第36話 本番の日

 そして、本番の日となった。催しの日。

 雲一つない晴天の空。カラッとした暖かい空気に、白いドレス姿の私がいる。


 宮殿の前にある緑に生い茂る広場。いつもの閑静な雰囲気とは打って変わって豪華な服を着た、いかにも身分が高そうな人が集まっていた。大きなテーブルには、王国中から選ばれた料理人が作った料理の数々。


 そして、一番入り口側の東の端にエフェリーネたちの場所。その隣に、私たちのスペース。

 エフェリーネとフラミリアは料理にかかりっきりだが、私たちは外から来た存在ということや、料理の研究に来たということもあり3人のうち2人が料理、1人が他のブースで食べ物を食べに行くということになった。


 周囲を見ると、豪華な料理がどこもかしこも並んでいる。見たことがある料理だけでなく、初めて見る者も、──。キノコと白いソースが入ったパスタ。どんな味がするんだろう、とっても気になる。


 見た感じではパスタはピザが多い。さっき見たはちみつが塗ってあるピザ、ちょっと食べてみたいかも!

 あのリブロースステーキも美味しそう!


 まだパーティーが始まる前。来客たちはみんな、談笑をしたり商売や土地の売買やコネの話などに花を咲かせている。


「南方の砂漠の方で争いが起きてきて、うちに難民が流れてるんだが──どうするかね」


「よかったら、うちの商社を通して売ってほしい。うちの山に銅が見つかってさ、労働力が欲しんだ」


 今は準備があるから加われないけど、パーティー後にそんな話をしていたら、ちょっと加わってみようかした。いい取引があったら、参加してみたい。


 そして、再び私たちの料理の場所に戻って準備。皿やフォークの用意、味付けの確認などが終わったところで、タキシード姿をした人が中央に立って行った。


「皆様、ワインをお持ちしました」


 メイド服を着た侍女が貴族の人たちに次々とワインを持ってきて、みんなのワイングラス注いで行く。ワインは、私たちも配られるらしい。ワイングラスに、白ワインが注がれる。


 香り豊か──すごいな。ワインも、何十年も寝かせた高級品らしい。


 すでに完成した料理を視線に入れた。おでこの汗をぬぐって、周囲に視線を向る。


「緊張してきた。ちゃんと認められるか緊張するわ」


 周囲には、コック特有の長い白帽子をかぶった人がちらほら。

 数組ほど──どんな腕なんだろう。私たちの料理が劣っているんじゃないかと考えてしまう。そう思うと、偶然コルルと視線が合った。コルルは優しく笑みを向けてきた。


「大丈夫ですよ、一生懸命頑張ったじゃないですか。行きましょう」


「そうね、ありがと」


 コルルの言葉に自信が湧いた。そうだよ、みんなであれだけ研究してきたんだもん。絶対大丈夫だよ。夜遅くまで、全員で。


 その言葉に自信を取り戻して、こぶしを強く握る。


 そして、時間となった。

 まずは、国王様の乾杯から──。


 ワインが全員にいきわたったのを確認してから、国王が自分のワイングラスを快晴の空に向かってあげる。


「では皆さん、素敵なパーティーにしましょう。かんぱ~~い」



「「乾杯」」


 こんと、ワイングラスが当たった音が生る。


「香り漂う白ワイン──ワインで有名な場所というだけあって、とても美味しい」


「はい──すごいですね」


 飲んでみると甘口でフルーティー、酸味と甘みのバランスがとても取れていておいしい。フルーツの香りもいい。


「香り漂う白ワイン──ワインで有名な場所というだけあって、とても美味しいです」


「アスキス様、はい──すごいですね」


「そうそう。甘くて私好みね!」


 そして、パーティーが始まった。

 最初はコルルとヒータでブースを切り盛り。だから私はほかの場所を見学。


「色々見てくるね」


「行ってらっしゃい! いいもの見てきなさい!」


 他の料理たちを見てみる。

 どこもかしこもいろいろなところから来た上流貴族や王族たちで列を作ったり、取り囲むようになっていた。


 振り返って私達は──ちらほらって感じ。

 絶対に挽回する! そのための秘策だってあるし!


 どの店にしようかなぁ~~。きょろきょろと視線を向ける。どこもにぎやかにしゃべっていて食べ物もおいしそう。どうしようかと考えにおいをかいでみると、鉄板で肉や魚を焼いているブースがある。

 ちょっと行ってみようか。他の人も賑やかそうに話しているし。


「ちょっと、話聞いてもいい?」



「なんじゃ?」


「これ、シチリナ王国の料理?」


「まあ、そうとも言えるんだが──エスパーニャ料理でもある」


「アレンジして取り入れてるってことですか?」


「まあな」


 ジュゥゥゥ──と豪快な音を立ててエビを焼いているのは、ひげの濃い筋肉質の男の人。

 エスパーニャ王国で料理人をしていたらしい。


「王国中から料理人を集めると聞いたが、それだと料理が似通ってしまうと感じたんでな、エスパーニャ作っていた料理をシチリナ王国の舌に合うように改造して作ってみた」


「料理はただ美味しいだけではダメダメ。周囲のことを考えて、行かないと」


 その言葉に、コクリと頷く。その通りだ。


「あ、パエリア出来たぞ──よかったら食べてくれ」

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