいくのがわかる。

 いいな、私も一口行ってみよ!


 盛られたハギスを、ゆっくりと食べてみる。

「うん、おいしい」


 癖は完全に消えてはいないけど、お肉の持っている味が生かされていておいしい。

 お肉本来の味、それに油やハーブ、塩コショウ──そして香辛料。


 多分、バランスを欠いただけでどれかの味が主張しすぎてゲテモノになってしまうと思う。それを、うまくまとめているのは彼の腕の良さだと思う。


「おおっ! これ!とっても美味しいじゃないか」


「おいしいおいしい」



 気が付けば、みんなの表情に笑顔が灯っている。普段はこの辺りでは食べられないからか、最初は物珍しさからだったが──次第に美味しそうな表情を見てこっちに来る人だっていた。

 1人の貴族が、コックの人に話しかけている。


「いい腕してるじゃない」


「ありがとな。そう言ってもらえてうれしいよ」


 美味しい料理だったのか、周囲の人の話も自然と弾んでくる。

 ふくよかな体系の貴族の人が話始めた。


「最近海賊たちが増えてるんだよな」


「南方の方で、イナゴが大量増殖して食料が食われちまうんだってよ」


 ブリタニカでは聞かないような情報が話されている。これがパーティーに行く最大のメリットよね。色々な情報を聞けて、これを外交に生かしたい。私も、ワインを片手に話に入る。


「ちょっと、話入っていいかしら?」


「おう、色々話そうな」


 色々な現地やこの辺りの事の話を聞く。それから、半分くらいハギスを食べたあたりで私達ブリタニカのことを話し始めた。何か、いい情報ないかな。



 それから、各々が地元のことを話した後──面白そうな話が入ってくる。何かいい話だといいな。


「海の向こうに、新大陸があってね──半年後にティーパーティーをするから茶葉が欲しいんだって」


「じゃあ、うちの領地のを売るよ。ちょうど収穫時期になるからな」


「よかったら、ブリタニカにも商社はあるから──取引しない? 損はさせないから」


「ああ、約束な」


 いい話になった。メモしておいて、帰国したら話付けてみよ。


 色々と商談の話もできて、実りあるものだった。

 香辛料の売買とか、商人の話とか南国の砂漠より南の情報だとか──。

 海流を使った3つの地域の貿易とかも興味深い。


 でも、時間は限られている。他いこ他──。

 他の話なら、お開きになった後でもいいし。


 次のブースは、これにしよっかな。


「随分王道料理だね」


 髪の長い、すらりと長身の黒髪の女の人がパスタを作ろうとしている。ソースは──卵黄と白いとろとろとした液体にチーズの濃厚そうな香り。大きいベーコンにコショウ、カルボナーラってやつかな?


 隣には牛の薄切りにチーズやソースがかかっている。カルパッチョってやつだっけ?


「ちょっと待っててね。最初に作ったのが切らしちゃって、また作ってるの」


 人気があるってことよね! ちょっと作るとこも見てみよ。まだ時間はあるし。


 ベーコン・ニンニクを炒めて香りを出した後、湯とスパゲッティを投入。そのまま煮汁を蒸発させる。その後水を切ってから火を止めて余熱でチーズを投入。


「おいしそう──」


「ありがとう! でも、本場はこれから。トロみ感が重要なのよね」


「そうなんだ──」


 女の人はじっとスパゲッティを見つめた。そして、大きく息を吸うと卵黄が入ったボウルを手に取った。


「ここね! チーズが溶けてる」



 さらに、余熱を生かしてソースと麺を混ぜ続けた。

 濃厚そうな香りが鼻腔をくすぐってくる。香りだけで、絶対に美味しいと断言できる。


「王道もののカルボナーラ、ぜひ食べてください!」

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