第17話 そして、本番

「そうみたいです、では行きましょう」


 ご機嫌そうな表情のカビール家の人たち。ここまでは大丈夫。いよいよ本番だ。

 コルルとヒータのいる場所へと向かっていく。


 客人たちと楽しく会話をしながら、階段を登って屋上の昨日と同じ部屋へ。コンコンとノックをして、部屋に入る。


「あ、なんかいい香り」


 後ろにいた女の人が、はっとした表情で反応する。うん、ばっちしね! 私が工夫したのは、まず空間。


 ヒータとコルルに頼んで、貴族の人からアロマオイルを安くいただいた。そして、この部屋にアロマの香りを焚いていたのだ。


 食材の香りを邪魔しないくらいうっすらと──うんいい香り。客人の人たちも、部屋に入った瞬間匂いをクンクンとかいだり、機嫌がよさそうな表情になる。評判は悪くないわね。


「まあ、素晴らしい香りですね」


「そうだな」


 妻らしき人とナサルが、嬉しそうに言葉を交わす。

 そして、厨房に視線を向けるとヒータが頭を下げてくる。


「今日はよろしくお願いいたします」


「下ごしらえありがと、ここからは私も力になるわ」


 そして、私とコルルが調理用の服に着替えて調理に加わる。見てらっしゃい、これからが本番よ!


 すでにセットしてくれた料理。これから調理に入る。

 ヒータは、奥の厨房へ行ってしまった。部屋からは見えない、秘密のレシピを作るときに使う場所らしい。今回も見られたくない驚かせたい調理方のため、こうしたやり方になる。

 待ってて、後であっと驚かせてやるから!



 まずは、こっちで使う具材を取り出す。まずは──北の亜人たちが栽培している地域や森でとってきたと言われる野菜類。どれも、バターなどで炒めたりするんだけど、調理法はだいたいわかる。


 そして、ステーキの肉──脂がのっていてそれなりに高そう。牛肉の中でも脂身の部分が多い、サーロインの部分。かなり高級な部位なんだけど、コルルの願いで特別に譲ってもらったらしい。コルル、本当にすごいわね。

 均等に切られたステーキの肉。


 油をひいて、ワインを手に取り、もう一つの酒を手に取る。昨日はブランデーだった。


 ワインと、度数の高い──ラム酒? 昨日と違う。おどおどとしていると、コルルが話しかけてきた。


「これでもフランベはできます。こっちの方が味に合うかなって思たんで」


「そうなの、ありがとコルル」


 そういうところも、しっかり見てるのね。絶対成功させたい。コルルは奥のヒータの方へ行ってしまった。

 ステーキを焼き始めてから大きく深呼吸をして、ワインをフライパンに入れてからラム酒をフライパンに入れる。



 ゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!


 大きな音ともに、炎の柱が上がる。客席の方からも盛り上がりも見せるものの、昨日レイノーがすでにやったおかげで盛り上がりが昨日ほどではない。


 ちょっと、後追いになっちゃったわね……まあまだ巻き返す自信はある。

 そう考えて、後方を振り向く。


 部屋から見えない部屋の方から、うっすらとした柑橘系香りがする。うまくいってるみたいね。香りつけ……こっちも足引っ張らないように頑張らないと。


 焼き加減は──レア気味がいいかな。肉の真ん中がほんのりと赤みを残す感じ。

 出来上がったら皿にのっけて、適量サイズにみんなの分になるように切る。


 それから、野菜の調理。さっきまでステーキを焼いていたフライパンに、炒める野菜をのっけた。

 こっちの方が肉の脂身やうまみ、さっきまで入れてたワインの成分が野菜にも入っていくと思うから。


 再び油を入れて炒めて、出来上がり。ちょっと嗅いでみたけど、ほんのりとワインやのうの香りがする。

 これで料理は完了。あとは盛り付け、そのタイミングでコルルも出てきた、何でもあっちは大体終わった方私の方を手伝いに来たとのこと。一緒に料理を皿に盛り付けする。


「盛り付けも、ちょっとかわいくしてみましょう」


「あーいいかも。ナイスアイデアね、コルル」


 確かに、そういうのもただやるんじゃなくて、工夫した方がいいわね。


 メインのステーキを中心に、隣に野菜。それから、星やハートマークにジャガイモやニンジンを切る。普通に切るよりも、とってもかわいくできた。


 こっちが料理を完成したタイミングで、ヒータが奥の厨房から出てくる。


「こっちはOKよ、そっちは?」


「大丈夫大丈夫」


 これで料理は完成。全力は尽くした。あとはこの料理を客人たちが判断すだけ……。


「とりあえず、完成でーす」


 その言葉で客人たちが反応する。時間にして30分ほど。レイノーより短いせいか、そこまで機嫌が悪そうじゃない。



 メイドの人と一緒に料理を一つずつ出していく。そしてメイン料理──大きいから2つほどある料理を2人で運ぶ。


「なんだこれは?」


 カーデル家の人たちが、料理を見るなり目を丸くして驚いている。初めて見た、独特な形の形状。大きなパイの生地に、天を向って突き刺してある2.3本のマウセルイワシの魚。


 ううん……やっぱりグロい見た目してるわね。中には引いてる人だているし、しっかり説明しないと。

 そして、私はスターゲイジーパイについての説明をする。私の国の昔からある伝統料理。お祝いのときなどにみんなで食べる料理だということ。


「個別に食べるのもいいけど、こういったみんなで食べるときは、みんなで一つのものを食べるスタイルのほうが、絶対にいいと思うの」

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