第33話 足りないもの
シンプルだけどチーズとトマトソース、パスタが美味しい。もちもちとしたソースに、甘酸っぱいトマト。
「いい味じゃない。ブリタニカじゃこんなおいしいの、一生食べられないわ!」
「はい。後でレシピ、教えてください。食材ではかないませんが、こっちでもそれなりにいいものができると思います」
「わかりました。あとで教えますね」
それからカルボナーラは、特製のチーズととろけるような濃厚がかみ合っていておいしい。
味が濃くて、それでいて脂っこさやしつこさを全く感じない。
「これも悪くないわ。ブリタニカでお店を開いたら、絶対行列になって繁盛するわ!」
「まあ、ブリタニカならね……」
「うるさいヒータ」
それを何とかするために、ここにいるんじゃない……」
ペペロンチーノ。
程よく効いたニンニク。オリーブオイルに唐辛子がちょうどよくあっている。辛さも控えめで、子供でもおいしく食べられそう。
シンプルではあるけど、しっかりと味付けされていて素晴らしい味。
「うん、このくらいの辛さがちょうどいいと思うわ」
「ヒータは、もっと甘いものがいいと思ったわ?」
「ちょっとフラミリア! 私がお子様って言いたいわけ?」
そして、ミノタウロスの肉。ステーキを丁寧にナイフで切っていただく。まずは塩コショウで味付けたやつ。一口口に入れて、そのおいしさにキラキラと目を輝かせる。
「うん、いいんじゃないかしら? とろけるようなお肉の邪魔をせず、味をしっかり引き立たせているわ」
「アスキス様の言うとおりです。塩も、味がしっかりしていていいですね。火度よくにがり成分もありますし。いい塩を使っているんですか?」
「当然です。この辺りの海で採れた塩を使っていますが、こういった料理にとてもあってますよね」
嬉しそうなエフェリーネ。確かに、あのきれいな海から作られた塩はとてもいい味してそう。
「でも、もうひとひねりあったほうがいいわねぇ。アスキスみたいに初めて食べるならともかく、貴族たちならいいもを食べているでしょうし」
フラミリアの言葉に、うんうんとうなづく。シンプルだけど、肉の脂身と肉の味がしっかりとしているけど、何度も食べている人ならもっと独自の物を出したほうがいいかも知れない。
他に、甘辛系のタレやレモンなんかもあった。タレも無難に美味しいし、レモンの方はまた格別な味があった。
こってりとしたお肉がレモンの酸っぱさと組み合わさってあっさりテイストになっている。
「この、甘辛いたれのも、いい味ですね。フルーティーな甘酸っぱさと、ピリッと来るような辛さ。それでいて、肉本来のうまみを阻害せずうまく引き立てている」
「果物の甘さを存分に生かしたたれです。本来ならハンバーグとかに使っている物を、ステーキ用に改良しました。ミノタウロスに使うのは久しぶりだったので味がどうなっているか心配だったのですが……」
「いや、全然悪くないわ。いい味じゃない!」
フラミリアがテンションを上げて喜んでいる。確かにそのくらいの味だ。
選ばなきゃいけないっているのが、本当に惜しいくらいの味だ。肉本来の美味しさを十分すぎるほど引き立てているのがわかる。
「いいんじゃない? あっさりとした味付けも」
レモン味、ヒータが一番気に入っていた。確かにこれも悪くない。
それから、サラダにチーズ。どれも、シンプルながらも食材の美味しさが引き立つ形になっていてどれもいい味になっている。
私からすれば、これを出すことになったとしてもまったく問題ないと思う。
どれもブリタニカ王国で作った料理より、ずっといい味だ。
「みんなは、どう思う? 私は本当に素晴らしいと思った」
そう言って、周囲に視線を向ける。ヒータとコルルは嬉しそうに、好意的な表情をしている。
かなり気に入ったのだろう。
「食材が豊富でおいしいし、腕も素晴らしい。シチリナ王国のレベルの高さがうかがえます」
「本当よ! どこぞのブリタニカ王国とは大違いだわ!」
それはさすがに余計よ、ヒータ。そして──真剣そうな、まだ何か足りなさそうな表情をしている2人。
何か、不満でもあったのかな? ちょっと話しかけてみようか。
「どう? どこか悪かった?」
「確かに、ダメ──っていうわけじゃないんだけど。もうちょっとこの料理でしか出せないものとか、出してみたいわね。これだと、別の人の料理とも同じというか……」
「──個性ってやつね。私達しかできないもの──私達ならでばの物を、作りたいわね。これに何かアクセントをつける形で」
ならでば……ねぇ。私この地の名物とかわからないし……話にのれるのかしら?
首をかしげて、何とか2人の助けになろうといろいろと考える。ダメ……やっぱわかんないや。ヒータとアスキスも、腕を組んだままずっと考えこんでる。
フラミリアも夜の空をじっと見つめている。それを見たエフェリーネが、手をパンとたたいて笑顔を作る。
「ちょっと、煮詰まってきちゃったわね。いったん夜風に当たって休憩しましょ」
「それもそうね」
この場に、ほっとした空気が流れる。みんな賛成みたいだ。
いったん休憩となり、海辺の海岸に足を運ぶ。雲一つない、星空が輝く満天の星空を眺める。
磯の香りが漂う海風が私の髪をなびかせ、その髪を抑えた。
遠目には、どこまでも続く砂浜。明かりが灯っている街並み。
足元には、小さなカニが─歩きで歩いている。
「いい砂浜でしょ? 私とても気に入ってるの」
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