第11話 料理の完成
「それはエスカルゴといいます。フランソワ王国では高級食材として使われている食材です」
「なんか白くてふわふわそう。珍しい食材ね」
ちょっと触ってみる。小さい貝みたいで、中に身が入ってる。コルルによると、野菜やスカイフィッシュと一緒に、ミノタウロスのミルクを使って炒めたりするとおいしいらしい。
さらに、白くて手のひらサイズの肉のようなもの──、ちょっと生臭いかな。でも嗅いだことがない。おいしい素材みたい、早くこの食材を使ってみたい。楽しみ。
「これは、フォアグラといいます。魔チョウやエルフの森に棲んでいるアクアバードの肝臓で、珍味として有名なんです」
「へぇ~~」
「この辺りでは高級料理として有名なの。私も幼いときは冬至のお祭りや式典などで何度か食べたことあるわ」
「おいしいの?」
「ちょっと脂っぽいけど味は格別よ。ミノタウロスのヒレ肉やキャビアなんかと一緒に食べたわ」
へぇ~~ヒータ食べたことあるんだ。いいな、いいな。
フォアグラ──おいしそう。見とれていると、コルルが話しかけてくる。
「あまり時間がありません。おいしい料理を作ってから、ゆっくり味わいましょう」
「……わかったわ」
そうだ、味の調整とか初めての調理法とかがあるから早くしないと。急いで食材を広げて料理に取り掛かる。
他の食材は──フライドラゴンの肉にパン──野菜。それも北にあるケルグ神話の森にある野菜や果実。見たことあるし、味や調理法も知ってる。大きくいこを吐いて覚悟を決めた、行くしかない。
一通り食材の味と調理法などを覚えてから、調理が始まる。でも、本当に始めてみる料理ばかりで扱いが難しそう。
「後、おもてなしをするカビール家は砂漠の民で、宗教の教義上豚肉がNGなんです。気を付けてください」
「わかったわ」
そうだった、ベネルクス地方を出ると信じる神様や力、価値観が全く異なることがある。牛を神様としてまつる地方、メンツを重視する国。自分たちの考えでやったら確実にもめ事を起こすことがたくさんある。
相手の価値観を理解して、配慮することもとても大切なのだ。世界中に領地を持っている私達だからこそそれを理解している。
異国の地で全く違う食材、研究に細かい味の調整。さらに扱いがデリケートなものあって時間がかかりまくってしまう。
「ああっ、ワーウルフの肉はそのままだと癖が強いんです」
「ちょっと、スカイフィッシュは絶対火を通して。アナサキスっていう寄生虫がいるの」
調理自体も、戸惑ってしまうことが多い。
さすがに、時間がかかってしまう。夜になって、遅くなってもなかなか終わらない。
香辛料は──ブリタニカみたいに遠い国の物は手に入らないみたい。まあ、世界中に領地を持っている国なんてブリタニカくらいだし、仮に手に入っても商人を何人も通したせいで貴重品になってる。
仕方がない、この国にある香辛料で何とか工夫しましょう。あ、バルサミコ酢?? 酸っぱいにかな?
「もう日付が変わっちゃった」
「あっという間ですね」
大きくあくびをしてしまう。そろそろ完成させないと──もう案は決まっていて、あと少しで完成。
牛肉を焼いたときのいい香りが鼻腔をくすぐる。それを焼き終わったフォアグラが置いてある皿に乗せる。
「頑張りましょう。おおよその料理は決まりました。あとは細かい味の調整だけです。ふぁ~~」
正直、眠くなってきた。ふぁ~~あ。あくびが出てくるけど、こんなとこで眠るわけにはいかない。
まだまだ料理は発展途上。おまけに、こっちは初めて使う食材だって多い。レイノーは手慣れた食材を使えるのにだ。
とはいえコルルを見ていると、時折目がしょぼしょぼしているのか眠いのか、瞬きの回数が増えているのがわかる。
あともう少し、頑張らなきゃ。
そこに、ヒータが作った甘辛系のソースをかけた。近郊の野菜畑でとれた野菜にエルフの森でとれた辛味のする木の実を混ぜたらしい。これで完成。
フォアグラと牛ヒレ肉の、ソテー。
大丈夫、私達なら絶対できると思う。コルルもヒータも、最後まで一生懸命味付けや料理を研究した。試食だけで、ちょっとお腹いっぱい。
制約がある中でも、何とか納得のいく料理を作り出した。けど──本当ならまだ改良したい……。とはいえ仕方がない、短い時間でも、できる限りの結果を出すことだってプロの仕事だ。
そして、完成した料理をまずは眺める。
「おいしそうですね、香ばしい香りがまた食欲を誘います」
「そうね、早く食べてみましょ」
作った料理を3等分して口に入れる。
「フォアグラがとろけて、おいしい」
「脂がトロトロで、ソースもよく絡み合っていて最高じゃない」
ソースと肉を焼いたにおいは嗅いだだけで食欲をそそる香り。そしてフォアグラと肉。舌に触れただけでほろほろと肉がとろけていき、とろけそうなじわ~~っとした柔らかさ。
そして味──柔らかい肉とフォアグラから食材のうまみ、少し遅れてソースの味や塩のしょっぱさが後を追ってくる。奥行きがあって、今までにないくらいおいしい。
鮮やかな香りが素敵に味をまとめ上げている。
本当においしい。ブリタニカで食べたら一生貴族たちが病みつきになってしまうと思うくらいには……でもね、心配要素だってある。だって……。
美味しそうに食べてる2人に、言いずらそうに話しかけた。
「おいしいのはわかる──ただこれレイノーの料理と差別化できるの? 出してくるかもしれないわ」
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