第8話 王都サン=ジェルマン

 ヒータとコルルが嬉しそうに目を輝かせた。とっても嬉しそう。

 それから、あらかじめヒータのコネで予約しておいた馬車で道を行く。



 陸路の旅が始まった。馬車での異国の旅、とっても楽しみだわ。本当にワクワク。


 大きな街を抜け、小麦畑や草原が連なる平野へ。フランソワ王国は、農業が盛んな平野が連なる国。

 小麦畑が地平線まで続き、時折風車や大きな家屋が見える。雄大な景色、とってもきれいで素敵ね。


「新鮮でいい光景よね」


「はい、風情があっていいですね。ずっと見ていたいくらいです」



 ヒータは目を輝かせながら、コルルは微笑を浮かべながら言った。2人とも、故郷に帰還してとこか嬉しさの中に懐かしさを感じているに見えた。故郷というのに特別な感情を持っている。その気持ちはわかる、私だって同じ感情はあるから。


 私が手を振ると、農作業をしている人たちがご機嫌そうに手を振り返してきた。

 みんな、家族単位で暮らしていて仲がよさそう。こうした農村社会が多くを占めているのが、フランソワ王国の特徴だ。


「この辺りは、豊富な土壌が広がっている小麦畑が広がる地帯なんです」


「そうよ。地平線まで続く小麦畑、これがフランソワの特徴なのよ! いいでしょ」


「そうなんだ、絶景よねこれ」


 中には初めて食べたものも多くとても新鮮な気分。これが旅ってやつよね。

 そして、しばらく馬車で道を歩いていくと、フランソワ王国王都サン=ジェルマンへ到着した。


 入り口で警備の兵士に遭遇。身分証を見せる。当然許可が下りて私たちは王都の中へと入っていく。


 広い石畳の通り道が、中世ヨーロッパの美しい街並みを彩っていた。古城や壮大な教会、風情ある家々が、びっしりと建ち並び、その姿はまるで絵画のような美しさだ。


「流石、花の都と呼ばれることはあるわね」


「懐かしいです。王都サン=ジェルマン。幼少のころを思い出してついつい感傷に浸ってしまいますわ」


「そうね。私もかつて住んでいた街だからわかるわ」


 コルルとヒータは興味津々そうに街を眺めていた。故郷なんだもん、当然よね。


 街を囲む城壁は、頑丈な石造りで築かれ街を守る壁として堂々とそびえ立っている。

 少し狭い道へ進むと、細々と続く石畳の路地が街を縦横に走り、古い建物と交差していた。


 特に富裕層が住んでいるエリアの一つ一つの建物は、芸術的な彫刻や細密な窓ガラスなどで飾られ、その美しさを保っている。その重厚さが街の歴史を感じさせていた確か、500年くらい前から王都だったんだっけ。


 街の中心には大聖堂があり、その鐘の響きが市中に広がっている。

 美しい街並みを歩くと、石造りの巨大な橋が姿を現す。あたり一面に広がる美しい河川を横切るその架け橋は単なる交通手段ではなく、まさに芸術作品そのものだった。いろいろと、景色はきれいなのよね。


「ここを曲がると繁華街です」


「おおっ、賑やかそうでいいねぇ」


 街には活気あふれる市場もあり、生活の場としての賑わいを見せている。色とりどりの果物や野菜、香り高いハーブや香辛料が並び、人々の声とにぎやかな交流が絶え間なく繰り広げられる。


 サン=ジェルマンの美しい街並みは、本当に神秘的な存在だった。一つ一つの建物や装飾品が過去の栄光と歴史を語りかけ、人々の心を引きつける。その美しさはまさに魅了的であり、まるで幻想的な夢を見ているかのようだった。


「わぁぁ、すごい」


「はい、噂通りの美しい街並みです」


 伝統的で、花の都と言われるだけのことはある。

 キレイで、見ているだけでここに住みたくなってくるくらいだ。本当にすごい。それだけじゃなくて、規則的に整った街並みをしている。うちみたいに、無計画に乱雑に作られたわけではなく、相当計画されて作られた街だというのがわかる。


「懐かしいわね。ここでいろんな友達といろんな服を着て、おいしいものとか食べて、国民たちと対話を繰り返していました」



「それはよかったわ」


 特にコルルにとってはかなり思い出深そうな場所だというのが理解できる。目を輝かせて、この場所を懐かしんでいた。

 そして、馬車でコトコト整備された道を進むこと20分。目的の場所にたどり着いた。



 王都にたたずむ白亜の宮殿。城門をくぐると、カラフルなお花畑。とても見栄えがする。そしてお花畑を見渡せると様な形で白いテーブルと椅子。あそこでティータイムなんかができたら、とってもいい雰囲気かな。


 入り口にたどり着くと、入り口で警備していた兵士の人と、出迎え役っぽいメイドの人がやってきた。



「おおコルルではないですか? どうしたんですかいきなり」


「ちょっと事情がありまして──」


 コルルがメイドらしくかしこまったそぶりで頭を下げるとこっちの事情を細かに説明する。顔なじみなんだね。ちょっと素の表情が見れてうれしい。コルルはどこかうれしそうに表情がいつもより明るい。


「まあ、そんなことになっていたんですかぁ?」


「はい。そして、今回は急にここに来ることになりまして」



「でも、政務に携わるところまで行くなんてすごいですねぇ。プレッシャーとかとてもすごそうです」


「まあ、実際にかかわるわけではないので。いろいろ学ぶだけですから」


 そしてそんな世間話を楽しんだ後、許可を取り中へと入っていった。

 用意された部屋に案内され、部屋のドアの前に立ったその時──。


「なんだよコルルか、ヒータもいるな。観光にでも来たのかよ?」


 侍女の人と世間話をしていると、その背後からの言葉に3人とも声の方向へ視線を向ける。皮肉交じりの、嫌味な物言い。なんか嫌な奴ね……。

 誰かやってきて、話しかけてきたのだ。


「ああ──あなたですかレイノー」

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