第25話 新たな任務

 山菜のスープも、あっさりしていて口直しには最適といった感じ。


「おいしいわ、最高の味じゃない。スープも、あっさりしていて野菜や香辛料の味が引き立っている。口直しって感じで素敵だったわ」


 ヒータも、とても満足げ。本当に素晴らしい時間だった。


「ごちそうさま、とっても素敵な一品だったわ」


「はい。素晴らしかったです」


 どうして、こんな細い路地裏の──一般人も食べるようなお店でこんなものが食べられるのか。

 羨ましいな~~。少しの間だけでもここに住んでみたい。


 そんなことを考えて、ホッとワインを飲みながら一息。再びきれいな海に目を向けていると、店の扉がガラガラと開いた。


 視線を向けると、そこには大きな斧を持った筋肉質の男の人

 冒険者の人かな? ここまで走ってきたのか、大きく息を荒げている。フラミリアがそれに気づいたのか、持っていたお皿を洗面台において話しかけた。


「あらバルテッリさん、どうしたのですか?」


「はぁ……はぁ……フラミリアさん、すまん。この後予定だったミノタウロスの討伐、出来なさそうなんだ」


「な、何があったんですか?」


 話によると、彼はギルドから来た冒険者の一人らしい。妹一緒に冒険者として活躍をしているのだとか。

 彼が受け持ったクエストの一つ、エフェリーネが依頼したミノタウロスの討伐があって、他の冒険者パーティーと一緒に今日から討伐の予定だったのだが、ミノタウロスが強い魔物だと聞きつけたそのパーティーが恐れをなして逃げ出してしまったというのだ。


「あれは7~8人がかりじゃないと危険な動物だ。俺と妹、あんたたち2人だけじゃとても──」



「でも、王族向けの料理にはあの肉は欲しいし──」


 ああ、恐れをなしてのバックレで人が足りなくなっちゃってことね。こっちのギルドでも、たまにあったし、強そうな奴と見るや逃げ出すってよくあるみたいね。

 話を聞いていたエフェリーネは腕を組んで考えこむ。


「何かいいアイデアは……あっ!」


 エフェリーネは何かアイデアを見つけたのかポンと手をたたいて私たちを見た。「あなたたち、大きな動物と戦ったことある??」


「私は……何度か経験があります」


「私もあるわ。魔法適正は一応あるから、何度か一般人の生活を経験したいって考えてやったことある。ヒータは??」


「私は……後方から回復とか援護なら一応」


 正直に答えて、意図がなんとなく理解できた。まさか……そう考えると、エフェリーネが背中を向ける。


「ちょっと待ってて」


 そう言ってエフェリーネはいったん厨房の方へ。そして、一切れの干し肉を皿にのっけて持ってくる。皿の肉を綺麗に3等分すると、皿をこっちに持ってきた。


「ちょっと、これ食べてみて。どう思う??」


 私たちは互いに見つめ合った後、その肉をいただく。


「何これ、トロットロじゃない」


 干し肉を口に入れた瞬間、その絶品さに目を輝かせる。心にしみわたる豊かな香り。

 そして、口の中でまるでキャラメルのようにとろけていく脂。干し肉なのにこれはすごい。


 柔らかくて、濃厚な味。脂もそこまでくどくなく1枚くらいなら普通に食べられそうだ。


「これはミノタウロスの肉です。これは乾燥させて干し肉にしたものなので味が落ちますが、本物の肉はこれよりも脂がのっていて、味も濃厚でおいしんですよ。国王様も気に入っていて、要人たちへの料理には毎回出してます」


「エフェリーネの言うとおりよ。でもね、力が強いから冒険者を交えて、それなりの人数がないと倒せないのよ。私たち2人も討伐はしているけど協力者がいないと」



 それでさっきの話につながったのか……一緒に戦おうとした冒険者のバックレ。

 そして、2人は頭を下げて言った。


「「ご協力、お願いします」」


 突然の事態に、言葉を失ってしまう。まさか、こんなところまできて戦うなんて思っていなかった。私たちは互いに、キョロキョロと見つめ合う。


 協力──してもいいんだけど。そんな姿を見たフラミリアが言った。


「おいしい部位、ご馳走してあげるから協力してくれない? そんなの強いやつじゃないから。おまけにエルフだっているし、おいしい果物も採れるいい場所よ」


「マジ?」


 その言葉に、私の表情が変わる。あのお肉、味が落ちた干し肉の状態でも味は相当な物だった。これがベストな状態の、ステーキとかだったらどうだろうか? 


 考えるだけでよだれが垂れてきた。

 絶対食べてみたいかも。自然とテンションが上がる。まあ、あんだけおいしい料理をごちそうしてくれたんだしこんな時くらい力になってもいいか。エルフだって、噂では聞いた美しさを持つ生物。興味あるし会ってみたい。


「わかったわ、協力するわ。コルル、ヒータ。いい?」


「わかりました」

「協力──すればいいんでしょ」


 ヒータはちょっと嫌がっていたが、何とか協力に成功。おいしいミノタウロスの肉、楽しみだな。

 それには、このクエストに成功しないと。


「本当ですか? ありがとうございます」


 エフェリーネが、はっと表情を明るくして言葉を返した。エフェリーネの気持ちにも、何とか答えていきたいな。


 そして私たちは、準備を終えてカタルニアの森へと進んでいくのだった。頑張る!






 青々とした木々が森を覆い、微かな風が木々を揺らす中森の中を進む。新芽が生き生きと輝き、森の内部に浸食する陽の光が、その芽を輝かせる。風の音が反響しており、木々が鳴り響く。

 風が森の奥深くから沸き上がり、葉っぱがなびく音が聞こえる。自然特有の音で空気を鮮やかにする。日の光がこぼれる、明るい森。


「素敵な場所ね」



「うっそうとした森ね」

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