第13話 レイノーの番

 食事の場に到着した私たち。きれいな海岸や、お花畑の絵画。宮殿の上から、街が見える景色。そして厨房が丸見えになっている作り。作りこまれているわね……。机にも、いろいろな花が添えられていて香りがするくらいだ。


 特に調理場と一体となっている作りは参考にしたいくらいだ。作り方からうちと違うみたいだけど。


「じゃあ料理作るからよぉ、よかったら見てみろよ。カッコよさに惚れさせてやるからよ!」


 そんなかっこいいことを言って、下の棚から包丁を取り出して、食材をそろえる。

 あくびをしながら、料理を始めた。あんなこと言った割には、どこかだるそうで面後臭がっているというのが手に取るようにわかる。


 緊張感ないな──。


「負けるなんて、微塵も思ってないわね」


 ヒータがあきれて言う。私も同じことを考えていた。


 下ごしらえに、食材を切って──調味料を取り出している。ソースを作るのかな?

 カビール家の人たち、言葉はわからないけど、チラチラとレイノーの方を見ている。


 メイドの人と一緒に、下ごしらえから肉を切って、食材を味付けして──。


「おい、味が違うだろバカ!」


「す、すいません」


 不機嫌そうに怒鳴って、メイドの人の頭を軽く殴る。痛そうに頭を押さえているメイドの人。レイノーは彼女を気にせず調理に戻る。嫌な感じの奴。


「空気が悪くなりますよね……」


 コルルの言う通りこの場の雰囲気が静まり返る。どこか、気まずそうな雰囲気。

 それからのレイノーの動きも、どこかもっさりしていてゆっくり。もう30分近くたっている。


「下ごしらえとか、してませんでしたね」


「ええ、だから時間がかかってるんですよ」


「おいおい、いつになったらできるんだよ」


「もう30分は立ってるぞ、早くしてくれよ」


 お客さんの中には、イライラして厨房のほうに叫び始める者もいた。確かに、ちょっと待たせすぎてる気がする。



 クロステーブルに肘をついて、あきれ顔になってヒータが言った。


「レイノーね、良くも悪くも凝り性で妥協しないのよ。味を追求するって点ではいいこともあるけど、お客さんを待たせて口論になることも時折あるみたいなの」


「ですね。でも、私たちも気を付けたほうがいいですね──待ち時間とか」


「ありがとコルル、明日はあらかじめ下ごしらえとか──しておきましょ」


「了解です」


 厨房に視線を移す。レイノーはヤジも気にせず怪訝な表情を食材に向けている。

 何度も味付けをしては、味付けをし直し──調整。それを何度も繰り返す。


「職人肌なんですよ。ほんのわずかな味のために、時間をかけて──」


「嫌いじゃないけど、待ってる人のことは考えたほうがいいわね」


 カビール家の人たちも、時間がたつごとに態度が変わっていくのがわかる。みんな、イライラしたり──露骨に足を動かしたり──。

 小さい子に至っては腕を組んで居眠りをしていたり、退屈そうな表情をしていた。


 時間がたって、切ったステーキの調理に入った。


「おい、いいもの見せてやるよ、見てみろよ!」


 厨房からレイノーが叫ぶ。私たちがレイノーに視線を向ける。ちょうど、大きなフライパンでステーキを焼いているところだった。


 レイノーは隣にあるワインボトルを持ち上げると、そのままフライパンに向かって口を傾ける。さらにブランデーも一緒に、あれ確かにアルコールが高いやつよね。


 焼いているステーキにワインをそのまま入れた瞬間、フライパンから大きく火が柱のように大きく吹き上がった。


 ジャァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!


 ワインとブランデーがフライパンに触れた瞬間、大きな音。

 フランベというやつだ。聞いたことはあるけど、初めて見る奴だ。すっごい迫力!


 コルルや、他の人たちも迫力のある音に一気に視線が厨房に行く。なんかかっこいい私もやってみたい!


「面白いこと考えるわねっ」


「でも、私もやってみたいです」


 カビール家の人たちも、おおっと声を上げ盛り上がりを見せる。静まり返っていたこの場の雰囲気が、一気に盛り上がりを見せた。それを察したレイノーがこっちを見てにやりと笑みを浮かべた。


「まあ、基本的なことさ。簡単簡単」


「そうですね。私たちもやってみましょう」


「そうね」


 この盛り上がりを生かさない手はない。練習は必要かもしれないけど、ぜひ習得しよう。そして、他の人と一緒に盛り付けを終えて調理は終了。

 席で待つことかれこれ1時間は立っている。迫力があるとこもあったけど、さすがに長い。


「できたようです、一緒に食べましょう」


 そして、メイド服を着た人たちが最初の食事を配り食事開始。華やかな宮殿の中で、美しいシャンデリアが揺れる中、贅沢な料理と白ワインを堪能し始める。


 シルクのテーブルクロスが優雅に広がり、出された料理に視線を向けた。


 茶色く光るソースがかかった大きな牛ヒレのステーキに、フォアグラ。そして野菜を炒めたもの。香りをかいでみるが、どうやらバター使って炒めたらしい。おいしそうな料理に舌鼓を打ちながら、周囲の人を見渡す。


 みんな興味津々そうに料理を眺めている。カビール家の人たちにとっては、初めての料理だもんね。

 目の前には、見事に出来上がったフォアグラが美しく盛り付けられている。


 そのフォアグラを一口頬張ると、柔らかな味わいと味わい豊かなソースが口いっぱいに広がり、舌の上でとろけていく様子が伝わってきた。

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