第7話 いざ、フランソワへ
「構わないわ。ヒータだって、フランソワの人に何か言いたかったりしない?
そのチャンスでもあるのよ」
ヒータのことは聞いていた。フランソワの奴らから、逃げたなんて馬鹿にされたことを気にかけているとか。悔しいとか。コルルがヒータをじっと見つめてくる。
「フランソワ、行きたいんですよね?」
「と、当然じゃない。私は──自分の家を馬鹿にしたやつら。そういうやつに、一泡吹かせてみたい。それに──」
コルルの言葉に、肩をピクリと反応させた。ヒータの心が動いているのがわかる。うんうん。
「それに??」
「そういうの、とっても興味あるの。それに、私だっていろいろな貴族の人と会ったりしているからそういうつながりがあなたたちに役に立つ可能性だってある。どう?」
そう言って、ヒータは腕を組んでこっちを見てきた。だいぶ乗り気になってきたわね。そして物欲しそうな表情。
貴族社会にとって人脈は最も重要だ。
それによって、そもそも会えない人だっているくらいだ。ヒータのところのマクシム家
はフランソワでもブリタニカでもそれなりに名の通った家。
一緒に同行させておけば、何かいいことがあるかもしれない。
ちょっと感情的に複雑な面はあったけど、今は王国ことが最優先だ。よかったわ、ちょっとうれしい。
「わかったわ、一緒に行きましょう。ヒータ、意外と私たちのこと考えてくれているのね、ちょっと意外だわ」
「──いつも不機嫌そうな態度をとっていても、本当は私たちのことを考えてくれている。そんな不器用な優しさを持っているのがヒータだって、わかってますから」
ヒータ、いつもこんなんだけど本当はいい子だって知ってる。そのことを伝えるとヒータの顔が真っ赤になり途端に焦りだしてこっちから目をそらした。
「ちょ、ちょ、ちょっと。褒めたって何にも出ないんだからね。ただなんも考えずに国を出ていこうとしたあんたたちが心配なだけよ。私、こう見えても心優しいからあんたたちにいい出会いとか、スムーズにほかの貴族の人と接することができるようにとか、考えてあげるのよ。私優しいから、感謝しなさい! この私の慈悲の心に」
素直になり切れないところもとってもかわいい。もっと、ヒータがデレるところを見てみたいって思うことすらある。
「わかったわかった。ありがとうね、よろしく」
「ヒータ様の優しさ、受け取っておきますね」
「か、感謝しなさい。私は優しくてあんたたちのことを放っておけないのよ。私は心優しい女の子なんだからねっ!」
こうして、私たちはベネルクス大陸へと行くことになった。まずはフランソワ。それから、いろいろな国へと旅に出て──最高の料理を見つけて、それを生かしてブリタニカ王国の役に立てたい。
待ってて、最高の料理を国中に届けるから。
それからというもの、遠征の準備が始まった。
職務の合間を縫って、遠征の準備を進める。3人旅、いろいろ準備で忙しい。遠征先の貴族たちに手紙を送る。コルルやヒータのサインを使って。
大半は断られたんだけど、一部2人の名前に反応して泊めてくれるって帰ってきた。よかった。
「まっ、私は魅力的だからこれくらいは当然よねっ」
鼻を長くして天狗になるヒータ。
それから、言語の勉強。ベネルクス大陸は言語は同じラテル語が起源でも、河川や山脈が多々あり、それに隔てられて方言のように言語が微妙に違っている。当然文化や料理だって独自の物になっていることが多い。
とりあえず、生活で使う最低限の言葉は使うことができるようになった。これで向こうへ行っても最低限のコミュニケーションは出来る……多分。まあ、言語的にはベネルクス地方の言葉は似てるし、何とかなるでしょ!! なるなる。
そういった、下調べを行って少しでも彼らのことを知る。少しでも円満に関係を進めるのだから当然だ。仕事をしながらだったから、時には日付が変わるまで作業が終わらないこともあった。
私もコルルもヒータも、眠そうにあくびをしながら昼間は王立図書館に行って下調べ、夜は遅くまでその分の仕事。
「眠い、寝たい……」
「我慢よヒータ」
連日目にクマができるくらい、たまに居眠りをしてしまうくらい疲れた。
そんな生活をしばらく行って、これで準備は完了。
「さあ、行くわよ~~」
「楽しみですね」
「随分と久しぶりね、楽しみだわ」
大きな港で、移動用の船に乗った。ダルダネス海峡を渡って、大陸へ。
いよいよだ。不安な気持ちもあるけど、とっても楽しみ。国王様や要人たちに手をふて見送られる。
「ありがとね! 絶対おいしいレシピを見つけてくるから!」
遠くなっていくブリタニカの姿。いろいろあったけど、私はこの国と、国民たちが大好き。
みんなのために、きっちりと成果を出していきたい。
「ううっ……気持ち悪い」
ヒータは、船酔いするみたい。しばらく気持ち悪そうに船の上でぐだぁ~~っとうなだれたり、時にはリバースしたり。時折背中をさすって、優しく接した。
「あ、ありがと……」
ヒータがデレた、ちょっとかわいい。
大きな船で海を渡って、馬で移動して1週間ほど。
フランソワ王国の、ノルマルディーに到着した。ブリタニカより、どこかメルヘンできれいな雰囲気の街。私たちは、その姿に目を輝かせる。
「ファンタジックで、すごいですね」
「いいわねぇ~~」
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