第18話 私達の番

「確かに、みんなで食べたほうが楽しいよな」


 ナサルが、快く反応してくれた。大丈夫、この地域の人たちは、みんなで食事をとったり家族という単位を非常に大切にしている。


 それから、ステーキを各席に配る。

 まずはサーロインステーキの方から。


 脂がのったサーロインのステーキに、バターを使って炒めた野菜たち。いろいろな具材を合わせて、誰でも食べられるように甘みを中心に味付けをした。みんな一斉にフォークで食べ始める。


「うん、おいしい」


 私も一口食べてみる。

 ──うん、最高の出来。ちゃんと焼けて良かった。


 フォークで一切れとってみると、ちょっとレアに焼いて真ん中あたりがほんのりと赤い。

 そのまま一口食べてみると、歯ごたえよく焼きあがった表面──そして肉汁が口いっぱいにあふれ出してくる。

 ワインの香り、バターのコク、甘めでかつ塩を効かせたバランスの良い味。脂がとろけて、でもくどすぎない焼き加減。

 しっかりと塩とソースで味付けされた肉。口の中でうま味と肉汁が口の中に迸る。


 肉の繊維がわかるくらいにの噛み答えはあるが、そこに歯が触れるとさっくりと嚙み切れて口の中に脂身と肉汁があふれる。「お肉を食べてる」って感じが、本当にたまらない。

 ニンジンやホウレンソウ、ジャガイモなど炒めた野菜類やフォアグラも、バターを基調に香り高く味付けられておいしく仕上がっている。


「アスキス様──今までで一番おいしいんじゃないですかこれ」


「ありがと」


「素晴らしい。野菜ともよく合う。初めてだよこんなものを食べるのは」


 昨日、レイノーの料理が辛いと言っていた子供も、おいしそうにフォークを進めていた。


「子供たちもおいしく食べれて何よりです。昨日は子供たち──せっかくのごちそうと食べられませんでしたから」


 そして、私はジト目になってレイノーを見つめる。レイノーは全く動じない。


「まあ、クソガキには俺の料理の素晴らしさはわからんよ」


「あなたの言うクソガキも、大人も一人の人間であることに変わりはありません。あなただって仮にも政務を担う立場の人間、それくらい分かったらどうですか?」


「そうよっ! みんなに認められてこその料理なんだからねっ!」



 きっぱりと言い放つコルルとヒータ。味は最高という感じだ。野菜やフォアグラも、甘さを基調としていて誰でも食べれて、かつみんながおいしく食べられるような味に仕上げたおかげで全員がおいしいと言ってくれた。ここまでは大成功だ。


 そして、みんながステーキと野菜、フォアグラを食べ終わったのを見て、今度はヒータに話しかける。

 ヒータにウィンクをして──。


「そろそろ、あれ持ってきましょ」


「わかったわっ!」


 そして、私とヒータで奥の部屋から持ってきた──特製のスターゲイジーパイを。



 ホールケーキに近いサイズの、黄色っぽい円形のパイ生地と天に向かって突き出た魚。


 カビール家の人たちが座っている大きな机に、2つ置くとコルルが説明を始めた。

 初めてだから、しっかり説明しないと驚いちゃうような外見だからね。


「ええっと、2つ作ったのでそれをみんなで切り分けて食べてください。これはスターゲイジーパイという、ブリタニカ王国の伝統料理です」


 コルルの説明に、ここにいるみんなが興味津々そうにスターゲイジーパイに視線を向けていた。

 当然よね、魚が丸々2匹入っていてそれが上に突き出ているパイなんて初めて見るはずなんだから。


「これ、まずいって有名なスターゲイジーパイだろ? こんなところで出すなんて勝負を捨てたも同然だろ」


 料理を指さして、嘲笑っているレイノーを無視してコルルはパイのことを説明。

 私の国で、祝い事のときに出すものだと。


 最初驚いていたが、コルルの説明でみんな食べる気になってれるようになった。


「面白そうです。ちょっと食べてみたいです」


「食べてみて食べてみて、いろいろ工夫を凝らしていて、絶対おいしいから!」


 そして私達でパイを切り分け、みんなの皿に配ったあたりで彼らが何か理解したのがわかる。

 クンクンと匂いを嗅ぎ始めた。うん、気づいたみたいね。


「なんか、香りがする」


「柑橘っぽいにおいだなこれは」


「その通りです。秘密の製法により、おいしい味と香りを付けました。ぜひ食べてください、食べて良かったって絶対に思いますから」


 これが、私が生み出した工夫。香りと、特製の味。


「柑橘系か──どうせ小細工だ。大した事ねぇ」


「それは味わってからわかりますよ」


 コルルの言葉を皮切りに、みんなスターゲイジーパイをフォークで食べていく。口に入れるなり、表情が変わっていくのがわかる。



「うん、おいしいじゃないか」


「甘酸っぱい香りに、甘い生地──中に入っているのはジャガイモに卵か。おいしいね」


 甘酸っぱい感じと魚の美味しさがとてもマッチして美味しい。大成功ね。工夫して砂糖を入れて、甘くしてよかった。

 思わず拳を握った。ヒータとコルルからも、満足げな表情が出ている。


「いいですね、成功じゃないですかこれ」


「まあ、私が腕によりを込めて作った料理なんだから当然よっ」


「こんなにうまいのかよ。これ、まずいって聞いたんだけどな」


 困惑しているレイノー。確かにまずいやつだってあるかもしれないけど、これは違う。胸を張って、私はそう言える。

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