第21話 商談、そして最後の夜

「あの~~アスキス様はブリタニカ王国の王女様ですよね? 私以前行ったことがあるのでわかるんです」


 げっ……バレてた……。ありゃりゃ。自然と苦い表情になり、どう返せばいいかわからなくなってしまう。


「そしてヒータ様ですよね。知ってますよ」


 ヒジャブを着た女の人も言う。ヒータは腕を組んで、戸惑った表情になる。でもほんのりとほほを赤くしてちょっぴりうれしそう。


「わ、わ、わかってるじゃない。まあこの美少女ヒータ様なら仕方がないわっ。で、何の用??」


「皆さんの振る舞いやおもてなしがとても素晴らしかったことから──ぜひ以前からあなたたちから打診があった話を、しようかと思いまして──」


「わが王国で、地下から見つかった資源のことです」


「……商談のこと?」


「はい」


 噂で聞いたことがある。この人たちは礼儀作法をとても重視していると。例えば豚を使った料理は彼らにとってタブーなど独特のルールが多い。そう言ったルールを理解せずに利益だけを求めて取引しても相手にされない。


 彼ら特有の文化を理解して、尊重しなければいならないのだ。

 だから外交もとても複雑で、なかなかベネルクス地方のどの国もうまくいってなかったのが現実だ。


「そなたの王国では、地下資源や東宝の国から手に入れている香辛料を求めていると聞いております。その話について、進められれば幸いです」


「ありがとうございます。確かにわが王国は、オリエント地方の地下資源──『石油』について興味があり、何度か外交官を派遣していたところなの」


 さらにナサルから話を聞く。経済発展のために、販売経路を探っていたらしい。ただ、液体を運ぶ必要があるためそれに対応する設備があるのかどうか、使用するのに専用の設備が必要なのでその条件を満たせるかどうか

 そして、私たちが信用できるかどうか探っていたらしい。


 彼らの住んでいる「オリエント地方」は戦乱が多く、部族によってはせっかく物を売っても代金が払えないとなると暴力をちらつかせたり、敵の領地に攻め込んで踏み倒そうとすることがあるとか。


「だから、こういった信用というのがとても大事なんだよ」


 ぶっきらぼうに言うレイノー。レイノーのフランソワ王国も、交渉していたと聞いた。うまくいかなかったみたいだけど。


「今日アスキス様とあって、アスキス様が信頼できる相手だと心から理解できました。なので、もしアスキス様がよろしければブリタニカ王国とわが王国の中で、取引の話ができないかと」


「ありがとう、ぜひ取引させてもらうわ」



 まさに渡りに船というやつだ。でも、ここで口約束ってのもねぇ。さすがにお父様やほかの貴族たちの話だって聞かないといけないし。

 大事な話は本国で、ゆっくりと話し合った方がいいかな。


 そんなことを、申し訳なさそうに話すと、ナサルさんは快く了承してくれた、


「申し訳ありません。母国に帰ったら、すぐにお父様や周囲に相談しますので」


「構わんよ。いい話を、待っているからな」



 それから、彼らはこの場を去ってしまった。今度はフランソワ王国の国王と直接会談を行うらしい。結構嫌味を言うときがあるけど、大丈夫かしら。心配になってしまう。


 まあ、あの人たちなら大丈夫そうだし大丈夫だと思う。もし関係が悪くなったら、私達が話を聞いて利益を丸々いただいちゃえばいいか。私達だって知恵はある。彼らの反応によって、色々私たちも行動しましょう。


 それから、片付けをしたり──ナサルの子供たちとお話と楽しくお話をする。ヒータとコルルも、混ざって。


 そんな話を過ごして、あっという間に日が暮れてしまった。


 夜、3人で一夜を過ごす。昼間まで要人を 緊張もあり、疲労がどっと来た。

 ネグリジェに着替えてベッドに寝っ転がった瞬間に私は眠ってしまったのだった。



 夜遅く、おそらく日付が変わってみんなが寝静まったころに一人起きてしまった。夜空に視線を置いて、ふぁ~~あと大きくあくびをする。

 隣を見てみると、コルルとヒータ。2人とも、着替えた後にすぐ眠ってしまったのだろう。

 スースーと、寝顔がとってもかわいい。



 特にヒータ。幼い顔つきも相まってすっごいキュートに見える。

 思わずぎゅっと抱きしめた。甘ったるい髪の香り、思わずドキッとしてしまう。


 柔らかそうなほっぺに人差し指で触ってみる。ぷにぷにして、かわいい~~。そんな風に考えていると「うぅ~~」と声を上げて起きてしまった。


「な、何よ」



 私はにこっと笑って話す。


「かわいい! ヒータを連れてきて、本当に良かったって思い」


「な、なによいきなり……」


 寝起きなのか、どこかふわっとしていて、目の焦点が合ってない。寝ぼけているのかな?

 でもそんな姿もとっても魅力的に見える。


「いや、ヒータ。初めはあんなにつんつんしていたのに、今は一生懸命私たちのために頑張ってくれるようになってさ、本当に素敵な子よねって思って」


 その言葉にヒータは、顔を真っ赤にして反論する。びっくりして、飛び上がっちゃった。


「ちょ、ちょ、ちょっと褒められたって何にも返ってこないわよっ!」

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