第35話 ヒータの気持ち

 一度目が覚めると、すでに夕方になっていた。フラミリアとエフェリーネは、夕日が照らす部屋。すでに明日の店の下ごしらえをしているのか、厨房の方から包丁を扱っている音が聞こえる。


「この捌いたタコ、どうすればいいですか?」


「そこに置いてくださいコルルさん、私がカルパッチョにするから」


 コルル──タコ捌けるんだ……というか起きて協力してる。すごいわね……。

 私も協力しないと──と思って立ち上がろうとしたが、ずっと徹夜で立ち仕事をしていたせいか足が痛い。無理して立ち上がろうとすると、誰かが私の肩をつかんでくる。


「ふぁ~~あ。もう、無理しなくていいわよ。その分本番頑張って返しなさい」


 ヒータだった。さっきまで寝てたのか、目に目やにが付いていて、目をこするながらあくびをして話しかけてきた。


「そうね」


 料理の音を聞く限り、そこまであわただしい様子はない。それなら3人に任せてもいいか。それに、せっかくヒータと2人っきりになったんだし。


 にこっとヒータに笑顔を向ける。ヒータは顔を赤くしてあわあわと戸惑い始めた。こういう所、とってもかわいいと思う。


「な、何よいきなり!」


「ヒータと2人っきり~~」


 ぎゅっとヒータに抱き着く。ヒータはびくっと体を跳ね、恥ずかしそうに顔を膨らませプイっとそっぽを向いた。


「ちょっと、からかわないでよ。用がないなら寝るわよ」


「そんなことないって。真剣な話になるから、最初はこんな風に入って緊張をほぐしたほうがいいって思っただけ」


「な、何なのよ……真剣な話って」



 ジト目でこっちを見てくるヒータ。顔をぷくっと膨らませ、どこか言いずらそう。


「みんなと一緒にいて、どう思った?」


 優しく笑みを浮かべて、ヒータに話しかける。

 ヒータは顔を赤くして、びっくりして飛び上がった。


「い、いきなりどうしたのよ」


「いや、さ──今までこうして、ヒータの気持ちを聞くとかしてなかったじゃん。もしかしたら、連れてかなかった方が良かったかなって思って」


 ヒータの表情が、穏やかなものになる。そして、顔を赤くしてプイっとそっぽを向いた。


「べ、別にそんなんじゃないんだからねっ。ただ放っておけなかったのよっあんたたちの事」


「そう……」


 やっぱり、私のことを想ってくれていたんだ、とってもうれし~~。日頃はツンとした態度をとっていても、本当はいつも、私たちの事を考えていてくれるのだ。それが、ヒータの素晴らしいところ。


「そういう所、私大好きよ!」


「う、うるっさいわね!! あなた達があまりに心配だから──」


「それにしては真剣で、いつも私たちについてきてくれるのよね」


「仕方がなかっただけ。だけよ──でも、一生懸命なところはとても感じるわ。だから、力になりたいって思った。今は──ついてきてよかったって思ってるわ」


 ついてきてよかった。ヒータのこと、どこかで連れてきて大丈夫かなって思たから本当に安心した。思わずパッと飛び上がって、ヒータに抱き着く。


「私たちの事、そういう風に思ってくれていたの?? とっても嬉し~~」


「ちょ、ちょっと。そんなんじゃないんだからね、暑苦しいからやめなさいよ~~」


 嫌がっているけど、どこかうれしそう。

 素直になれないけど、本当は周囲に優しくて私たちの事を想ってくれている。


 そういう所が、ヒータの魅力なんだと思う。


「そう思ってくれて、本当にうれしい。これからも、楽しく行きましょ! よろしくね!」


「こっちこそ、よろしくね……」


 そして、私とヒータは夢の中に入っていった、目が覚めると、すでに夜だった。よほど疲れてたみたい。


 それから、前日までは街を歩いたり、店を手伝ったり。この辺りは、トマトが有名みたい。瓶に詰められたトマトをよく見かける。

 それを生かしたピザやパスタ。数件店に入ってみたけど、どれも美味しい。これに、負けないくらいの料理を作っていきたい。



 前日、厨房でみんなの夜食を作る。明日のデモンストレーションも兼ねてエフェリーネと一緒に料理を作る。


 満月の夜の中、シチリナ王国の料理について学ぶ。この国の料理の傾向を学ばなければ、とても彼らに受け入れられる料理は作れない。作ってみたチーズとトマトのパスタ。シチリナ王国周辺では一般的な料理。まずくはないが、やっぱり個性が欲しい。


「この辺りは都市国家が乱立して、それぞれの街で対抗心が強い。こういった、一つに集まる催しがあると各国対抗心を燃やしてきて、全力を尽くしてきます。オリジナリティがある、素敵な料理を」


「コルルの通りです。とはいえ、気候がそこまで変わらない以上料理も似通ったものが多く成ってしまう傾向があってですね、ここはアスキス様たちがブリタニカや独自な料理を作っていただいて、変化をつけるのはいいと思います」


「そうね。半端なものを出すわけにはいかないもの」


「はい──」


 まだ、足りないような気がする。それでも、今の私の全力と持てるものを全部出しつくす。みんなが協力してくれたんだから、絶対に負けるわけにはいかない。


 素材を生かして──それだけじゃなくて私達ならでばの物、それを両立して──最高の料理。



 頑張って、作っていこう!


 私たちを信じてくれた人たちのためにも、素晴らしい料理を出そう!

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