第6話 素敵な、おもてなしの時間
ふわふわなパン、甘くてとろとろのクリームが絶妙にマッチしていておいしい。最高!
それに、これとミルクティーがとてもぴったり。それが、私が最高だと思ったおもてなし。本当に素晴らしい。
「いいじゃないこれ……じゃなかった。アスキスにしてはそこそこやるじゃない」
「はい、私もこの組み合わせはとてもいいと思っています」
美味しさに思わず笑みがこぼれる。これなら他国の貴族たちにも受け入れられてもらえそう。早く、もてなしてみたい。
「とっても美味しいじゃない。さすがコルルね。勘違いしないでよ、コルルとアスキスにしてはってこと」
ヒータも、素直になれない性格なのかちょっと顔を膨らましているけどとても嬉しそうだ。
最初は大丈夫かなって心配だったけど、こうしておいしく召し上がってくれて本当にうれしい。もっと、素直に喜べばいいのに。
「貴族クラスであれば、大半のベネルクス大陸ではこの程度の食事はできます」
「いいな……」
コルルの言う通りだ、逆に言えばそれなりの食事を堪能できるのは、王都では一握りの富裕層だけ。
このクラスの食事を用意できるのは王家だけ。こういった格差についても、もっとなくしていきたい。みんなが少しでも豊かな生活を送れるように、いろいろと活動していく必要がある。
そのほかにも、サンドイッチをおいしく食べる。魚のフライや生クリームとシロップ付けのオレンジをはさんだ奴はおいしかったけど、ピクルスとか酸っぱい漬物が入ったサンドイッチは微妙だった。うう……。主張が強すぎて私には向かない。
この辺りも、改良していかなくちゃだめね……。というか、みんなで食べる場所には向かないわね。好みだとわかってる人に、出す感じなのかな?
あっという間に食事が終わる。手を合わせて「ご馳走様」をした。よかったよかった。
「まあ、ピクルスとか主張が強いものは賛否が分かれますよね」
「わかるわ。ああいうのってすっごく好きな人とまるっきりダメな人に分かれていて料理として出しずらいのよね。ヒータみたいに、好きな人は好きなんでしょうけど」
苦笑いをしてヒータの表情を見る。ヒータは、ピクルスがいっぱい入ったサンドイッチをおいしそうに食べていた。私が食べれなくて戸惑っていると、いかにも食べたそうに目を輝かせて、でも素直になれなくて口を尖らせて言ってきた。
「何? 食べれないの? 仕方ないわねぇ~~もったいないし、代わりに私が食べてあげるわぁっ」
「さっきまでおいしそうに食べてましたね。食べたいなら食べたいってそういえばいいじゃないですか」
「うるっさいわね! 別にそういうわけじゃないし」
そして、私が与えたサンドイッチをおいしそうに食べたのだった。
食事が終わって、一息。大きく気を吐いて椅子に体重を預ける。一休みしよ。
「とりあえず、いい時間になりましたね」
「まあ、あんたにしてはいいじゃない。み、み、認めてやるわよ」
「はいはい。ありがとうね」
「食事のほう大変おいしかったです。このヒータ、あなたたちの実力を認めさせていただきます。と訳せばよろしいのでしょうか?」
口を膨らませているヒータ、コルルはそれを理解しているかのように涼しげな表情で突っ込む。ヒータは口をとがらせて、いかにも不満そうな表情をしている。さすがはコルル。メイドとしての経験が深く、ヒータみたいな癖のある人の扱い方を心得ている。
経験深さがすごい。
「何とか、うちもこれクラスの食事は提供したいわね」
「そうですね」
大変な道のりだけど、何とか実現させていきたい。
それから、話は遠征についての話題になる。一通り片付けが終わると、部屋のソファーに移動しコルルが話しかけてきた。
ヒータは、ふかふかのソファーに体を預けてとっても気持ちよさそうだ。
「それで、本当に世界中に旅をする予定ですか?」
「うん……予算の問題もあるから世界中ってわけにはいかないけど……まずはベネルクス大陸に行きましょ。フランソワとか、バスクとか」
「ですね。文化的にも近いですし、私の人脈を生かせることも多いです。いい人を紹介出来たら幸いです」
そんなことをコルルと話す。ただ、コルルの人脈だけだと限界がある。腕を組んで考えた。
コルルはあくまで従者の家系。本当なら現役の貴族の人が欲しい。ただ、料理について理解がある人だと限られる、それも、他国につながりが深そうな人。
最低でもあと一人くらい、交渉とかができて貴族の中で顔が効いて、味方になってくれそうな人。いるかな……そんな風に考えたその時。
「ねえ、ちょっと話があるんだけどいい??」
ヒータが、恥ずかしそうに小声で話しかけてくる。
「何?」
「私も、一緒に行きたいんだけどいい? 勘違いしないでよ、あんたたちだけじゃ不安だから連れ添ってやるだけよ、感謝しなさい」
そう言って、ヒータは腕を組んでこっちから目をそらした。ヒータも行きたいのね……とってもわかりやすい。
「私たちを笑うやつがいっぱいいるのよね。王国から逃げた逃げ虫とか──本当に、悔しいのよ。私の家族がなめられてるみたいで」
「それはわかります」
ああ、コルルも同じ元フランソワにいた身。革命のため、身の安全のために仕方なくブリタニカ王国に逃げたからわかるんだ。互いに理解できるもの同士気持ちがわかるのだろう。
コルルだって、ヒータだって、互いに気持ちがわかる人がいたほうがいいもんね……。じゃあ決まりっ!
にっこりと笑顔を作って、ウィンクをしていった。
「ヒータ、一緒に旅に出ましょう!」
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