第19話 私達の、隠し兵器

 みんな、おいしそうにパイ生地を食べていく。みんなの舌にあって、おいしく食べてくれて本当に良かった。

 生地から醸し出される甘酸っぱい香り、甘さがありながらもしっとり、さっぱりとした香り高いパイ生地。ジャガイモや卵、魚はそんな生地にあっているものを使用しあっさりとしたものに仕上がっている。


「しかし、どんな味の改良を行ったんだ? 今まで食べたことないぞこんな味は」


 レイノーは困り果てた表情ですっかり困惑している。今まで食べたことがない味に戸惑っているのがわかる。それを見たヒータが、自慢げに笑みを浮かべながら髪をさらりと撫でた。


「わからないようね。ならあなたはコックとしてはせいぜい2流ね」


「そうですね。レイノー、あなたの場合決められた枠の中で料理をおいしくすることはで来てもまったく新しい発想で、新しい味を出すことに関してはまだまだのようです」


「つべこべ言ってないでどんなイカサマをしたのか教えろ」


 機嫌が悪そうに言うレイノー。私たちは顔を合わせてからコクリと同じタイミングでうなづく。



「見せてあげましょうか、私たちがスターゲイジーパイに込めた工夫を」


「興味あるな。教えてくれよ」


 そして、その説明にこたえたのはコルル。


「スターゲイジーパイは、レイノーが言った通りそのままの味ではこの場に出すには色々と足りないものがあります。そのために味を追加するにあたって、一工夫入れました。この場の人たちが、あっと驚く方法で」


 コルルの説明に、周囲の視線が彼女に集中する。


「私たちは──考えました。昨日のレイノーの料理、あれを超えるにはどうすればいいか」



 思い出すわねぇ~~昨日の夜のやり取り。



「ヒータ、いいですか?」


 レイノーを越えられるかわからず、煮詰まりだった夜。私はアイデアを伝える。今までの経験を活かし、みんなで楽しんでもらうためのアイデア。足りないものを、工夫するための秘密の策。

 ごにょごにょ──。


「悪くないわね、それ」


「ぜひやってみましょう!」


「このアイデア、レイノーには絶対浮かび上がらない計算だわ。あっと言わせてあげるんだから!」




 そんな感じで作った料理。さすがにネタばらししてもいいかな。


「じゃあヒータ、秘密のあれ、教えましょう」


「そうね」


 そう言って、私とヒータは奥にある部屋へ移動。とあるものをもってみんなに見せる。


「こ、これを追加したのか?」


「そうよ」


「面白い発想だ。素晴らしいの一言に尽きる」


 カビール家の人たちは、それを見るなり大きく驚いていた。

「私が秘密裏に付け加えたもの。それは香りです」


「香り?」


「具体的にいうとですね──」


 ただ香りをつけたのではない。自信満々に、種明かし。


「砂糖。それも工夫を凝らした妖精たちの森で採れたといわれる高級な砂糖よ。主にリンゴや森などで生えていたなどの柑橘系の果物の木のチップをスモークにかけ砂糖に香りをつけたの。それもパイ全体に香りが出るくらい強く」


「香りをつけるだけで、においももちろんですが味まで変わったように感じる使用にしました」


「香りで──味を変えられるんですか?」


 ナサルの言葉に、自信をもって答えた。


「味っていうのは、舌だけでなく五感で感じるものなのよね。だから足りなかった香りをこうしてうまく埋めるだけでも印象って変わるものなのよ」


「確かに。香りだけでどこかさっぱりしたような味を感じる。甘さを基調とした生地──しかしくどさが全くない。他のジャガイモや卵、魚もそれに合うようにあっさりとした味付けの物を使っている。とても素晴らしい味だ」


「うん、いいね。すごい美味しい」



 みんな、おいしそうにパイを食べている。ブリタニカ王国では決して見たことがなかった光景、新鮮さすら覚えるしそんな光景を見ていると苦労したけど一生懸命作ってよかったと胸を張れる。本当にいい姿ね。


「そ、そんなことをしてたのか? なんだよそれ、そんな奴初めて見たぞ?」


 レイノーはただ驚いて言葉を失っている。おそらくだけど、香りをつけるという発想そのものがなかったのだろう。

 そんなレイノーに、すました表情でコルルが話しかける。


「食事の質というものはね、ただ味だけで決まるというものではないんですよ。楽しさ、香り──様々な要素によって決まるものです」


「う、うるせー。味で勝てないからって小細工に頼りやがって」


「あなたは確かに食事の専門家かもしれません」


「うっ……」



「しかし、専門家故に、味の良い料理を提供するという枠にとらわれすぎてしまっているような気がします。やったことといえば、味付けという枠で細かい味の改良をしているだけ。私に言わせれば小細工に頼っているのはあなたです」


「ケッ」


 コルルは、物静かながらも淡々とレイノーに自分の気持ちを告げていく。レイノーの表情がゆがんでいくのが私にもわかる。


「しかし私たちは違いました。料理ができるまで、どうすればストレスが少なくなるか、楽しんでもらうか。最高の時間にするにはどうすればいいか考え込んで──これが出した答えです」

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