第14話 レイノーの料理

 その後、厨房からは伝統料理のエスカルゴの匂いが出てきた。完璧な焼き色を持ったエスカルゴが登場。



 エスカルゴを口に含んだ瞬間、その味に心の底から驚く。


 ガーリックバターで味付けられ、パセリを刻んだものとよく調和している。ちょっとキノコに近い、独特な触感だけど慣れるとおいしいく感じた。


 うまみが詰まっていて、噛むたびに肉汁が飛び出してくるほどだ。こういう肉汁の出方、私大好き。


「流石はフランソワ料理。どこぞの世界一の帝国とは大違いだ」


「うるっさいわね」


 レイノーが自分で作った料理を食べながら、嫌味ったらしくそう言って、ちらりとこっちを見る。

 本当に、大きなお世話だ。イヤミなやつ。


 でも味は本物。それは客人たちの表情を見ればわかる。初めは見たことがない食材にそわそわしていて、恐る恐る口に入れてみる人たち。一口いれた瞬間、ほとんどの人が歓喜し笑みを浮かべていた。みんな美味しいと感じているのがわかる。


 そして牛ヒレの肉、一口フォークでとって肉の切り口よく見てみると、中の部分が薄く赤みを帯びている。口にしてみると、レアになっていて、触感がとてもおいしい。


「程よく火を通して、最適な食感になるようにした。何十人もの人間をサンプルに研究した結果──これが人間にとって最もおいしいと感じる結果になっている。どうだ、何か文句あっか?」

「うぅ……」


 何か言い返してやりたいという気持ちは確かにある。あるんだけど……。



 ピリッと辛みが強くて、でも甘みもしっかりあってコクがあるソース。ちょっと辛くて、客人の子供が嫌そうな表情をしている。でも、ハマる人や辛いのが大丈夫な人にはたまらないというのがわかる。


「いいじゃない。おいしい」


 カビール家の人たちも、子供たちを除いてとてもおいしそうに笑顔を取り戻して料理を食べていた。


「確かに、これは素晴らしい味です。素材もいいですし、それを生かす味付けも完璧です」


「ちなみに、どんなソースを使ったの?」


「ああ、バカなヒータのためにも教えてやるよ」


「ちょっと!」


「まずは海岸でとれた塩──それもただの塩ではなく温暖な海流からとった高級な塩。甘辛くいソースは、俺が森で探して、直接味見してこれだという素材ばかり使っている。それにエルフの森からとってきた香辛料やキングビー、つまり蜂の王様のハチミツなんかを試行錯誤して使った。どれも主張しすぎず、程よく肉やフォアグラとマッチするようなバランスを見つけた。バターだって牛の中でも餌にマジックフルーツやブドウなど栄養価の高いものを使っている特別な味だ。それを、何十時間も研究して、最高の味付けを実現した。まあ、わからないやつは辛いのがだめな子供くらいだな」


 自慢げに語りだすレイノー。鼻について何か反論してやりたいが、とってもおいしい。来客の人たちも気が付けば満足そうな表情になっている。

 なかなかに手ごわそうだというのがわかった。


「まあ、おいしかったぞ。よかったよかった」


「はい。ごちそうさまでした」


「まあ、こんなもんよ。俺様がちょっと本気を出せばな!」


 自信満々の表情をしているレイノー。まるで、すでに勝負は決まったとでも言わんばかりだ。


 そして、カビール家の人たちは要人たちに招かれ別の場所へと移動していった。私たちも、用意された部屋へと戻る。


 あの人たちの、満足げな表情。あれを超えるのは相当難しそうだ。ヒータも、コルルも複雑な表情をしていた。部屋で、侍女の人から出されたハーブティーをのみながら、私たちは話し合う。


「ちょっと、変えたほうがいいかもしれませんね……」


「そうね……」


 私達の料理 別に悪くはないんだけど、レイノーの料理と比べるとかぶってしまう部分がある。そして、あそこまで繊細な味を出せるかといわれると、自信はない。


「勝つには……今日の料理と差別化が必要ではないかと」


「差別化?」


「単純に同じ物を出すのではなく、こっちの個性を生かしたものを作るということです」


「そうね、私たちの強み──なんかをうまくいかせないかしら」


 ヒータの言葉に、ピンとくる。確かにレイノーにはないものを出すことができれば、立派な差ベルカになる。

 私らしい料理。レイノーにはないもの……私が持つ、物を生かして……。


 ピコ~~ン!!


 これならいける。私の脳裏に、一つのアイデアが浮かんだ。これなら、いけるかもしれない。それに私ひとりではこれはできない、2人の協力がどうしても必要になる。それに今からとなると、ちょっと大変なことになりそう。


「ちょっと話があるんだけどいい?」


 コルルとヒータに小声で話しかける。罪悪感からか、自然と声が小さくなってしまう。ごにょごにょと私の考えを話す。


「本当に? 面白そうだけど、できるの?」


「でも、面白いアイデアです。いいかもしれません」


「やってみましょう。このまま何もしないよりはずっといいわ」


 2人とも、疑い半分とはいえ了承してくれた。とりあえず、キッチンの方へ移動。

 時間がかかりそう……出来る確証なんてない。それでも、行くしかない。


「じゃあみんなで、勝ちに行きましょう」


「了解です」

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