第12話 勝負開始
「おいしいのはわかる──ただこれレイノーの料理と差別化できるの?」
考えてみればそうだ。コルルはフランソワの貴族料理では一般的と入っていたが、これだとレイノーも同じような料理を出してくる可能性がある。
そう言った時に、レイノーのと差別化できるか不安ね。ただ、これ以外に代案なんてない。コルルはこれが一番フランソワ料理でおいしく可能性が高いと言っていた。
……やるしかない。
「とりあえず寝ましょ。明日本番なんだし、体力を回復させないと」
「そうね……」
そして、いったん眠りにつく。明日は、レイノーがおもてなしをする番。どんな料理を作るのか、本当に気になる。
朝起きて時間となった。
まずは、正装に着替えてから出迎えに行く。白いフリルのついたメイド服、うちとは柄が違って白と黒が基調でかわいい。思わず鏡の前でクルクル回っちゃった。
「アスキス様、気持ちはわかりますがもうすぐ時間です」
「あ、ごめんごめん」
「もう、遊びじゃないんだからまじめにやりなさいよねっ!」
2人に注意されてしまった……。でも、ちょっとくらい楽しみがあった方が楽しみが増していいと思うんだけどな~~。表に出て入り口の前へ。レイノーはまだいなかった。ほどなくして馬車が視界に入ったタイミングでレイノーも余裕そうな表情でくる。
「おはようございます。随分とギリギリの時間なのね」
「別にいいだろ、あいさつなんてメイドにでもやらせりゃいいんだし」
「相変わらずね……。相手が格下と認識するとなめてかかってギリギリに来たり遅れたりする癖直したほうがいいわよ」
「余計なお世話だ。そうやって、相手に上下関係を教えてやるのだって俺様の仕事なんだよ」
悪びれた様子なんて全くない、余裕ぶった表情。こいつはいつもそう、ブリタニカからも風のうわさで聞いたことがある。自分より下と判断した人間にはひどい無礼を働いたりすると。
平然と悪口を言ったり、時間に遅れたり。
「あなたはいつもそうです。そんなあなたに、私たちは必ず勝って魅せます」
「やってみろよ」
コルルも珍しく攻撃的になっている。それくらい性格が悪いってことよね。その鼻、へし折ってやる!
それから、王宮前に出て来客を待つ。両手をお腹の前で重ねてじっと待っている私たちに、レイノーは嫌味な笑みに、小悪党のように腰を曲げてポケットに手を突っ込んでいた。
やがて、ひときわ豪華そうな馬車がやってくる。
「恐れくあれです」
コルルの言葉に、ピリッと緊張感が増した。さあ、時間よ。馬車から、今回カビール家の人たちが下りてきた。
中にいた人と目があったタイミングで、頭を下げる。
男の人はみんな大きくひげを生やし、白い服に包まれ、そしてターバンを身に着けていく。
その後ろに、数人の女の人。確かこの国は一夫多妻制を認めているんだっけ。
「本日はわがフランソワ王国に入国いただき誠にありがとうございます」
「よろしくお願いいたします」
私とコルルの言葉に、私達やほかのメイドの人たちが頭を下げた。レイノー以外。
カビール家の先頭にいる、家長らしき人がこっちを向く。
「まあ、私たちが精いっぱいもてなしますよ。俺様の味にたっぷり酔ってください」
「……わかった」
にやりと、皮肉を込めて嫌味な言葉を言う。カビール家の人たちは、嫌そうな表情でレイノーを見ていた。
「ご安心ください。このレイノー様、たとえ属国であってももてなしくらいはしてやりますよ。お前たちのような非ベネルクスの輩でもそれなりに満足してやるからご安心ください」
「ちょっと失礼よ。取り消しなさい!」
カッとなったヒータがレイノーに詰め寄る。しかしレイノーは動じない。
「すぐカッとなるな。短気な奴だな。すぐに表情を一変させてやるからおとなしくしてろ」
そしてレイノーは両手にポケット手に突っ込んだままを先を歩いていく。
「ほら、ついて来いよ」
私達やカビール家の人たちはきょろきょろと互いを見合わせ、戸惑いながら彼の後をついていった。
「初めまして、私アスキスと申します。名前は?」
「私はカビール・マフムート・ナサルと申します」
一番先頭を歩いている、家長っぽい人に話しかける。年は50歳くらい、すらりと背が高く、彼がこの家の家長らしい。彼らの領地はまだ部族社会が色濃く残る地域で、家長を中心として政治を収める方法をとっているとか。
歩きながら、相手のことを少しでも知ろうと話しかける。
「みんな言ってるけど、フランソワ王国の人たちって俺たちを価値観が遅れた人間だと思ってるるよね。自分たちが一番優れた人だと思ってるよね」
「わかります。どこか独善的なんですよね、考えや行動が」
後ろにいる顔をヒジャブで隠した女の人も同調するように言う。反論できない。私達も、他地方と交流を取ったがそういう見下すような考えをした人はそれなりにいる。彼らも、それを感じ取って嫌な思いをしていたのだろう。どう対応しようか考えていると、隣にいたコルルが頭を下げてきた。
「コルルと申します。不快な思いをさせてしまい。申し訳ありません。明日は私たちがあなたたちをもてなしますので、必ず満足のいく食事をご馳走しますので……」
とっさの言葉にナサルたちはしばし戸惑ったあと、後ろの女性がコルルの肩に優しく手を置く。
「ありがとうございます。コルル様のもてなす料理、楽しみにさせていただきます」
流石はコルル、この場の雰囲気が一瞬で変わった。和んだ空気、これを無駄にしないようにしていきたい。
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