第10話 勝負。絶対に負けない

 その言葉に、この場全体の視線がこっちへと集中した。唖然とするヒータと、レイノー。告げ口したコルルは、当然と言わんばかりのすました笑み。こう帰ってくると、理解していたのだろう。


 本来ここはレイノーの国。アウェーで私はフランソワのしきたりについてそこまで知らない。一応ヒータとコルルはもともと住んでた場所だからある程度はわかるだろうが。



 だから私が受ける義理はなかったが、ライバル国の挑発に何も返さなかったらさらに付け込まれて周辺国に変な告げ口をされることだってあり得る。


 それに、私が評価を受ければブリタニカのためにだってなる。彼ら『カビール家』との友好関係を気付けば、何らかのメリットにはなるだろう。


 貿易をしたり、彼らの領地にある資源を売ってもらったり。噂では砂漠地帯の領地に「石油」なる新しい資源が眠っているとか。


 コルルはただ主張するだけでなくこういった時に相手がどうすれば喜んでくれたり、身からになってくれるかをよく心得ている。

 そんなコルルなら、大丈夫だと思ったから私は頷いたのだ。コルルとなら、やれる。


「しょうがないわね、あんたたちだけじゃ心配だから私も力になってあげるわよ」


 ややあきれ気味にヒータが言うと、レイノーが大げさに笑った。


「マジかよ、何の冗談だよ。本当に俺様に勝つ気か?? この俺様の名前を知らないのか? それともやけになったのか?」


「やけになんかなってません。しっかりと勝てるという根拠があって、考えがあって勝負を挑みました。そして、その決断を変える気は全くございません」


「ケッ。わかったよ。その度胸だけは買ってやる。だが勝負は別だ、俺が圧勝してお前たちに吠え面をかかせてやるよ! 俺の料理の腕に酔いなこのバカトリオが!」



 きっぱりとした表情で、じっとレイノーをにらみつけるコルル。コルルのそういうところ、私大好き。そして厭味ったらしく言葉を返して、レイノーはこの場を去っていった。

 自分が負けるなんて微塵も考えていないというのが理解できる。その鼻、へし折ってやるんだから!


「自信満々ね」


「はいヒータ。しかし、彼の腕は本物です。勝てるのか心配なんですよ。さっきはレイノーがいる手前言えませんでしたが」


 確かにね。レイノーのうわさは何度か聞いたことがある。性格は悪いが、料理の腕は本物で周囲からはかなり称賛されているとか。彼の料理を口に入れたものは、みんな彼を陶酔してしまうくらいの実力があるとか。




「とりあえず、3人で協力しないと。ヒータさんにも、いろいろと力になってほしいのですが大丈夫ですか?」


 その言葉にヒータは一瞬びくっとなるが、すぐに冷静さを取り戻す。腕を組んで、目をそらしながら言った。


「いったでしょ。しょうがないわね、私も手伝う」


 ヒータも協力してくれるの。やったぁ! なんだかんだ言って、ヒータはいい子よね。


「ヒータ、ありがとうね。その言葉、とっても嬉しいわ」


「勘違いしないでよ、別にあなたたちの役に立ちたいとかじゃないんだからね。あんたたちが心配すぎて放っておけないだけなの。私優しいから、心配なのよ。私、心優しいから」


「はいはい」


 顔を膨らませて、やはり素直になり切れていないヒータ。いつかは、素直に笑ったりしてくれるのかな? それにはまだ、時間がかかりそうだ。

 こうして、私たち3人の戦いが始まった。絶対に負けないように、素敵な料理を作ってやるんだから!



 強くこぶし握って、強く意気込む。3人で拳を出して、ちょんと合わせた。


「3人でがんばろ──」


「大げさにはしゃがないでよ。恥ずかしいんだから」





 その後、コルルと一緒に彼女のことを知っている貴族の人に話を持ち掛ける。

 何とかキッチンを貸してもらえた。とりあえず、初めて見る食材も多いし味の確認と料理の試作ね。


 いきなり大変なことになっちゃって、正直軽くパニックになってる。


 でも、今更何を言ったって結果は変わらないし、それならやるしかない。がんばる。

 一度、来客用の部屋に案内される。うちよりも、豪華さでは劣るけど広々としていて落ち着きがある。


 一回荷物を置いて一休みした後、貸されたキッチンへ。調理場やこの場に備えられている食材に目を通そう。部屋の隅に大きな箱があって、それに食材が入っているんだっけ。木でできた四角い箱。開けてみると──ひんやりしてて冷たっ!


「ああ、冷蔵箱といいます。中は食べ物の保存のために、魔法で冷たくしているんです。


「何それ?」


 中を見てみると、卵に野菜など定番の食材のほかに、大きく切り取った生の肉や魚、普通ならすぐに悪くなっちゃうような生ものも多く入っていた。


 これ、大丈夫なの??


「特殊な魔力で、あの箱の中を冷やしているんです。あれがあるから生ものや新鮮な食材をいつでも使えるんですよ」


「へぇ~~便利な道具ね。ブリタニカにも売ってくれないかしら?」


「後で交渉してみます」


 うん、手に入ったらいろいろと便利そうだ。おいしいけど傷みやすいものとかを入れておくとかよさそう。とりあえず、1つ買ったら構造とかを調べてみて自分たちで作れるなら作ってみてもいいかもしれない。


 初めて見た食材に、戸惑ってしまう。きょどきょどしていると、コルルが1つ1つの食材について教えてくれた。


「何これ、貝?」

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