第9話 レイノーとの勝負

「げっ、なんであんたがここいるのよ」


 ヒータは露骨に、コルルもどこか嫌そうな表情で言葉を返す。


「何しに来たんだよ、観光か?」


 すらりとした長身、釣り目で黒髪の長髪の男。白っぽい高級そうな服を着ている。

 嫌味ったらしい目つきでこっちを見ていた。


 この人、見たことあるかな? 思い出そうと頭を回転させていると、コルルが話しかけてきた。


「レイノー、フランソワ王国で一番の料理人。です」


「ええ、味への才覚と料理の腕は一番といってもいいわ。腕は……性格は最悪だけど。本当に最悪だけど」


「はい、私も王国でもてなしなどをしているのですが、こいつには負けたくないという対抗心がたっぷりあります。料理でも当然。おもてなしだって」


 ヒータ、よほど大事なことだったのか2回言ったわね。

 不満そうに声を漏らすヒータとコルル。表情も不機嫌そう。そんなに嫌な奴なのかな。そんな風に考えていると、レイノーは髪をなでながらいう。


「おいおい、なんだよあっていきなり。俺の腕のすごさに嫉妬しちゃってんのか? この王国から逃げたボンクラ2人組がよぉ!」


「そんなことないです。まあ、あなたに負けるつもりは全然ないですけどね」



 おう……いつもは冷静で、強気な言葉なんて言わないアルル。そんなアルルが口を尖らせ、ジト目でレイノーを見ている。


 コルルがここまで敵意を持った態度をしているのは、初めて見る。驚いて、言葉を失っちゃう……。どうしよう……。



「子供のころ、私は少年だったあなたからおもてなしを受けました。まだ互位に子供だったというのに、完成度が高く感銘を受けて、そして揉めました。控室で、家族やお客さんの悪口ばかり言っていたからです」


「ああ、属国にした領地のカーデル家ことか。そんなものは、当然だ。俺がもてなしたあいつらはよぉ、地位が低いってのに頭を下げることもしねーで楽しそうにしやがって。おまけにため口。なんかむかついたんだよな」


「いいじゃないですか? あの人たちはもともと国外に住んでいた貴族でした。それを、彼らの領地をフランソワに強引に併合したんです。だから礼儀作法なんかはわからなかったですし、レイノー様についても知らないままでした。礼儀は足りないなら教えればいいですし、彼らだって自分たちの土地を勝手に併合されてフランソワについていい感情を抱いていませんでした。それでも、私たちのおもてなしについてはよかったと言ってくれて何よりだと、幼いころの私は思いました」


「そんな奴らのことなんて知らねぇよ」



「それがだめなんです。本当に相手に気持ちよくなってもらいたいなら、相手のことをよく知るべきです。しかし、あなたは自分の周り以外のことに無関心。それに彼ら『カーデル家』に対して腹が立ったから領地を没収させろと国王様に告げ口させようとしましたよね」


 そ、そんなことしてたの? 本当に嫌な奴ね……。

 それを止めたのが、当時助手を務めていたコルルだったとか。意外な過去を聞いた。へぇ~~。


「俺だって覚えてるよ。屈辱だよ、今でもぶっ飛ばしてぇと思えるくらいさ」


 その後、私は家族の都合でフランソワに行くことになって、あなたと会うことはなくなりましたが──その時の感情は捨てていません。いつかあなたを超える料理とおもてなしをする。そんな強い気持ちで今まで仕事を請け負い、技術を学んできました」


 そう言って、もう一度コルルは強くレイノーをにらみつけた。


「俺を超える? 面白い、そんなこと一生できるわけがないと、心の底に刻み付けてやるよ」



「よく言うわね」


「対決というのはどうだ? 俺様とお前らの格の違いというのを教えてやるよ」


「いいですわ」


「4日後、うちの属国の『カビール家』を2日ほどここに招き入れることになっている。

 1日目は俺が料理をふるまい、いろいろと漏れなしをするんだが、2日目は王族のところに行かなくならなきゃなっちまった。つまり俺は手が離せない、だから2日目はお前たちに任せる。それで属国野郎どもに聞いてどっちの満足度が高いかで競う。どうだ?」


 えっ?? 仮にも他国の私たちにやらせんの? 

 私達ならありえない。ヒータもあきれた表情になる。だって仮にも招待なんだし。


「ちょっと、仮にも招待してもてなさなきゃ受けないんでしょ。それを勝負みたいに扱って大丈夫なの?」



「どうせ属国の連中だ。お前なら失礼にならない程度のことはできるだろうし、多少なんか言われたって、港湾や税金徴収の権利を奪うとか領地でアヘンをはやらすぞとか脅せばいいだろ」


 とことん人を見下す奴ね。でもどうしよう、こんな事想定してなかったし……おろおろとしていると、コルルが真剣な表情で一歩前に出た。


「了解です。その勝負、受けましょう」


「おおっ、威勢だけはいいねぇ~~。今から言い訳でも考えておいた方がいいんじゃないか?」


 不安になって、コルルの肩をつかむ。


「大丈夫なの?」


「はい。この国のしきたりならわかってますし、ヒータとアスキス様だっています。力を合わせれば大丈夫です、それに……」


 コルルは顔を近づけて、ひそひそと耳打ちしてきた。


「ここでアスキス様が顔を出せば、ブリタニカ王国のことを知ってもらう機会になります。こいつらが彼らを見下している間に、友好関係だって作っちゃいましょ」


 なるほど……。


 意外と考えてるのね……。まあ、最初はびっくりしちゃったけどここまで啖呵切っちゃったら行くしかないでしょ。


「わかったわ。その勝負受ける!!」

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